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ヲタッキーズ123 大脱獄

作者: ヘンリィ

ある日、聖都アキバに発生した"リアルの裂け目"!

異次元人、時空海賊、科学ギャングの侵略が始まる!


秋葉原の危機に立ち上がる美アラサーのスーパーヒロイン。

ヲタクの聖地、秋葉原を逝くスーパーヒロイン達の叙事詩。


ヲトナのジュブナイル第123話「大脱獄」。さて、今回は前シリーズ以来のヒロインの仇敵が刑務所を脱獄、復讐のために秋葉原に潜伏します。


懸命の捜査の末、脱獄囚は次々逮捕されますが、ヒロインの不可解な言動に導かれるかのように、ついに仇敵はヒロインの下へ。しかし、ソコで彼女が見たモノは…


お楽しみいただければ幸いです。

第1章 女1人に男が2人


エントロピー。ソレは無秩序の度合いを示す尺度だ。エネルギーは、非可逆的に熱へと変換される。

混沌、そして腐敗。しかし、ソレらは全てバランスを求めるが故のコト。万物は均衡を求めている…


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


荘厳なミサだ。僕はステンドグラスの前で神の言葉を告げる神父をチラ見しながら、ヲヴァ(ンゲリオン)のネタバレ本を読んでいる。


「修辞的過ぎるょ。ミサにリモート参戦してるせいかな」

「相手が意欲ある神学徒なら、コレで良いのょ。ごめんなさい、私が車椅子だから…でも、私は好きだわ。もっと非可逆熱の話をして?テリィたん」

「"言語が機能しない世界においてさえ、数学と物理は万物を浮き彫りにスル。そして、エントロピーは、進展の尺度として物語の境界線、即ち始まりと終わりとを定義する"」


ソコまで読み、フト浮かんだ疑問を口にスル。


「エントロピーは、時間の流れる方向を選べるのかな?」

「いいえ。時間は矢。非可逆ょ」

「時間は矢か。無相関のモノ同士が相互に作用し、共に進化して逝く」


結局、エントロピーとは、非可逆性を示す時計だ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆

 

闇に沈む黒い壁。鉤針が引っかかる微かな音。オレンジ色の囚人服を着た3人が攀じ登る。

サーチライトをやり過ごし、壁の上へと顔を出した瞬間、視野一杯に東京の夜景が広がる。


警報だ!


飛び降りるようにして"塀の外"に着地、用意してあった赤いコンバーチブルに飛び乗る。

助手席のコーラとホットドッグを頬張り、囚人服を投げ捨てて岩本町ランプから首都高へ。


脱獄犯の1人が古新聞の切り抜きを手にスル。


"SATO, 連続殺人犯を処刑"


隅の囲み写真に写ってるのは…ミユリさんだw


第2章 赤いコンバーチブル


蔵前橋通り沿いに非常線が張られている。


「空から見ると秋葉原を指す道標みたいだ」

「まるでパンくずの道しるべね」

「ヘイ!ヲタッキーズ!」


ムーンライトセレナーダーと交差点に舞い降りる。

検問中のラギィ警部がやって来る。万世橋(アキバポリス)の精鋭。


「ムーンライトセレナーダー。3人が塀を越えて脱獄した。逃走車両は旧型のコンバーチブルでホイールベースが長いtype」

「あら。絞り込めそうね」

「囚人服じゃ逃亡しないだろうから、検問を抜いた後で着替えてルンだわ」


アキバに"リアルの裂け目"が開いて以来、超能力に目醒める腐女子は後を絶たない。

ムーンライトセレナーダーは僕の推しミユリさんがスーパーヒロインに変身した姿だ。


「コレを見てくれる?」


ラギィが手にしてるのは…白ハンカチを結んだハシゴ?


「このハシゴで蔵前橋の塀を越えたの?何コレ?」

「デンタルフロス」

「え。糸ようじ?良く集めたわねぇ。暇なの?」


余暇の有効活用だw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「恐らく主犯は元メイドのバック・リボン」

「他の2人を教えて」

「ムーンライトセレナーダー…ま、良いわ」


万世橋(アキバポリス)に捜査本部が立ち上がる。

モニターに脱獄した3人の画像w


「マクロ・フリンは3流の犯罪者です。最初の麻薬取引で失敗して蔵前橋行き」

「スタートアップの95%は1年目で潰れる典型的な例ね」

「イケメンだわ…」


整った醤油顔にエアリが溜め息をつく。

あ、エアリはヲタッキーズの妖精担当。


「あら。そうかしら?」

「え。文句アル?」

「次、お願い」


同じくヲタッキーズのマリレの突っ込みを遮るラギィ。


「レイフ・ラスキは、あらゆる人種に雇われてます。福建やマニラ、ウラジオストックの地下社会と繋がりがアル」

「専門は?」

「彼はヒットマンです。6人を葬ったげど、その内4件は、証拠が出なかった」


驚くラギィ。


「彼に仲間はいるの?次元みたいな相棒とか」

「ICPOのレポートでは不明」

「…普通の脱獄事件だと思いましょう」


ムーンライトセレナーダーがつぶやく。


「普通なら先ず恨まれてる人間を調べるのがtheory」

「ラギィ、ソコは飛ばして…blood typeは?」

「全員"RED"。超能力者はいません」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


捜査本部のギャレー。ヲタッキーズの妖精担当エアリとロケットガールのマリレの会話。2人共メイド服にレオタード。


「エアリ。ミユリ姉様、いつもと様子が違うけど、過去に何かあったのかしら」

「あのね、マリレ。脱獄犯の主犯リボンは、過去に秋葉原の王になるコトを夢見たヲタク、ジルバの推しメイド。ジルバは、推しメイドだったリボンと交際。だけど、ジルバの父親は暴力的で、交際を知って彼を殴った。そして、ジルバは…父親を殺害」

