第8話 ギルド協会長の提案
「先程申した通り、事情はお聞きしました。お二人にはご迷惑をおかけしました」
「いえ、キールさんが謝ることでは……。俺の方こそ騒ぎにしてしまってすいません。だから、頭を上げてください」
「ふふ。恐れ入ります」
応接用のテーブルを挟んで向こう、キール協会長は笑いながら顔を上げる。
王都のギルド協会長という権力者なのに驚くほど腰が低い人物のようだ。
俺が元いた《黒影の賢狼》のギルド長レブラと年は同じくらいに見えるのに、えらい違いだった。
ギルド協会といえば各ギルドを取りまとめる機関。
言うなればギルドよりも上の立場に位置するのだが、その組織の長に頭を下げられるというのはどうにも落ち着かない。
「アリウスさんに絡んでいた三人は、ここのところ協会でも粗暴な行動が目立っていたのです。ここだけの話、懲らしめていただいて助かりましたよ」
「はは、そうだったんですね」
「先程の戦闘も途中から拝見しました。アリウスさんは相当なお力をお持ちのようですね」
「ふふーん、アリウス様は最強ですから。あんなおデブちゃんたち、余裕ですよ」
「こらリア。そんなに持ち上げるな」
得意げな表情を浮かべるリアと落ち着かない様子の俺を見て、キール協会長は微笑ましいものを見るように微笑を浮かべている。
「ところで、本日は我がギルド協会にどういったご用件で?」
「実は、新しくギルドを設立したいと思いまして」
「ギルドを……?」
「はい」
「……」
何か思うところがあっただろうか?
キール協会長は少しだけ考え込むように顎へと手を添えている。
「失礼ですが、アリウスさんは《黒影の賢狼》に所属していたのですよね?」
「はい、そうです」
俺の噂はキール協会長の耳にも入っていたらしい。
外れジョブを授かってエリートギルドを追い出された落ちこぼれ。
もしやそういう輩はギルド設立に相応しくないとかあるんだろうか。
他のギルドに加入を申請しても門前払いが続く状況だっただけに不安だ。
「もしかして、ギルド設立が認められないとか……」
「ああいえ、心配させてしまってすいません。アリウスさんがギルド設立をすることに問題はありませんよ」
キール協会長の言葉に俺はホッと胸を撫で下ろす。
リアが預言した、今年の暮れに現れるという漆黒の竜。
それに対抗する勢力を作るために、そして病弱な妹を助ける治療費を稼ぐために、俺はギルドを設立する必要があった。
「設立に問題はないのですが、個人的にお願いしたいことがありましてね」
「お願い? 俺にですか?」
キール協会長はコクリと頷く。
そして、実ににこやかな笑みを浮かべて言った。
「アリウスさん、これから私と手合わせしていただけませんか?」
「え? キール協会長、と……?」
「はい、是非に。アリウスさんの実力を直に感じてみたいのです」
笑うキール協会長とは対象的に、俺の顔は引きつっているだろう。
王都にいてキール協会長の強さを知らぬ者はいない。
今でこそギルドを管轄する立場にいる人だが、王都でも五本の指に入る強さだと噂されていた。
先程の男たちが少し凄まれただけで逃げていったのもそのためだ。
そんな人が俺と戦いたいと言っている。
普通であれば誰もがやめておけと止めるだろう。
――けれど……。
俺は膝の上に置いた手を少しだけ強く握る。
「アリウスさん、どうでしょうか?」
「……分かりました。よろしくお願いします」
そうだ。
これから大災厄の魔物と戦おうってのに、こんなところで尻込んではいられない。
決意した俺を見て、隣にいたリアが優しく笑っていた。