九 襲撃
ビアンカは夕食の仕度を終え、ラファエルの帰りを今か今かと待っていた。柄にもなく気分が高揚しているのには理由がある。今日の出来事を早く話したいのだ。
昼間にビアンカは、翼竜のレイヴンの様子を見にトゥラースの森に赴いたのだが、そこで驚くべき光景を目の当たりにした。
なんとレイヴンは鹿や馬、栗鼠などの草食動物に取り巻かれ、その中心で木漏れ日を浴びて気持ちよさそうに眠っていたのだ。そこには未知の肉食獣に対する警戒や恐怖というものが微塵も感じられず、むしろ熊や虎などの肉食獣から守ってもらおうとレイヴンを頼っていることが伺えた。
まだまだ小竜にも関わらず、レイヴンはきっと偉大な竜となる。そんな大器をビアンカは感じたのだ。
「今日は帰りが遅いのですね」
一人ごちるビアンカ、その手は愛おしそうに自らのお腹を愛でている。
近頃はラファエルがいない間の独り言が増えている。いや、独り言でなく語りかける時間が。
穏やかな気持ちの中、愛する人の帰りを待っていたビアンカだったが……。
不意に異物的感覚がビアンカの頭を過ぎった。
それは戦場で培ってきた経験から来る危険に対する警鐘であり、平時においても決して無視してはならないもの。直感の赴くまま、ビアンカはテーブルの下に潜り込んだ。
まさにその直後、女の子に貰った花が飾られている窓が音を立てて砕け散った。
室内に散乱するガラスの破片に次いで、躍り込んで来るフードマント姿の曲者たち。
突如の襲撃。
それに際してもビアンカは冷静だった。テーブルの上にある食器を掴むと天井の照明に向かって投げつけ砕いたのだ。
暗転する室内。ビアンカは部屋の隅に立て掛けられているレイピアを素早く手にし鞘から抜き放った。
奇襲を得意とするビアンカは奇襲を仕掛けられた際の対処法も心得ている。暗黒の戦場に引きずり込むことで敵の優位をそのまま自分に置き換えるのだ。
この暗闇において唯一全てを映すビアンカの碧眼が鋭い蒼光を放ち、襲撃者を睨み据える。
それを見た襲撃者の一人がくぐもった声を発した。
「その瞳。なるほど、お前がヴェリアに名高い碧眼の死神か」
「何者……」
「狙いとは異なるが、貴様にも死んでもらうとしよう」
その言葉と同時に四人の影者が襲い掛かってきた。