「恋の病いって奴?」


さらに話は続く。


「その後、強盗を繰り返しながら2人は結婚」

「まぁ素敵」

「最後は、腐女子を超能力者へ人工的に覚醒させる"覚醒剤"の密造所を襲って爆破した」


ワイルドだw


「その後、捕まったリボンに、テリィたんは取調室で何かをしたらしいの」

「何かって?」

「わからない。でも、その後リボンは病院に行き、ジルバは死亡」


驚くロケットガール。


「死亡?」

「リボンの入院後、単独で逃走を続けたジルバは、車に手榴弾を積んで、封鎖線に突っ込んだ。ソレを覚醒直後のミユリ姉様が"雷キネシス"で仕留めた」

「犯罪者には良くある最期ね。で、姉様は罪の意識でも?」


屈託のないマリレ。エアリは溜め息をつく。


「あのね。誰にでも自分自身に疑問を持つ時がある。でも、姉様はそーゆー時に限って答えを持ってなかった」

「スーパーヒロインに覚醒直後って、誰でも情緒不安定になるモノょ。私も…」

「OK。貴女はマクロ・フリンを調べて。奴の茶色い瞳に注意ょ夢中にならないで」←


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ルイナは、史上最年少で首相官邸の首席アドバイザーになった超天才。彼女のラボはSATO司令部に併設してる。

南秋葉原条約機構(SATO)は"リアルの裂け目"からの脅威に対抗スル防衛組織で、ヲタッキーズもSATOの傘下にアル。


で、ルイナはSATOの顧問もやってるワケだ。


「あら、ルイナ。もう帰ったと思ったわ」

「スピア、覚えてる?私が思いついた複素多項式の新しいアイディア。知らない内に誰かが特許をとってるw」

「中華な国の党直轄の企業グループでしょ?トップは北京の覚えがメデタイ土木技師で、リーマン予想を提案してるらしいわ」


話し相手のスピアは、ルイナの相棒でストリート育ちのハッカー。いつもジャージの下はスク水だ。アキバっぽいょねw


因みに、ルイナは"車椅子"にゴスロリがトレードマーク。


「どうかと思うわ。集団でアイデアを練るなんて有り得ない。思想の歴史にも反してる」

「でも、ルイナ。チームで取り組む成功例って意外に多いわ。例えば、美術なら、ピサロ、モネ、ドガ。科学なら、ワット、ダーウィン…」

「オッペンハイマーや新儒学者もそうか…ねぇ私達もシンクタンクを立ち上げない?月に1度、みんなの考えを共有スルの」


幼い頃から超天才として育てられたルイナには幼馴染がいない。ルイナにとりハッカーのスピアは社会との唯一の接点。


「そうね。早く作ればよかったわ」

「手薄な化学や機械工学の分野は、アキバ工科大学から呼ぼうと思うの」

「他にも良い人がいるわ」


ルイナは小首を傾げる。


「あら。誰?」

「もちろん、テリィたんょ。長年、秋葉原にいて、ヲタクの視点を持ってる」

「テリィたんか…」


ルイナは、数秒間推し黙り、オモムロに口を開く。


「私は、反対ょ」


ソコへヲタッキーズの妖精担当エアリとロケットガールのマリレが入って来る。手には白いデンタルフロスのハシゴw


「ねぇルイナ。デンタルフロス、何を使ってる?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


フロスについての検討を超天才に依頼したエアリ&マリレは万世橋(アキバポリス)の捜査本部に戻る。


「エアリ。マクロ・フリンの恋人デアン・トゥルが、蔵前橋の重刑務所に頻繁に面会に訪れてた。ところが、フリンの脱獄後は、全く接触した様子がナくて、今も黙々と働いてる。ちょっと職場訪問してみない?」

「OK、マリレ。で、彼女の仕事場は?16番埠頭?16番って遣独U-boatのブンカーじゃないw何をやってるの?彼女」

「港湾労働者。まぁ沖仲仕って奴?」


沖仲仕は差別用語だw


「マクロ・フリンって、画像じゃ柔な感じだったけど、あーゆーのが強い女にモテるのね。でも、彼女との出会いは?」

「刑務所の文通サイトょクスクス」

「あ。マリレ、また私をカラカウつもりね?」


ところが、マリレは慎重だ。エレベーター待ちのボタンを推してニヤニヤ。


「ダメダメ。ココで滑ったら終わりだモノ。ミユリ姉様と相談してから、次のジョークを考えるわ」

「しばらく貴女とは話したくナイわプンプン」

「あ、姉様!」


エレベーターのドアが開いて出て来たのは…


「ミユリ姉様、マクロ・フリンの恋人ですが…」

「わかった。お願いね」

「え?」


振り向きもせズ、歩き去るムーンライトセレナーダーw


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


神田リバーに面した遣独U-boatの専用ブンカーに急ぐエアリ&マリレにルイナからリモート会議のリクエストが入る。


「デンタルフロスのハシゴだけど、ロープの密度を見る限り長さは5.5〜5.8kmだったわ。一方、通常フロスは1箱18〜135m。平均的な45m入りのフロスなら127箱分にナル」

