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02.千人殺しの山

 

 ー


 迷いの森を抜けた先に位置する不気味な名称の山麓、千人殺しの山


 古くは有力貴族の支配地として繁栄したがその後没落、土地は放棄され今やアンデッドの巣窟に


 立ちこめる深い霧と、陽の光を遮る樹木とが人の侵入を阻む


 ー





 雲の上にひっそりとたたずむ古代遺跡。今回の目的地。


 その最奥に出没すると噂される、さる貴族の亡霊の討伐。


 山頂にあるそれを目指して山道を進む。






 入山以来、タンクを差し置いて先頭をどんどん進むドレス姿の少女。



「私が一番に頂に上り、そこから下々を見下すのよ。その景色、このエマ様に最もふさわしいわ!」



 よく馬鹿と煙は高いところが好きというが、ひょっとして語源はこいつなのではないか。目立ちたがりでお調子者、由来としてぴったりだ。




 しかしそのおかげか、道に迷うこともない。さらには出没し襲いくるアンデッドに対しても、その姫の神聖魔法がことごとく機能する。




 今回は先頭を譲るリンだが、接敵時には一目散に対象に向かっていき、パラディンの特性アンデッドキラーを盾に自慢の騎士剣で目標を叩き潰す。



 後方からはこれまた精霊魔法でアンデッドの弱点を突くウィザード。こいつはどのエネミーが相手でも弱点を突くことが出来るんじゃないかな。



 本来は先頭をタンク以外が務めることなどありえないのだが、今回は特別。この布陣は俺たちがたまたまアンデッドに強いパーティ構成だからできる芸当。強さの証でもあるのだ。よしとしておこう。





 しかし物事がうまくいっているときこそ気を引き締めねばならない、そう思った矢先、ギミックの洗礼。突如その強者たちが目の前から姿を消す。



 何が起こった。やばい、リンはどこだ。



 すぐにマップを開き、全員の位置を確認。



 黄マーカーが一つと緑マーカーが四つ。PCとNPC。全員大分離れていて、皆ちりぢりの状態。





 最悪。こんなもの事前にどうしようもない。まさに序盤からクライマックス。





 とりあえずリンの位置だけでも特定しようとマップの表示をネーム表記へ変更。



 しかしよく見えない。



 動揺しているのか、モヤがかかったよう。





 …心細い。





 そんな場合ではないのだが、離れて初めて分かる感情。



 一刻も早く仲間と合流せねばならないというのに、焦点が合わない。足がうまく運ばない。





 目を凝らして再度マップを確認。するとシャナのマーカーが一瞬のうちに遠く離れたリンのもとへ移動する。なんだこれは。幻覚すら見えてしまうほど俺は冷静さを欠いているのか。いや、確かに先程まで離れ離れだった二人のマーカーが今は同じ位置にある。



 どういうことだ、目の錯覚ではない。



 まさか、あれを使ったのか。





『ワープ』





 俺たちが過去幾度となく助けられた魔法。



 地脈を通り、文字通り被対象の元へ術者がワープする。



 その性能と利便性の高さは、術者への負担、危険度と比例する。



 使用条件も複雑。確か互いの深い理解が必要、だったか。あれ一方でいいんだっけ。正確には覚えていない。だがその理解が不足していると地脈に取り残され二度と戻ってこられない。





 理解か。そういえば何やら色々とやっていたような。心当たりはある。






(なんであんたがクラムチャウダー食べてるのよ、あたしが注文したんでしょそれ)



(あんたに食事半分とられちゃったせいで全力が出せなかったじゃない、だからつかまっちゃったの、勘違いしないでよね)



(な、なんなのよこれ、も、もしかして呪いのペンダント?変な目玉がいっぱいついてるじゃない、気持ち悪い、これをあたしに着けろっていうの)






 シャナは地頭がいい。リンの属性を考慮し、日ごろからリスク軽減のため理解に務めていたのだろう。この後何があってもいいように。



 だとすれば頭が上がらない。俺よりよほどリーダー向き。



 だがしかし、たったそれだけのことでシャナがリンを深く理解?飯を強奪したり妙なアクセサリーを渡すだけで?



 いや、思案を巡らせたところで分かる訳がない。魔法という技術は科学ではない。不明な点だらけ。自分の価値観だけで測れるものではない。



 シャナがワープ可能と判断し、実際できたのならそういうことなのだろう。





 多少の安心。





 反面超上位魔法を行使した反動で、シャナはしばらく満足に戦えないはず。



 二人のもとへ急行する。






 道中アンデッドどもに追い掛け回され、何度も死にながらボロボロの状態で、やっとうっすら視界に捉えた二人の姿は、アンデッドに囲まれ俺より更にボロボロ。



 リンを守りつつ、枯渇寸前の魔力でそれでもエネミーを寄せ付けないシャナ。



 間に合った形。






 …先程の心細さはいつしか真逆の心境に変化していた。






 心強い。






 既にボロボロの少女のその背中の、しかしなんと心強いことか。






 普段こいつらを導いているようで、その実依存しているのは俺の方。



 肩で息をしながらエネミーの攻撃に備えるシャナ。俺をはっきりと視界に捉える。待たせたな。



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