第70話 最初の称号付与
「ククク、どうだい? これがボクの得た新しい力さ!」
「あの黒い渦は……」
レブラの上空に出現した黒い渦。
それには見覚えがあった。
これまでに何度も遭遇した、モンスターが突如として出現する際に発生していた現象。
そしてそれは、赤眼の男、呪術士ガルゴが操っていたものでもある。
レブラはガルゴから力を得たと言っていたが、これがそうなのだろう。
「一体どんな効果が……」
クリス副長が呟いたその答えはすぐに訪れる。
「いくぞ……! そらそらっ!」
「……っ」
レブラが声を発すると、渦からは黒い球体が放たれる。
こちらに向けて無作為に飛んでくるそれは禍々しいオーラを纏っていた。
俺たちはそれを間一髪で回避する。
「うぇ……。なんですかコレ?」
「地面が、溶けてる……?」
リアとルルカが呟いた言葉通り、黒い球体が直撃した部分がドロリと液体のように溶けていた。
――これは触れるとヤバいな……。
ならば距離を取って戦うのが無難と、俺は《紅蓮》の称号を付与し遠距離から魔法でレブラを攻撃する。
「中級火属性魔法、フレイムスピア――!」
「おっと!」
向かっていく炎の矢に対しレブラは黒い渦を展開させる。
すると、炎の矢はその渦に飲み込まれて消失してしまった。
「……」
フロストドラゴンと戦った際に呪術士ガルゴが使用していたのと同じような効果だ。
魔法を打ち消すというよりも、どこかここではない別の空間と繋げて飲み込んでいるような……。
いや、今はあの能力について吟味している場合じゃないか。
「ククク、素晴らしい! 素晴らしいよこの力は!」
レブラは両手を広げ、恍惚とした表情を浮かべている。
が、突然苦悶の表情に変わったかと思うと、手で額を抑えた。
「ぐ、ううっ……!」
「……どうしたんだ?」
レブラのその様子。
昨日、王都の酒場で話した時と同じだった。
もしかして、レブラはあの力を使うことで体を蝕まれているのか?
あれがガルゴの使用していた能力と同一ならば、それは呪術士の能力だ。
本来、呪術士の能力は体に大きな負担がかかるものだと以前リアが話していたことがある。
ガルゴがどのようにしてその負担を抑えているのかは不明だが、レブラにはその負担に耐えるだけの耐性が無いらしい。
「よせっ、レブラ! その力はお前じゃ――」
「うるさいよアリウス君……。君のせいでボクは全てを失ったんだ……。今ここで君に負けるわけにはいかない。ボクは絶対に勝たなきゃいけないんだ。そのためなら多少の犠牲は承知さあ!」
レブラの顔は苦痛を受けて歪みながらも、狂気の笑みに変わる。
どう見ても普通の状態じゃない。
「この能力を使えばこんなこともできるのさ。ホラっ!」
レブラは俺の忠告に聞く耳を持たず、黒い渦から霧のようなものを発生させた。
その霧はたちまち俺たちを包み込んでいく。
「くっ……」
クリス副長が隣で片膝をつく。
リアとルルカも続き、身動きが取れなくなっているようだった。
俺はそれを見て息を止める。
どうやらこの霧には麻痺効果のようなものがあるらしい。
「咄嗟に息を止めたのは流石だねアリウス君。けど、他のメンバーたちはこれを防ぎきれるかなぁ!?」
レブラが再び黒い渦を展開させる。
目は血走り、鼻や耳などの穴からは血が垂れていた。
レブラは再び渦からあの黒い球体を発射するつもりだ。
俺はともかく、霧のせいで体が痺れているらしいリアやルルカ、クリス副長は避けることは難しいだろう。
――仕方ない、か……。
「……」
「ハハハ! どうしたアリウス君。構えを解いちゃってさあ! 君も仲良くこの魔法を喰らうつもりかい!?」
俺は右手を前に突き出し、レブラの方へと向ける。
そうして、静かに称号士の能力を発動させた。
「何だい? この黒い渦があるボクに魔法は――」
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【対象レブラ・テンベル、選択可能な称号付与一覧】
●愚者
・知能のステータスがダウンします。
●怠惰
・魔力のステータスがダウンします。
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怪訝な表情を浮かべているレブラに向けて、俺は一言呟く。
――悪いなレブラ。ちゃんと戦ってやりたかったが。
「同時称号付与。《愚者》、《怠惰》――」
俺がその言葉を唱えると、辺りに満ちていた霧は消え去り、レブラの展開していた黒い渦も消失する。
そして――、
「ア、ウ……ア……?」
口をパクパクと開き、言葉が発せなくなっているレブラだけが残った。
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