「…貴女達には、いつも驚かされるわ。因みに、蔵前橋に限らズ、フロスの刑務所内への持ち込みは禁止ょ」

「でしょうね。頸静脈を切るのに最適だモノ」←


自殺にも他殺にも使えるw


「で、この後は"シンプレックス法"で、ロープの製作期間を計算してみるけど…隠れて作業したなら時間は限られるわね。フロスの容器も隠しながら捨てなきゃだし」

「OK。その"フロス数学"で脱獄作業の開始時期が分かるのね?脱獄囚の行き先まで何とかならないかしら」

「"フロス数学"って何ょクスクス」


苦笑スル超天才。


「脱獄計画に数カ月かけてる。バック・ジルバ達が全てを考えたとも思えないし…」

「え。ジルバ?マリレ、今、ジルバって言った?」

「あら。ミユリ姉様から何か聞いてないの?」


車椅子の上で首を振るルイナ。軽く場が凍りつくw


「昨夜の出来事だから未だ話してナイだけょ」


ちぃママ役のエアリがすかさずフォロー。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同時刻の"潜り酒場(スピークイージー)"。


御屋敷(メイドバー)のバックヤードをスチームパンクに改装したらヤタラ居心地が良くなり常連が沈殿…させズにミユリさんと差しw


「また冷静なフリをスルのかい?」

「リボンの脱獄は避けられませんでした」

「そして、リボンは足取りを隠そうともせズ、ミユリさんを狙いに来てる」


リボンの敵は…ホントは僕のハズだがw


「タダの脱獄犯です。捕まえて、また塀の中に戻すだけのお仕事です」

「そうだね。でも、自分にウソはつかないで」

「…テリィ様」


僕は、ミユリさんの肩に手を置く。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


神田リバー沿い佐久間河岸の地下には、太平洋戦争の頃から遣独U-boat専用のブンカーがある。

U-boatが原子力潜水艦となった今日も、当時の契約に基づいて潜水艦の往復は続けられている。


「デアン・トゥル?」


出航を間近に控えたU-007。トレーラーの横で荷物を背負う"高身長デブ専"大女に声をかけるヲタッキーズ。


「ヲタッキーズょ。少し話を…」

「くたばりやがれ!」

「あら?」


背中に背負っていた大きな木箱を楽々と放り投げるデアン。

箱は軽いのか…いや大きな音を立て壊れた箱の中から銃器…


軽くない!大女が怪力なだけだ!


「きぇぇぇ!」


不思議な喚声と共に"どすこいポーズ"のママ突進したデアンは、驚くエアリを突き飛ばし、そのママのしかかる!


「きゃー!助けて、マリレ!」

「殴っちゃえば?」

「女の子ょ?ってか重くて…死ぬ!」


マリレは大女の背後から殴りかかる。大女は一発で気絶w


「動けない!マリレ、手を貸して!」


マリレは応えズにスマホを取り出し写真を撮るw


「コレで色々お返し出来そうね」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


その同時刻。神田リバーの対岸にある古いモーテル。


「グロック9ミリにワルサーP22。ベレッタ25口径にサイレンサーをつけたら完璧だ。ダンウェッソン357の6連発は凄いぞ…ドレでも好きに触ってみな」


安いベッドの上に拳銃が無造作に並べられる。


渡された拳銃を確かめる犯人。大男が肩を叩く。


「好きな奴を選べ」


並べられた拳銃を次々と手にスル痩せた女。

傍らの長髪の男が肩を叩き、ニヤリと笑う。


「デザートイーグルか。なるほど」

「デカい銃だな」

「かなりの代物だぞ、リボン」


その女は、醒めた表情でつぶやく。


「色々と計画がアルの」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


万世橋(アキバポリス)の取調室。大女は貧乏ゆすり。


「証拠もナイのに逮捕かょ!」

「証拠?誰が蔵前橋重刑務所の外に逃走用のコンバーチブルを用意したの?」

「あのね。アタシの車はピックアップだから」


取調べのヲタッキーズは遠巻きにしながら話すw


「知ってるでしょ?今じゃクシャミ1つでDNA鑑定が出来る。逃亡の共犯は懲役10〜15年。この5年の違いは、証拠を固められる前に自白したか否か。あと…最近は笑顔がカワイイかどうかも割と参酌される」

「でもね。貴女は悪人には見えないの…ねぇ悪い男に引っかかったのょね?彼のためにやってあげたんでしょ?でも、相手が悪かった」

「…そ、そうなの」


大女は、首を振り溜め息をつく。アッサリ落ちる←


「ホントは、自分でもわかってた。コレでも若い頃は"高身長デブ専"の売れっ子AV女優だった。でも、この年になるとキャバのプロレスショーばかりで…彼は、顔が良いだけの人だった。でも、何か特別なモノを持ってた。だから、見詰められると…もうダメなの」←

