01.凱旋門広場
♪
おっかいーもの おかいもの
かわいい おようふく みにつけて~
きょうも おでかけ しゅっぱつにゃ
♪
本日の目的、装備更新。
原資、ペラドンナ討伐報酬。
ロケーション、ルドリア一の繁華街。整理された区画、雑多に立ち並ぶ商店、往来賑わう広場。
「アーマーナイトが持っているような大盾ばかりが盾じゃないぞ、お前は身軽さもある避ける盾。比較的動きやすいラウンドシールドを」
「ねえねえこれどう?ヴィットリオの新作。かわいくない?あ~もう悩んでるうちに売り切れちゃうじゃない」
「クレリックに求められるのは魔法だけじゃない、ハンマーを装備しての肉弾戦もその範疇だ。ダメージ値と魔力補正値の双方を考慮して」
「もちろんエマが一番に山頂に到達するのだから、相応しいドレスが必要ね、一番たる私に着てもらえて、きっとドレスも喜んでいるわ」
「魔法命中率の補正が付いたワンドもこれからのいくさに必要となる、特に回避率の高いエネミーを相手にする際には」
「この見るからに呪われていそうな不気味な仮面、我が高速詠唱術MEоC、マスターエンペラー・オブ・キャストに最適かもしれないわね、サイズ違いは置いていないのかしら」
「敏捷性を更に高めるためにはアジリティ補正の高いブーツが最適だ。ナイフにはそれ自体にデバフ付与効果があるものがあり二刀流でそれぞれの手に」
「これみてにゃ、ローレルの防具やさんで売ってたローグ用最新最高装備にゃ、着ただけで強くなってるのがわかるのにゃ、逸品にゃ!」
「…マウお前、その豪華装備は確かにめでたいが、装備レベルに足りてないからなんの意味もないぞ、とりあえず返品してこい、10年早い」
「はにゃっ!?」
まったくどこにそんな高級装備を買う金を隠し持っていたんだか。
おぞましいことにこれが我がパーティの装備新調風景の一幕だ。くれぐれも言っておくがこれは次回任務に備えるための買い物だぞ。
「リトーこれみてみて、じゃじゃん、名付けてみせるおしゃれ」
そう言って悩殺ポーズを決めるリン。それが服といえるのか。紐の間違いでは。
「リトはそういうのが好みなの、まったく世話がやけるんだから、しょうがないわね、このエマ様も一肌脱いであげる、私の体で分からせてあげるわ」
俺がこのメスガキに逆に分からせられてしまうというのか!?
「ところであなたはどうする気、まあ一撃食らっただけで肉塊になる矮小な存在たるあなたには、装備を買い与えたところで焼け石に水かしら」
うぐ、しかし確かに雑魚の攻撃がかすめただけで致命傷だったのだ、反論できん。だがお前のそのマスターなんとか?全然かっこよくないぞ、いちいち自分の技にそんなネーミングをつけているのか、可愛い奴め。
「じゃあアピ用の服を買いましょう、リトいっつも同じ服だし、エマ様の隣を歩くのにふさわしい衣装を私が直々に選んであげるわ、喜んで従いなさい」
ガワを購入しに来たんじゃないんだぞ、目的を違えるな。いや、しかしこれは、意外にも?センスがいい。黒と白を基調としたシンプルかつ上品なデザイン。機能性十分。動きやすい。
適材適所。こういうことは目の肥えたお嬢様に任せておけば間違いはないか。
「これを身に着けて頂戴。二つで一つのお揃い。お守りみたいなものよ」
「な、なんなのよこれ、も、もしかして呪いのペンダント?変な目玉がいっぱいくっついてるじゃない、気持ち悪い、これをあたしに着けろっていうの」
なんてものをプレゼントしているのだ、口を利いてもらえなくなっても知らんぞ。
「こっちのシュシュにしない?これなら一緒につけてあげてもいいわよ」
しぶしぶ従うシャナ。しかし首から上はフードと仮面で覆い隠されていてその下に何を着用していようともまるで見えない。
しかしなぜリンとお揃いを?なぜこっちを見る。わけが分からん。
「マウよ、返品ご苦労、だがその後ろに抱えている得体のしれないモノがいっぱい詰まった袋はなんだ」
「よくぞきいてくれたにゃ!これはボクたちミッコ族の故郷、とおい南の島に伝わる逸品、活魚の左眼だけをくりぬいて天日干しした干物にゃ!ごちそうごちそう、豪遊だにゃ」
そ、そうか、いやまて、お前の故郷はウルだろう、それに南の島ってなんだ、ふわっとしすぎている。
よく見るとその後ろにも山積みされた大量のゴミ袋の山。こいつはゴミアイテム屋でも開くつもりか。
エマは何度も試着を繰り返し、その度見てるこっちが息苦しくなるような重厚なドレスに身を包み現れる。そんな恰好で登山が出来るか。
次の目的地は山、そして山頂にあるとされる古代遺跡。謎の亡霊退治。
おそらくエマの力が最も必要になり、かつ輝く場所。アンデッドの巣窟。
お色直しの度満面の笑みにてこちらに感想を求めてくる姫。
似合っていないわけがない。素直に伝える。喜ぶエマ。
…なんだかこちらまで嬉しくなってくる。
こんな美しいお嬢様が翌日にはうっそうとした古墳でゾンビどもと戦うのだ。
たまにはこういったリフレッシュも悪くない。
いや、こいつらにとってはこれこそが過酷な任務前日の最も有意義な過ごし方。これ以上ない任務への備え。
「支払いはマウ、全て任せていいな、お前の懐に大事にしまってあるそれ。金貨が大量に詰まったへそくり袋、なぜお前だけがそんなものを持っている。お宝は山分けのはずだろう、全てバレてい…」
こちらが言い終わる前に食い気味で逃げ出す泥棒猫。やはりちょろまかしている。しかし皆からどっと溢れる笑い。
ともすれば険悪なムードになりかねない行為。
そうならないのはお互いの信頼関係の賜物か。
気付けば自然に笑みがこぼれていた。
リフレッシュさせてもらっているのは俺の方。