第78話 称号士と《S級ギルド》
「何と、そんなことが……」
「本当ですわ、カロスお父様」
リアがサーシャ王女を除く王族たちにかかった魔法を解除した後のこと。
サーシャ王女が正気に戻ったカロス王やルブラン王子に事の顛末を説明していた。
「やめろ! 離せぇっ! ボクは悪くない! ボクは悪くないんだ!!」
声のした方に皆の視線が向く。
見ると、サーシャ王女が命じた衛兵にレブラが連行されているところだった。
残念だが、今回のことはレブラが私欲と私怨にまみれた結果だ。
過失とはいえ弁明の余地は無いと思う。
サーシャ王女はあまり興味なさげに視線を戻し、カロス王に状況の説明を続ける。
「やっぱり信じられませんか? お父様」
「いや、意識を厚い膜で覆われていた感覚はあるが、おぼろげながらには覚えている。その少年が漆黒の竜を討ち倒してくれた様を」
カロス王はそう言って、俺の方へと歩み寄ってきた。
「アリウスと言ったか。此度の件、国を代表して礼を言わせてもらう。国の大事に敵の奸計に陥っていた余と違い、本当によくやってくれた」
「そんな、恐れ多いことです国王。それに、ルブラン王子がサーシャ王女を国外に逃していたことをお聞きしました。今回のことはそれあってのことかと」
「謙遜する必要はありませんよ、アリウス殿。あなたは確かにこの国を救ってくれたのです。本当に感謝しています」
「ルブランの言う通りだ。もちろん、他の者もよくやってくれた。心から礼を言う」
「はは、ありがとうございます」
カロス国王やルブラン王子から賛辞を投げられ、俺を含めてギルドメンバーたちは恐縮しながらも喜びを噛み締めていた。
……ただ一人を除いて。
「ふっふーん。いやぁ、王様も中々のお人柄ですねぇ。アリウス様の活躍を認めてくれたようで嬉しいですよ」
「……」
国王を前にしてもリアはブレないな……。
俺はルルカやクリス副長、ルコットと顔を見合わせ、半ば諦め気味に溜息をつく。
「サーシャよ、本当にこの青髪の少女が女神エクーリア様なのか……?」
「ええ、そのようですわ……」
「ちょっと王様! なんでアリウス様のことはすんなり信じられるのに私のことは信じられないんですか!」
「ううむ。それが、その……、何というか女神らしくない気がしてな……」
「失礼ながら同感です、父上」
「私もですわ」
「おおぅ……」
王族たちの反応に、俺たちのギルドメンバーはこぞって吹き出した。
笑い声が響き、膨れっ面のリアを除いてみんなが笑顔になる。
「して、ルブランよ。アリウスのギルドがこれだけの活躍をしたのに何もない、では王族の名が廃る。そう思わんか?」
「ええ。全くの同感です、父上」
「ふふ、お父様ったら」
「……?」
王族たちが何やら悪戯っぽい笑みを浮かべている。
何だろうか?
そう思っていると、ギルド協会の長であるキール協会長が近くに呼ばれる。
「キール協会長。今のギルドランクでは確かA級からE級が存在している。そうだな?」
「ええ、仰る通りです」
「これはいささか改良の余地があるように余は思うのだが?」
「そうですね。例えば、国の一大事を救ってくれたギルドがあったとしてもA級というのは過小評価ですし、新たなギルドランクを設けた方が良いのかもしれません」
――まさか……。
「ふむ、そうだな。それではA級の上にS級というランクを設けるというのはどうだろうか?」
「はい。国王がそう仰るなら」
「しかし、ギルドランクを新設したとしても空席ではなぁ……」
「では、その初代S級ギルドの名を国王から任命していただきたく」
「あい分かった」
まるで示し合わせたかのようにカロス国王とキール協会長との間で話が進んでいく。
そしてカロス国王は立ち上がり、皆に向けて宣言した。
「今をもってこの国のギルドランクに《S級ランク》を新設することとする! そして、アリウス・アルレインをギルド長とするギルド《白翼の女神》をS級ランクとして任命する!」
――ワァアアアアアア!!
割れんばかりの歓声が聞こえてきた。
見ると、先程まで共に漆黒の竜と戦った他のギルドの面々も拍手を送ってくれていた。
「あ、ありがとうございます。カロス国王」
「やりましたね、アリウス様!」
「師匠……。自分、本当にこのギルドに入れてもらえて良かったです……」
「アリウス。これまでよくやったな。これからもよろしく頼む」
「お兄ちゃん……、良かったよぉ……」
俺は仲間たちと喜びを分かち合い、他のギルドの人たちから称賛を受ける。
本当にみんなのおかげだなと、俺は感慨深くなりながら多くの人に感謝した。
そうしてその日は《大災厄の魔物》が退けられ、《S級ギルド》が誕生した日として歴史に残る一日となった――。
●読者の皆様へ
お読みいただき本当にありがとうございます!
いよいよ次話で完結となります。
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