「フロスは?」

「え。何?」


ムードぶち壊しのマリレの質問w


「だ・か・ら!デンタルフロスよっ!」

「車と着替えとマチガイダ・サンドウィッチズのチリドッグは用意しろと言われたわ。でも、デンタルフロスって何のコト?ソレ、美味しいの?」

「はい?」


エアリは、取調室から出てミユリさんと僕に報告スル。


「車の用意だけみたいです」

「OK。わかったわ」

「姉様。リボンのコトは仕方なかったと思います。姉様は、正しい選択をした」


ミユリさんは、何も応えず、歩き去る。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同時刻。ルイナのラボ。黒板に数式を描きながら…実は行き詰まってるルイナw


「スピア。刑務所のゴミについて連絡は来た?」

「まだょ」

「しかし、この想像力を大いに称えるべきね。日用品を脱獄に使うナンて、まるで秋葉原のロビンソン・クルーソーと呼びたいわ」


妙な感心の仕方をするルイナ。一方、相棒のスピアは…


巌窟王(エドモン・ダンテス)みたい。必要に迫られた状況だと気が散るコトもナイって見本」

「要は集中ってコト?」

「廃人1歩手前の集中はヲタクの基本ょ」


ヲタク同士の会話は、暗号システムの限界への挑戦だw


「やっぱりシンクタンクには、テリィたんを誘うべきだと思わない?」

「…実は私、秋葉原に来たての頃、テリィたんに質問したコトがある。双曲線余弦のテイラー展開の剰余項の求め方をね。その時、テリィたんと目が合ってわかったわ。賽は投げられたってね。ヲタクにとって、テリィたんは絶対的存在のハズ。だから、私はテリィたんと数学を切り離すコトにした。今後もそうして行きたいの」

「ふーん」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


裏アキバの芳林パークをミユリさんと散策。


「バック・リボンが逃げたね」

「テリィ様。心配しないで」

「もちろん、ミユリさんのコトは信頼している。だけど、その無関心な態度が気になルンだょ」


夕陽に染まるパーク。放課後明けの寂しくなる時間帯。


「私、無関心に見えますか?」

「ただ、ミユリさんのTO(トップヲタク)として、どうしても怖いんだ」

「…私はリボンを殺すコトになるのが怖い」←


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ルイナのラボと捜査本部のリモート会議。


「診療所からフロスが盗まれる頻度や脱獄計画について色々と調べてみた。すると、興味深いコトがわかったわ」

「一体何が興味深いの?」

「フロスは、普通ナイロンやテフロンで作られ、それぞれ太さや密度が違うの。強度も違ってくる」


超天才の遠回しな"解説"が始まる。結論は遠いw


「不適切なフロスだと弱過ぎたり手を切ったりするわ」

「フロスのハシゴから血痕は見つかってナイけど」

「試行錯誤した形跡も無いから、このロープは設計の末に作られた。つまり、一定の能力や知識が必要ってワケ」


ピンと来るエアリ。


「グループは脱獄犯だけじゃナイ?」


その時、モニターの隅をパーク帰りのミユリさんが通過w


「あ、エアリ。ミユリ姉様とお話ししたい」


廊下を歩くムーンライトセレナーダーに声をかけるエアリ。


「ミユリ姉様。連絡をくれないのね?」

「そうかしら」

「デンタルフロスの話もね。興味深いコトが見つかって…」


歩き去るムーンライトセレナーダーw


第3章 その男、ピチン


「SATOだろ?靴で分かった。マクロ・フリンの件だな?」


アパートの扉を薄く開けたピチンは痩せ型でガリガリの男。

エアリ&マリレをメイド服でもヲタッキーズと見抜いてるw


「アンタ、蔵前橋の重刑務所で同房だったんでしょ?」

「おっと。フリンはともかく俺まで犯罪者扱いスルな。俺は手違いでぶち込まれただけだ。この部屋も何処でも調べてくれて構わない」

「昔は1晩で数1000万円を稼いでたんでしょ?」


エアリは家探ししながら聞く。


「最近は金庫破りじゃ食べて行けないでしょ」

「あぁ万事ネットの時代だ」

「アンタなら完璧な脱獄計画を練れるし、デンタルフロスでロープを作るコトも思いつく。でも、あの3人には無理なの」


すかさずマリレがフォロー。


「あの3人って、バック・リボン、マクロ・フリン、レイフ・ラスキの3人のコトょ念のため」

「…わかった。情報を渡すから見逃してくれ」

「情報によるわ」


痩せた男ピチンは語り始める。


「俺は、無実の罪を着せられた。釈放される前、塀の中で脱獄計画を練っていた」

「同房の者も仲間に入れたのね?」

「そりゃ礼儀だからな。マクロ・フリンは50万円で俺の計画を買った」


刑務所の中でソンなモノが売買されているとはw


「そのお金はどこから?」

「ネスタ・ルスイが手配した」

「誰ソレ?」


ピチンは答えない。


「ネスタは、今もマクロ・フリンを匿ってるハズだ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


斜め階段が特徴的なアパートから出て来たヲタッキーズ。


「ナンだか気に食わないのょね」

「ヤケに協力的だし、遠回しに罪を認めた。ネスタの名まで吐いた」

「そもそも数1000万円稼ぐ男が、50万円で脱獄計画を売るかしら」


エアリの結論。


「靴を見ただけでSATOだとわかる男、キモいわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


捜査本部のギャレー。僕が黄昏てるとラギィが絡んで来る。


「あのジルバが刺されるとか、過剰摂取で倒れるとかだと好都合ナンだけどな…」

「テリィたん、どしたの?私も以前、犯人の死を願ったコトがアル。私の大切なパートナーを連れ去った女。自分が無力だと感じた。でも、彼女の行動はさておき、動機は理解出来たわ」

