八 遭遇
ある日の宵。
妓館帰りのフランク・ベルツは軽快な音色の口笛を響かせながら暗い夜道を歩いていた。
ラファエルに咎められたが、生憎それで言う通りにするフランクではない。この男にはこの男なりの信念のもと妓館通いをしている、らしい。
ふとフランクは足を止めた。口笛を止め、それにしても、と思考に耽る。
ヴェリア王国の第一部隊は『不敗の第一部隊』の異名をとるヴェリア王国の顔とも言える部隊だ。その隊長の座に自分が就くわけだが、はてさて。隊長となった後も嬢達に逢いに行っても良いものか。
端正な顔をしかめてフランクは一人「うーむ」と唸る。流石に軍の規律規範を著しく違反するのは憚られるな。と、思う一方で、いやいや嬢達に逢う事に何ら後ろめたい事はないな。と思い直す。
そして天秤は振られたようだ。
笑顔を浮かべて軽快にステップしながら、自宅への近道となる裏路地に入る。
「俺が新しい規律を作ろう! うん、そうしよう! 今までの考えは古いのだ。あの堅物総督も一度連れて行ってみよう! あー、でもそうするとビアンカの怒りを買うことになるなぁ」
人通りの少ない場所ゆえ大きな独り言を発しながら、もう一つ路地を曲がった時だった。
「あん?」
ピタリと歩みを止めるフランク。その狭い裏路地には先客がいた。
目深に被ったフードで顔は見えないが明らかに一般市民とは思えない怪しい者が三人、フランクの行く手を阻むようにこちらを向いて佇んでいる。
「なんだ、お前ら。盗みの計画か? 生憎、お前らみたいな怪しいのは見逃してやれねえぞ」
フランクが敵意を向けて言い放つも、その者達は無言のまま微動だにしない。
「三人揃って口がねえのか? なんとか言ったら……むッ!?」
不意の殺気。瞬時に反応したフランクは、背後からの斬撃を皮一枚で避けた。屈んだ頭の上を冷たい刃が掠める。
躱すと同時に剣を抜くフランク。しかし体勢を整える間を与えず、前方にいた三人がそれぞれ得物を手に襲い掛かって来た。
「ちぃッ!」
狭い路地で左右の壁を利用し上下左右から襲い掛かる襲撃者たち。その身のこなしは熟練の影者そのもの。フランクとはいえ四人を相手にする事は厳しい。
絶え間ない連撃に晒され、さしものフランクも紙一重の防戦を強いられた。
「この俺を殺ろうだなんて甘いんだよ!」
路地内で四人に挟まれた状況に活路はないと見たフランクは、羽織っていたマントを前方の三人に向けて放おった。
目くらましのマントは一瞬で切り裂かれるが、ほんの一瞬、僅かに生まれた隙を付き、背後の影者に怒涛の攻撃を仕掛ける。
フランクの剣をダガーで受け切れないとみた影者は壁を蹴り上空に逃れた。
それはフランクの狙い通り。
路地の入り口付近で向き直ったフランクは四人の襲撃者たちを正面に据える事に成功する。
「これで挟み撃ちはできねえ。さぁ、掛かってきな」
とはいえ、流石にこの手練四人を相手取るのは難しい。どうやって出し抜くか。
しかしフランクの思惑は外れた。影者達は何故か得物を下ろし臨戦態勢を解くと、風のようにその場を去っていった。
静寂が戻る。窮地を脱したフランクはどっと息を吐き出し、肩を上下させ荒い呼吸を繰り返した。
なんだ……あいつ等は。ただの盗っ人にしては身のこなしが尋常じゃねえ。一体何者だ? それに、状況は圧倒的に俺が不利だった。口封じを狙うなら見逃す理由がねえ。
クソッ、とにかく、先ずは軍部に知らせる事が優先か……。
そこまで考え、フランクはハッとした。それと同時に冷たい汗が背中を伝う。
フランクの勘が警鐘を鳴らす。有り難くないことに勘はよく当たる。特に悪い方の勘は外れる気がしない。
「クソッ! 嫌な予感しかしねえぜ!」
フランクは一目散に駆け出した。




