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03.ペラドンナ

 

 ー


 森の奥に鎮座するは、迷い人を捕食するプラントイド、森の主ぺラドンナ


 討伐報酬は豪華だが、危険は常に付きまとう。コーチングの腕の見せ所


 捕らわれたリン。無限に増殖する取り巻き。導き出される一つの攻略法


 ー





 戦場においてギミックというものは、ほとんどの場合こちらに味方しない。


 かといって放置すれば詰み。


 すなわち不利な条件にあえて陥りそれを突破することこそ攻略。




 用意されたギミックの数は無限。


 さらに同じエネミーであっても使用するギミックは毎回ランダム。


 様々なギミックを身をもって体験し、現場ではその経験をもとに立ち回ることが必要となる。





 毒に侵され捕食された我がパーティのタンク救出が最優先。


 だが急いてはことを仕損じる。


 与えられた事実を基に推論を立て、突破口を見出し、ギミックを打ち破る。





 事実。


 リンを捕食した主に攻撃を加えることは実質不可能。危険すぎる。


 捕食と同時に開始される取り巻きエネミーの大量増援。倒しても倒しても即ポップ。


 不利な条件。だからこそ攻略に必要不可欠。



「まったく失礼な草ね、よりにもよってリンを食べるなんて。このエマ様の方がよっぽど美味しそうじゃない、私の高貴な魅力に気付かないなんて、許せないわ」





 推論。


 おそらく捕食解除により増援は停止され、主を攻撃することが可能。



「まったく馬鹿の一つ覚えのように突っ込んでくることしかできないのかしら。それは勇気とは言わない。無学、浅薄。無知蒙昧。即ち下劣。まあ言葉も通じていないのでしょうけれど」





 突破口。


 取り巻きエネミーを幾度となく撃破するなかであることに気づく。


 色。


 緑一色の増援の仲に一匹だけ現れる色違いの個体。


 他の個体と比べて低耐久、低攻撃力、さらには手を出さずとも一定時間経過で破裂する。



 破裂するならなぜ出てくる。この破裂がカギ?



 放置すれば破裂して再度無限増援の繰り返し。


 何かの拍子で死んでしまっても同様。



 ならば破裂の時まで細心の注意を払って守り、そして破裂を何かに利用するしかない。



 利用先は明白。今回のターゲット。賞金首。



「この引っこ抜いた根っこ、まさか伝説の世界樹の根っこ!ここ、これはお宝だにゃ、大発見にゃ、億万長者だにゃーー!」


「(そんなわけがないだろう)」






 …増援一掃と同時に色違いを主の元へ誘導、破裂に巻き込むことで捕食解除、増援停止可能と見た。



 そして次の捕食開始までに一気に勝負を決める必要がある。



 迅速な誘導、リンと色違いの保護、素早い決着。マウ、エマ、シャナ。





 ………





 戦略は成った。あとは盤上の駒操作。戦術指導。



 まずはマウへの指示。優れた敏捷性が必要とされる任務。





 しかし生ずる一瞬の戸惑い。





 先程から好き勝手に暴れている連中に耳を傾けさせるには一体どうしたらいいのか。





 思案に気を取られ、待っているのは大きな落とし穴。



 辺りを埋め尽くした取り巻きエネミーからの不意の一撃。



 完全な死角から飛んできたそれはかすめた程度のダメージ。



 だが戦闘能力ゼロの俺は体力ゲージも既にゼロ。



 敏捷性皆無が故に人一倍状況確認が欠かせないはずの俺の凡ミス。



 致命的な後れ。不覚。



 気づけばその場に崩れ落ちる肉体。






 当たり前だがエネミーからは普通にダメージを食らう。




 ダメージを受ければ普通に痛いし、体力ゼロで普通に死ぬ。




 そして普通に復活可能(衰弱状態だが)。




 PCとして当然の挙動。しかしNPCたるマウ達から見たらそうではない。



 力尽き倒れ、立ち上がるその様を見て何を思うのか。



 そんなことは俺にはわからない。






 しかし空気一変。きっかけなんて程のものでもないのだろうが、捕らわれのリン以外の三人にスイッチが入る。



 好機到来。察知した俺はすかさず指示を飛ばす。






「マウ、色違いの個体を主の元へ誘導しろ。うまくいけば主から盗み放題だぞ」



「盗み、放題、、ゴクッ」



 その単語を聞いた瞬間両の眼がバッキバキのガンギマリ状態となり、よだれを垂らしながら即座に実行に移すマウ。



 惚れ惚れするほどの俊敏さ。さすがはNPC界一のローグ。お利口だ。さて次はエマ。






「マウが誘導している個体に数秒持続するバリアを張れ。破裂するまで保護しろ。リンが出たらさっきのやつを頼む」



「そんなことくらい簡単だけど、リトは平気なの?」



 俺のことを気にかける余裕すらある。大丈夫だろう。






「そういうことね、ならあいつ以外を消してしまえばいいのかしら」



 シャナは既にこちらの意図を読み取って行動してくれている。






 爆炎に包まれ、色違いを残し全滅する取り巻きエネミー。



 誘導を完了し合流するマウ。



 バリア消失の数秒後破裂する個体。



 巻き込まれ、断末魔のような金切声を発し何かを吐き出す主。





 リン、脱出。





「リト…」





 俺を発見し、金縛り状態から復活するリン。しかし再会を喜ぶのは後。





 即座にリンの身体を包むヒールとイレイズ。



 そうだ体力の回復と毒の治療は全く別系統、今回は双方が必要。理解してるんじゃないか。





 捕食解除と増援停止を成功させ、全員が揃った。勝負はここから。





「リン、動けるな?タンクに必要な仕事を頼む」



 うなずき、派手な剣技で主の敵視をひきつけつつ、同時に騎士盾で相手を強打し行動を封じる。



 これぞ理想の盾役像。毎回それをやってくれたらどんなに楽なことか。






 そして身動きが取れないぺラドンナから金目の物を漁っている猫にデバフ指示。



「十分盗めたか?ではだまし討ちでそいつを弱体化させろ、それと盗んだ品は換金した後でちゃんと山分けだぞ」



「にゃ!?い、いつもちゃんと分けてるにゃ、ずずずずるなんてし、してない、にゃ?」



 言い訳しつつも主の背後から強烈な一撃。被ダメージ増加のデバフを入れる。弱点を突けば更にダメージボーナスのおまけ付き。






 シャナの方を向く。目が合う。正確には顔は見えないがそんな気がした。



 こうなることを見越して事前に長い詠唱を済ませている。



 討伐機会は次の捕食が開始されるまでのこの一瞬、今しかない。燃やせ。





「精霊魔法ファイア、Tier2」





 弱点属性の業火はデバフの効果によって更に威力を増し、最大打点。オーバーキル。



 反撃の機会すら与えない、芸術点の高い連携。



 消滅する森の主。





 討伐、完了。


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