「ソンな動機は知りたくもナイょ」


実は、僕はサラリーマンで、第3新東京電力で宇宙発電所の副所長を務める。その関係で最新の宇宙論も学んでるが…


「宇宙論によれば"時間の矢"は、常に宇宙の膨張の方向を指す。でも、もし宇宙が収縮を始めたら…」

「私達は、過去に襲われるの?」

「最新の宇宙学者の主張だと、やはり未来は同じ方向に進み続けるみたいだ。でも、宇宙はもっと心が広いカモって思うんだ…」


署を囲む摩天楼を見上げる。遠くでサイレンの音。月夜。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同時刻。"斜め階段アパート"に張り込むヲタッキーズ。


「さっき出掛けたピチン、もう帰った?」

「今、帰って来て階段を登ってる…右の部屋。3階の真ん中に出入口がアル」

「あら。別の部屋に入ったわ?」


斜め階段のアパートは、横から見るとアリの巣のようだ。

パティオの噴水から双眼鏡でピチンを追うヲタッキーズ。


「402号室?御近所づきあいって奴?」

「お砂糖を借りてるとか?」

「ちょっと窓から覗いてみるわ」


飛行呪文で4Fまで飛ぶエアリ。

音波銃を抜いて室内を覗くと…


「警察だ!」


ブラインド越しに弾丸が飛んで来るw

身を隠し、室内に音波銃を撃ち込む!


「エアリ!奴等、コッチに降りて来る!」


402号室から4人が飛び出して来る!リボン以下の脱獄組+ピチン。

"斜め階段"を駆け降りるが下からはマリレが音波銃を撃って来るw


「ヤバい!挟み撃ちだ!」

「ヲタッキーズょ!武器を捨てて!」

「途中階に逃げ込め!」


狭い廊下に逃げ込んだ4人をヲタッキーズが追う。振り向きザマに拳銃を構えたピチンをエアリが撃ち抜く!

壁にベッタリと血糊を残して倒れるピチン。エアリが拳銃を蹴飛ばし、取り押さえて後ろ手に手錠をかける。


「逃げられないわょ!だって、私は飛べる…」


ところが、振り返った相手と正面衝突wそのママ地上へ自由落下…幸い萌えないゴミの収集ステーションの上に落ちるw


「マリレ、大丈夫?ロケット、点火失敗?H3型みたい」

「とりあえず、ゴミと奴の上に落ちたから大丈夫」

「可哀想に("奴"がw)」


音波銃をしまうエアリ。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


捜査本部にいるムーンライトセレナーダーに1報が入る。


「姉様、身柄を確保。2人です」

「リボンは?」

「逃げられました」


さらに、捜査本部の電話が鳴る。眉をヒソめる。


「また報告して。じゃね…ムーンライトセレナーダー」

「あら、スーパーヒロインさん。私がわかる?」

「かろうじて」

「じゃ要求もワカルわね?」


ムーンライトセレナーダーは、うなずく。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


捜査本部。


「リボンのスマホは使い捨てだった。でも、次にかかって来たら、必ズ逆探知スルから」

「お願いね、ラギィ」

「2分38秒。ムーンライトセレナーダー、リボンとは何を話してたの?」

「世間話」


小首を傾げ傍のデスクに腰掛けるラギィ。


「参ってるの?それとも冷静にしてるだけ?」

「両方ょ」

万世橋(アキバP.D.)の全捜査官が総出で、残りの脱獄犯を追ってるわ。でも…貴女が足を引っ張ったら元も子もナイの」


寂しげに微笑むムーンライトセレナーダー。


「私は、邪魔はしない」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


捜査本部でラギィ警部自らがピチンを取り調べる。

負傷したピチンは包帯グルグル巻きのミイラ男だw


「ピチンとはなにがあったの?」

蔵前橋(重刑務所)で、彼女の仲間から同じ話を何度も聞かされた」

「その話とやらを歌って頂戴」


ピチンは声を潜めて話す。


「実は…秋葉原の何処かに大量の(ヤク)が隠されてる。時価何億というタイヘンなお宝が眠ってルンだ」

「ネスタの話は?」

「そんな奴いない。最初から」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同じくマクロ・フリンの取り調べ。

