集落の日常と魔法について
朝起きると、見慣れた天井だった。
母、ステラは釜戸で朝食を作っていた。
メニューはトーストに目玉焼き…なんてことはあるはずもなく、出てきたのはよくわからない穀物の粉を練って焼いたものだけ。
あとは、殺菌のためにいちど沸かせた水。
白湯ともいう。
年寄り以外の男衆は誰一人としておらず、後に聞いたところ、まとまった稼ぎが入り、ある程度の物資を集落に入れたら、残りの金は男衆で分け、集落の外で暮らすのだとか。
理由は、集落が盗賊の集落だと気づかれないためらしい。
では、男衆が留守の間に、拉致されてきた女は逃げ出さないのか。
そもそも、この世界では女はほぼ一生、生まれた町や村で過ごすらしく、血が濃くならないように、近隣の町や村に輿入れすることはあっても、やはりその後輿入れした先の村から出ることはないらしい。
だから拉致された女も、元いた村が壊滅している以上、帰る場所などなく、盗賊の集落で暮らしていくしかないのだ。
また、無法者の盗賊にもルールがあり、略奪の際には男や年寄りは殺すが、無抵抗な若い女や子供には極力暴力は振るわない。
子供は商品になるし、ましてや若い女は自分達の妻にするからだ。
そして、男衆がいない集落のコミュニティも、脱走者が出ない一員となっている。
女衆の中には当然、他の村から拉致されてきた者がいるわけで、その女達が新しく来た女達の面倒を見ることで、ストックホルム症候群に似た精神状態になり、お互いに依存し合うようになるのだ。
といっても悪党は悪党、価値があるから優しくするのであって、老人、男、子供の母親は皆殺しにする。
遺恨の根を断つためだ。
従順な女と売り捌く子供だけが、生き残るのだ。
まさに、修羅の世界だ。
女が逃げ出さない理由はまだある。
これはごく稀なことだが、オオカミやクマなどの動物、そしてごく稀に魔物が現れるとのこと。
オオカミやクマは基本的に人を恐れるので、よっぽどのことがないと集落を襲わないが、やはり単独で森のなかで行動してると危ないらしい。
あと魔物だが、滅多に現れることは無いが、魔物は魔法を使うらしい。
大人達から聞いた話をまとめると、魔物は魔力を持ち、魔法を使える動物で、普通に動物からごく稀に生まれてくるらしい。
しかし、知性と身体能力は桁違いで、基本的には身体強化の魔法が使え、たとえウサギの魔物であっても成人男性を手玉に取るらしい。
そして、当然魔法が使える人間もいるのだが、ほとんどはわかった時点で国が抱え込んでしまうらしい。
ちなみに、驚いたことにバルボアが魔法を使えるらしく、
それが、バルボアが盗賊の頭領たる理由で、これだけ暴れ回っておきながら、国から討伐されない理由らしい。