第71話 決着、そして……
「ア、ウ……ア……?」
レブラに付与した称号は《愚者》と《怠惰》。
知能と魔力のステータスを下げる称号だ。
俺が称号士の能力を初めて使用した時に表示された称号でもある。
「霧が消えた……か」
仲間たちも麻痺が解けて動けるようになっていた。
レブラの魔力ステータスが称号付与で下がったことにより、発生していた霧も黒い渦も今は消えている。
「ウ……ガァ……!」
レブラは狼狽しながら自分の手を見つめていた。
何度も黒い渦を出そうと手を掲げるが何も変化が起きない。
「ガガガァッ……!」
レブラは俺が何かしたと気付いたのか、両手を突き出しながら俺に向かってくる。
フェイントも何もない、単調な動きだった。
――レブラ。お前がもっと真っ当に道を歩んでいたら、俺も違った称号を付けてやれたかもしれないのにな。
そんなことを考えながら剣の腹を向け、俺はレブラの胴へと横払いの一撃を振るう。
「グ、ゴァ……」
峰打ちを受けたレブラは悶絶し、だらりと体を折った。
気絶したらしい。
「そ、そこまで……! この戦い、ギルド《白翼の女神》の勝利とする!」
――ワァアアアアア!
状況を理解した審判が試合終了の宣言をする。
それから少し遅れ、観客たちから割れんばかりの歓声が巻き起こった。
ルコットを始めとしてギルドメンバーが最前列から手を振り、サーシャ王女が胸の前で合わせた手を握りしめているのが見える。
「やった、やりました! さっすがアリウス様です!」
笑顔を弾けさせて、リアが抱きついてきた。
ルルカとクリス副長も駆け寄ってきて、俺たちは健闘を称え合う。
「これで決着だな、アリウス」
クリス副長がそう言って、気絶したレブラを見ている。
「何が?」とは聞かないでおいた。
***
「ルルカ! 大丈夫でしたの!?」
「だ、大丈夫です、お姉様。師匠が守ってくれたので」
控室に戻るとマリベルが心配をしていたようで、ルルカに駆け寄っていた。
妹の無事を確認してほっとしたのか胸を撫で下ろしている。
「決勝進出、お見事ですアリウスさん」
「ありがとうございます、マリベルさん」
「これで私たちが勝てば決勝はルルカとの姉妹対決ですわ。何としても勝ってきますので待っていてくださいな」
「えー? 大見得を切って負けないでくださいよ、オバサン」
「くっ、このチビっ子ったら……」
リアが茶々を入れ、マリベルがそれに反応する。
そうして言葉を交わしていると、マリベルのチームが審判に呼ばれた。
「じゃあ、行って参りますわ」
マリベルは言って、アリーナの中へと進んでいく。
それを見送った俺たちは、控室の椅子に腰掛けて一つ大きく息をついた。
「これであとは決勝を残すのみ、か……」
あと一つ。
元々はサーシャ王女から依頼され、王族を救うためにという目的で始まった大武闘会への参加。
思いがけずレブラと戦うことになったが、決勝に勝ち進むことができた。
これから行われる準決勝の第二試合を勝ったチームと戦うことになるが、順当にいけば賢者のジョブを持つマリベルのチームと戦うことになるだろう。
そう思っていたが……。
「そこまで――!」
終了の宣言と共に勝者として告げられたのはマリベルのチームではなかった。
「勝者、《赤鱗の大蛇》――!」
「お姉様が、負け……」
その戦いは一方的だった。
マリベルを筆頭として魔法職のエキスパートが繰り出した凄まじい攻撃。
それを《赤鱗の大蛇》のチームリーダーである男は全て躱し、素手だけでマリベルの魔道士チームを制圧してみせた。
「あんなの、人間の動きじゃありませんわ。しかも、ジョブ能力すら使っていないようで……。恐るべき身体能力でした……」
足を引きずりながら控室に戻ってきたマリベルが放ったのはそんな言葉だった。
「これは……、思わぬダークホースですね。アリウス様」
「ああ。あの動き、確かにマリベルさんが言う通り尋常じゃない」
「お姉様がこんな簡単にやられるなんて……」
「他の三人は数合わせだったのだろうか? ほとんどあのリーダーの男だけで戦っているように見えたが……」
控室からアリーナを覗いていると、《赤鱗の大蛇》のリーダーがこちらを向いて目が合う。
――笑った?
リーダーの男は俺の視線に気づき、微かに口の端を上げたように見えた。