コチラはミクス次長検事が担当だ。


「秋葉原に腐女子が超能力に"覚醒"スル"覚醒剤"の山が眠ってルンだって?」

「ソレは作り話。海賊のお宝みたいなモンょ。でも、ピチンはソレを信じ切って脱獄計画を練り始めた。自分が釈放された後も、奴はお宝のために俺達を脱獄させたがった」

「つまり、アンタはピチンとデアンを利用して脱獄した?」


マクロ・フリンは涼しい顔だ。


「今更驚きゃしないだろ?俺達だってナンとか脱獄しようと必死だったんだ」

「ジルバは?」

「塀の外に出て直ぐに手を切った。アイツらマジでヤバい」


全く誰がドンなウソをついてるのかワカラナイw


「で、リボンは今、何処にいるの?」

「知らない。でも、予想は出来る」

「例えば?」


ココでマクロ・フリンも下卑た笑いw


「ソレを話す前に検事さん、取引条件を少し詰めナイか?」

「あら?司法取引?アンタ、まるでわかってナイわね。アンタは事後共犯で有罪ょ。取引の余地はナイわ」

「事後共犯?何ソレ?ウマいのか?」


ミクスはニコリともせズ事務的に告げる。


「彼女達の脱獄に手を貸したら、彼女達が脱獄後に犯す犯罪は、全てアンタの責任になる。あの2人が強盗に入れば、アンタも共犯。仮に2人がヲタッキーズを殺しでもしたら、アンタの死刑は確定なの。OK?」


急にソワソワしだすマクロ・フリン。


「マ、マジかょ?」

勝手にして(go ahead)蔵前橋(重刑務所)でつけた浅知恵で、せいぜい私と戦えば良いわ。でも、その前に時計を見て。アンタが黙ってる間にも、2人はドンドン罪を重ねてる」

「…レイフ・ラスキは、最初は人殺しに反対してた」


ますます事務的に迫るミクス次長検事。


「じゃ主犯はリボンね。で、レイフ・ラスキは?」

「最初は、リボンの影に隠れているように見えたンだが、最近はどーゆー関係なのか分からなくなった。もしかしたら…愛し合ってたカモしれん」

「2人の居場所は?」


救いを求めるようなマクロ・フリンの眼差し。

ミクスは、ニコリともせズに、肩をスボめる。


「神田佐久間河岸町のモーテル"ニューロマンス"」


第4章 囚人服と短機関銃


SATO司令部の武器庫。ヲタッキーズとSATOの特殊部隊"チーム6.5"が出撃前の武器点検を行なっている。


「エアリ。物騒な装備だな。熊狩にでも行くのかい?」

「テリィたん。熊は好きだけど…今、ミユリ姉様は忙しいのょ」

「わかってるさ」


武器庫にミユリさんの姿はナイ。


「エアリは、ミユリさんとの付き合いが1番長い。今さらだけど、僕は完璧なTO(トップヲタク)じゃなかった。完璧な推し活をスルなんて不可能だ。でも、僕は…」

「心配しないで、テリィたん。姉様は私が守ります。だから、OK?」

「あぁ。モチロンさ」


チームは出撃して逝く。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同時刻。お隣のルイナのラボでは、自分で描いた数式の前で車椅子の超天才が逝き詰まっているw


「あら?ルイナ、貴女ってビタビアルゴリズムは嫌いだと思ってたわ」

「スピア。バック・リボンの次の動きを予測してたの」

「ふーん」


数式を読み取るスピア。


「私、何処か間違えてる?」

「いいえ。で、テリィたんには話したの?」

「未だょ。コレから話すトコロ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


神田佐久間河岸町のモーテル"ニューロマンス"。


「御招待ありがとう、ヲタッキーズ。義理堅くて泣けるわ」

「ラギィ警部、コレそもそも御社のお仕事だから。突入の時は、お先にどーぞ」

「警部。管理人によると被疑者は7号室に滞在中。管理人が口論を聞き見に行ったらリボンに口止めされたそうです」


いかがわしさMAXのモーテル"ニューロマンス"の駐車場は、完全武装の警官隊と特殊部隊でごった返してるw


「あらあら。盗難車が部屋の前に未だ止まってる。こんなんじゃ口止めしても意味ナイでしょ」

「さ。始めるわょー」

「見取り図をゲットした。7号室のドアと窓はココとココ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「突入!」


SWATがショットガンでドアの鍵を吹っ飛ばす!ドアを蹴り開け、窓をブチ割り完全武装の警官と特殊部隊が殺到スル…


「遅かった。痴情のモツレ?」


バスタブに恨めしげなレイフ・ラスキの死体w


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


同時刻の"潜り酒場(スピークイージー)"。客のいないカウンターの中に1人たたずむメイド服のミユリさん。


「姉様、いるの?」

「ルイナ?」

「あのね。"ビタビアルゴリズム"を使ってみたの。隠された状態のもっともらしい経路を探れるツールょ」


御屋敷のモニターが勝手にonになりルイナが写る。

ハッカーの相棒スピアがリモート回線を接続スルw


「"隠された状態"って?」

「あのね…あるメイドの行動は3つ。寝る、食べる…そして、狩る。季節、時間、天候に基づき、彼女は何をスルかを決める。ある一瞬の彼女の行動しかわからなくても、その瞬間の世界の様子をアルゴリズムで予測出来る。コレと似た方法でリボンの動きを予測してみた。リボンの行動は"身を隠す"と"音波銃を持つ"ょ」

