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01.ルドリア

 

 ー


 城塞都市、王都ルドリア。騎士とエルフと妖精の国。美しい街並み、中世的建築様式の建物群


 メインストリート中央に位置するは冒険者ギルド。数多の冒険者が仕事と仲間を求め日々集う


 併設する酒場にて、次回攻略ダンジョンについての作戦会議。即ち仕事の打ち合わせ


 ー





「奥地に大ボス食人植物の化け物が一体。増援多数」


「なんであんたがクラムチャウダー食べてるのよ」


「道中の森は一本道とは言えない複雑な地形、雑魚エネミーは植物系が主」


「あたしが注文したんでしょそれ」




「以上を踏まえた上で各々何が出来るか事前に整理しておけ」


「あなたまたパンと納豆を同時に食べる気?食べ合わせを考えなさい」


「攻略時の迅速な判断と適切な行動に必要不可欠だ」


「気持ち悪いから私の目の届かない所で食事して頂戴」




「まずはタンクだ、リン」


「ねえ、マウはなぜいつも自分だけ豪華な食事なの?」


「お前が心がける点について教えてくれ」


「あの子戦闘中に盗んだものを自分の懐にいれてるんじゃないの」




「方向音痴なお前はまず森の地図を頭に叩き込んで、おい、聞いてるのか」


「うるさい、食事は大事だってあんたが言ったんでしょ、ちょっとそれさっさとよこしなさいよ」





 エルフ族伝統の騎士家系、その令嬢とは到底思えない口の利き方に辟易とするが、確かに食事は大事だ。



 各クラスに適した食事の摂取。



 これすなわち長所を伸ばし、短所を補うことと同義。




 作戦会議にも食事と同じ熱量で臨んでもらいたいものだ。



 そうでなくともリンは父君から預かる大事な身。万が一は許されない。




「お父様の名を出せばあたしが言うこと聞くとでも思ってんの」




 ああ言えばこう言うをとことん地でいく奴だ。



 あの時の涙、あれは一体なんだったのか。






 一方俺の能力を多少なりとも認めてついてきてくれている者もいる。



 アタッカーとヒーラー、シャナとエマ。パーティの頭脳。




「確かに認めてはいるけれど、多少というよりも、微少、いえナノミクロ程かしら。それよりも納豆と食パンだなんて、信じられない」


「リトが私のことを認めてる、の間違いでしょ、間違いは誰にでもあるわ、心の広い私は許してあげる。感謝なさいね」




 常に会話に必中の毒を盛り込んでくるノーム族のウィザードと、ヒエラルキーやカーストといった観点でしかものを考えないヒューマン族のクレリック。



 一定程度の信頼は得られていると思い込んでいたが、拗らせた性格とメスガキの本性とが俺の心を切り裂く。






 デバッファーのマウはというと、この騒動の中我関せず。



 一人豪華な食事に舌鼓を打っている。



 この猫耳と尻尾が特徴のミッコ族に至ってはなぜ我々のパーティに参加しているのかすら不明な状況だ。




「(こんなに自由にエネミーから盗み放題のパーティなかなかないにゃ、おいしいにゃ)」






 これが我々が今まで構築してきた人間関係だ。



 本格的に頭痛がしてきた。



 そこに思わぬ援護射撃。



「はぁ?あんたたちにリトの何がわかるっていうの。あたしが一番リトのこと知ってるの、あたしだけが知ってればいいの」



 援護、というにはあまりに斜め上すぎるリンの意思表示。



 そしてそれに呼応するように隣席から発せられる罵声。



「うるせぇぞ!ここは女子供が騒いでいい場所じゃねえ、わきまえろ。兄ちゃん、ハーレム気取りかよ、気に入らねえな」



 怒り心頭、泥酔状態のあらくれ冒険者は間髪入れずその筋骨隆々の右腕を振り下ろす。たちまちのうちに吹き飛ばされ、壁に叩きつけられる俺。






 繰り返すが、俺に戦闘能力はない。






 この地に降り立って何度も痛感してきた事実。



 実際の戦闘はゲームのそれとは根本的に違う、そのことを身に染みて感じてきた。



 PC扱いの俺はシステム上NPCからの攻撃でダメージは受けない。この場合がまさにそれに該当する。



 痛みはない。



 だがそれに気を良くし反撃に転じたところで結末は目に見えている。





 己の無力を更に痛感するだけ。





 出来ることなど熱心にプレイしたこのゲームの知識をフル活用して立ち回ること、そしてゲームシステムを利用可能という若干のアドバンテージ。



 身の丈に合った、身の程をわきまえた行動。それが肝要だ。





 撤収するとするか。





 左頬を押さえつつ立ち上がろうとする俺を柔らかな温かい光が包む。



 と同時にその身を自らの意思で操れないことに気付くあらくれ。




「強化魔法バリア、Tier3」


「弱体魔法スタン、Tier3」




 いつの間にか儀仗を手に取り、詠唱を完了しているパーティの頭脳二人。





 身動きの取れないあらくれは、すでに何者かによって身ぐるみはがされている。漁られている。マウの目にもとまらぬ早業。ローグの真骨頂。





 縮地のような素早い身動きで食卓を飛び越え俺とあらくれの間に割って入るエルフ、パーティの盾。



 素早く抜刀した騎士剣の切先をすでに戦意喪失した表情の男の鼻先に突きつけ、にらみつける。



 同時にようやく体の自由を取り戻したその男はたちまちのうちにその場から退散する。






 あまりの展開の早さにあっけにとられる俺。



 周囲の他の利用客の視線が痛い。



 椅子やテーブルが破損し散乱している。マスターに申し訳ない。



 そんな多少現実逃避した俺の思案にずけずけと土足で踏み込んでくるこの騒動の主役四人の金言。





「早く地図よこしなさい、タンクはみんなの先導も重要な役割の一つなんでしょ」


「このエマ様の前に敵はいないわ、下々の者よ、ひれ伏しなさい!」


「ハエ退治程度に何を動揺しているの、作戦指示を続けて頂戴」


「おっさん一文無しだったにゃ、無銭飲食にゃ」





 …これが俺たちが今まで構築してきた人間関係だ。





 最高かよ。涙が出てきた。





 言うことは聞かない、自分勝手で、最高の仲間たち。



 どれだけ口汚く罵りあおうとも、培ってきた絆は消えない。



 己の無力さに悲観していたことなど頭の片隅に追いやられていた、悪くない気分だ。




 さて、破損した備品の修理代はいくらだろうか…。


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