第69話 レブラとの決戦開始
「それでは、始め――!」
「ククク。それではお前たち、かかれ!」
審判の開始宣言がなされた直後、レブラが号令を発すると周りにいた黒装束の男たちが短剣を構えこちらに向かってきた。
妙だな。
レブラのジョブ【バトルマスター】は全てのステータスを上昇させる前衛向きのジョブ能力のはず。
だというのに、黒装束の男たちを向かわせた後でレブラは後ろに控えている。
――あれは、何か魔法を使おうとしている?
不可解な行動を取るレブラは気になったが、俺は前衛に位置するクリス副長と一瞬だけ視線を交わして迎撃体制に入る。
「リアとルルカは魔法の準備を! 黒装束の男たちは俺とクリスさんで食い止める!」
「わっかりました、アリウス様!」
「了解です、師匠!」
俺は自身に称号付与を試みる。
選択するのは連続剣技を使用可能にする《疾風迅雷》と筋力ステータスの上昇効果がある《豪傑》。
これで近接武器を持つ黒装束の三人をまず撃退する狙いだ。
黒装束の男たちの動きは素早く、右に左にと揺さぶりをかけながら接近してくる。
「ククク。捉えられるかい? 彼らの動きを!」
後ろでレブラが吠えているが、俺は無視してクリス副長に合図を送る。
「クリスさん!」
「応っ――!」
クリス副長は剣を大きく後ろに引き、力を込めた重撃を放つ。
「フハハハハ! どこを狙っている!」
レブラの言う通り、クリス副長の剣撃は黒装束の男たちを捉えることはなく、前方の地面を激しく穿った。
だが、これでいい。
「「「――ッ!」」」
「何ぃっ!」
クリス副長の剣によって巻き上げられた石畳がつぶてとなり、突進してきた黒装束たちの行く手を阻んだ。
――今だっ!
「三連続剣技、《トリプルアサルト》――!」
俺は突然の出来事に怯んだ黒装束たちへ向け、瞬速の三連撃を放った。
《豪傑》の称号付与により強化されていたその攻撃が3人の男を捉える。
大武闘会に向けてクリス副長と連携の特訓を行ってきた成果だ。
俺の繰り出した連続剣技は男たちの装備していた短剣を粉々に破壊しつつ、大きく後退させることに成功する。
「リア、ルルカ!」
「アクアショット――!」「ソニックダート――!」
「「「ガァッ……!」」」
すかさずリアとルルカが水撃と風の矢を放ち、その魔法は男たちへともろに直撃した。
男たちは地面に倒れ込み、白目を向いているようだ。
あの様子では戦闘不能だろう。
眼前に残ったのは一人後ろに控えていたレブラのみとなった。
「さぁて。覚悟して下さいよ、糞ギルド長」
「……ク、ククク」
リアが言ったその言葉に対し、レブラの顔に浮かんでいたのは焦燥ではなく、怪しげな笑みだった。
「覚悟するのは君たちの方だ。ボクは駒たちを使って時間が稼げれば良かったのさ」
「何……?」
「見たまえ! ボクが新たに得た《闇魔法》の力を……!」
レブラがそう言って両手を掲げると、その上空には巨大な《黒い渦》が出現していた。