「もう1つは…"私を殺す"ね」


顔色1つ変えないムーンライトセレナーダー。


「ミユリ姉様。姉様はリボンの居場所を知ってたのね。ナゼみんなに隠すの?」

「アルゴリズムは不要だから」

「いつだってアルゴリズムは必要ょ。姉様、一体どうしちゃったの?」


突然"道路封鎖(ロードブロック) 車が爆発"のニュース画像が流れる。


「あの時は"雷キネシス"を撃つしかなかった」

「YES。姉様の行為には99.98%の合理性がアル」

「メソポタミアの古い粘土板にランバ・ラル…じゃなくて"ナタハ・ラハ"と言う1節がアルの。私の理解では"自分の手の中にあるもの"つまり自分が動かせるモノのコト」


モニターは、爆発で静止したニュース画像だ。


「姉様!みんなを遠ざけてどうするつもり?知覚的に言うと記憶は相関度と比例して強くなる。つまり、時間の矢は、過去から未来にしか進まないの。今夜や明日、何をしようと放たれた矢は戻らない。今は未来のコトだけ考えて、2年後に後悔しないようにして」


答えはナイ。ニュース画像が再び流れ出す。


「"…萌えています。犯人の車は爆発炎上…"」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


再び神田佐久間河岸町のモーテル"ニューロマンス"。


「レイフは殴られた後、バスタブで側頭葉を撃たれた?…コレ、自殺じゃナイの?」

「そして、リボンは窓から出て、別の車を盗んで逃走したワケね。裏窓のガラス破片が外側に散らばってた」

「警部!犯人のスマホが生きたママ(ホットで)捨てられてました。我々の突入を監視してた模様ですw」


アル種のブービートラップだw


「目当ては…ムーンライトセレナーダー?追跡は?」

「始めてます!通話履歴も確認中。ただ…」

「ただ、何ょ?」


通話履歴を見た全員が驚く。


「ミユリ姉様の番号?」

「しかも…発信じゃなくて、着信だわ」

「姉様が何度もリボンにコールバックしてる?」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


再びSATOの武器庫。


「姉様は、リボンから電話があって2分以上話したのに何もなかったと言った。リボンは交換を通じてかけて来た。姉様はリボンの電話番号まで聞き出してたのに、ソレを隠した」

「エアリ。貴女達がリボンをモーテルで捕まえてれば、この話もなかったのょ」

「姉様!だから、今こうやって話してるんです。姉様が電話して、リボンを誘い出したんですね?」


ミユリさんは応えない。全力出撃(アルファストライク)後でガランとした武器庫で、ミユリさんは愛用の音波銃を黙々と点検している。


「降りてください。冷静に指揮をとれる状況じゃない。捜査を傍観してるだけなら、まだわかります。姉様は情報を隠したんですよ?」


鋭く、責めるような口調だが、エアリはエアリで、何か全てを受け入れようとスル、超然とした態度も見せている。

妖精は、人類より昔から地球に生息しているのに文明も科学も持たない。超然、悪く言えば進歩のナイ種族なのだ。


「どっちか選んで。SATOのレイカ司令官に報告してヲタッキーズを本件からハズすか、このママ私の好きにやらせるか」

「何のつもりなの?真昼の決闘のようなマネはヤメて」

「エアリ、聞いて。何があろうと私が指示するまで絶対に動かないで。OK?」


エアリは、遠く未来を見るような視線を投げる。


「テリィたんにミユリ姉様を護ると約束したの。だから、私を嘘つきにしないで」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


SATO司令部のギャレー。


「ルイナ。明日、アキバ工科大学で注目の講義をヤルそうね。"時間反転性カオス系"だっけ」

「スピア…でも、さっきミユリ姉様には、ソレと逆のコトを言ったの。時間は絶対逆転しないって。ソレはあくまで例え話だけどね。私達、時間の矢にとらわれ過ぎてるカモ」

「みんな同じ真理を求めて彷徨ってるのね。ミユリ姉様vsエントロピーか」


面白がるスピアw


「マクスウェルの悪魔が欲しいわ」

「悪魔?」

「YES。悪魔は、続き部屋の間のドアに1人で立っている。気温と気圧は2部屋とも同じ。完璧な均衡状態なの…」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


礼拝堂に入って来るメイド服の女。


「確認した。B班、マリレ。射程圏内(ターゲットインサイト)

待機(スタンバイ)

「でも、エアリ。私達、何を待つの?」


拳銃を抜いたラギィがエアリに問う。


「姉様の指示を待つの」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「…で、悪魔はドアを開ける度に、自ら選んだ分子だけを通し、一方の部屋を温め、もう一方の部屋を冷やす。でも、コレは熱力学の第二法則に矛盾スル。つまり、悪魔はドアを開けるだけじゃなく、永久機関の存在を可能にしてしまう。私達が現実だと思っていたモノが全てひっくり返される」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「C班。こちらも射程圏内(ターゲットインサイト)

了解(ログ)、C班。待機(スタンバイ)。全員、私の指示を待て」


移動指揮車の中では、ミクスがモニター画面を見詰める。


「全員、待機(スタンバイ)。合図を待て」


礼拝堂の後方から中央の祭壇へすり鉢状に下る坂を、メイドは1歩1歩ユックリと降りて逝く。その先には…ミユリさん。


「音波銃は持ってる?死にに来るワケないしね…私、私のTOであるジルバを愛してた」

「知ってるわ」

「でも、彼に裏切られて…彼を殺した。ねぇミユリ、音波銃はどこ?貴女、死にたいの?」


リボンは、太腿のホルダーに差した音波銃をチラ見せ。


「B班、音波銃を確認」

「こちらC班、今なら1発で狙撃出来る」

「全員、待機(スタンバイ)。合図を待て」


サイキック抑制蒸気が白い霧となって礼拝堂を漂う。


「毎朝、自分のTO(トップヲタク)を裏切ったコトを後悔する。私は、彼を売った。弱かったの。でも、私は"覚醒"したの。秋葉原のおかげょ」

「レイフを殺したの?」

「レイフは、傭兵のクセして死を恐れた。真に"覚醒"スルには、大切なモノを捨てるしか無い。TOも、人生も捨てなきゃ。私の未来は、レイフのモノでも、ジルバのモノでもナイ。2人共、死ぬ間際に、そう悟ったカモ」


ミユリさんは、祭壇の陰から前に出る。


「3秒、あげる」


リボンは太腿ホルダーの音波銃に手をかける。


「"真昼の決闘"をスル気はナイの」


ミユリさんが手で制する。


「A班とC班は移動。B班は待機(スタンバイ)


隠れていた捜査員が、手に手に音波銃や短機関銃を構えて、続々と姿を現す。慌てて周囲を見回すリボン。


「180発が貴女を狙ってる」

「…どーでもいー」

「どーでもいー?2年もかけて、最後に私に時間と場所まで選ばせて、どーでもいー?リボン、貴女は私を殺しにアキバに来たのじゃない。死にに来たのょね?私は、貴女が愛したTOを殺した。でも、貴女は殺したくないの」


リボンは叫ぶ。


「何で?何でダメなの?私を殺してょ!私は永遠の17才だけど、懲役250年ょ。冗談じゃ無いわ。生きてる意味ナンかナイ。無くしたものは2度と戻って来ない。ミユリ、アンタにソレがわかる?」

「わからない。でも、ソレが貴女の人生。死にたい?好きにして。でも、私を殺しても貴女の生き方は変わらない。ソレを決めるのは貴女自身だから」

「…ミユリ様、御覚悟!」


太腿ホルダーの音波銃を抜くリボン。SWATより速く、ミユリさんは、全ての射線からリボンを庇うように前に出る。

音波銃の前に立ち微笑む。その瞬間リボンの瞳からドッと涙が溢れ出す。音波銃を取り落とし泣き崩れて両膝をつく。


「確保!」


リボン目掛け、警官隊が殺到スル。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


ギャレー。超天才相手にハッカーは1歩も引かない。


「でも、永久機関ナンてインチキでしょ」

「インチキ?」

「マクスウェルの悪魔なんて単なる思考実験ょ。現実には、窓が割れれば冷気が入る。ギアの故障や油漏れで、いつか永久機関は止まるわ」


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


礼拝堂。リボンの慟哭が遠去かる。


「エアリ。良く待ってくれたわね」

「姉様。普段なら、迷いはしません。だから、今日は…辛過ぎた。ソレに姉様のTOが狙われた可能性もアル」

「…テリィ様は死なないわ。私が護るもの」←


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


僕は、ひょっこりギャレーに顔を出す。


「テリィたん!何でココに?あの連れ込みモーテル、テリィたんの定宿じゃナイの?」

「風評被害!その発言に責任取れるか?」

「モチロン取れるわ…実は、今度シンクタンクを作る予定なの。月に1度みんなで集まってアイデアを共有する…良ければ、テリィたんも来ない?」


史上最年少の首相官邸アドバイザーに就いた超天才のお誘いだw傍らのスピアがハラリとスク水になり…ソレは勧誘か?


「今でも、ルイナの質問は記憶に残ってる。双曲線余弦のテイラー展開の剰余項の求め方だったょな?」

「あら。素晴らしい記憶力。意外」←

「もうゴスロリ女子には、勉強を教えられないと痛感させられた日さ」


僕は、精一杯オドけ、肩をスボめてフランス人のフリw


「でもね、テリィたん。貴方はソレ以外のコトをたくさん教えてくれた。貴方は私に、秋葉原に居場所をくれて、私をヲタクにしてくれた」


何だか、熱いパトスがホトバシルょ。


「ソレも記憶に残る言葉だ」

「今日から始まる新たな知の冒険に乾杯」

「因果的な時間の矢に」


僕達は、紙コップのコーヒーで乾杯スル。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


翌日の昼下がり。礼拝堂。


ミユリさんは、聖書を読んでいる。僕が隣席に座ると、彼女は僕を見てから、天使と悪魔のステンドグラスを見上げる。


僕は、唇の端を数mm上げて微笑む。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


人生の中で過去を見つめるコトは何度も出来る。

でも、その時でさえ手中にあるのは未来だけだ。



おしまい

今回は、海外ドラマによく登場する"脱獄"をテーマに、前シリーズで活躍?した主人公の仇敵、その仇敵の推しメイド、その脱獄仲間の殺し屋、優男、優男に利用される元AV女優、脱獄計画を売る元囚人、脱獄犯を追う超天才や相棒のハッカー、ヲタッキーズ、敏腕警部などが登場しました。


さらに、時間の矢に抗う者の苦悩、シンクタンク設立をめぐる動きなどもサイドストーリー的に描いてみました。


海外ドラマでよく舞台となるニューヨークの街並みを、マスク解禁前夜の秋葉原に当てはめて展開してみました。


秋葉原を訪れる全ての人類が幸せになりますように。

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