第65話 大武闘会、開幕
「それではこれより、一回戦の第三試合を始める! ギルド《白翼の女神》と《飽食の翼竜》の代表者は前へ!」
前の試合が消化され、いよいよ俺たちの番となった。
アリーナ内に出た俺たちは審判に促され、中央まで歩いていく。
「お兄ちゃーん! 頑張ってね!」
「アリウスさーん! 優勝ですよ優勝!」
見るとルコットやポールが観客席から身を乗り出し、俺たちに向けて元気よく応援してくれていた。
奥の方では厳重な警護の中で王族が座り、サーシャ王女がこちらに向けて手を振っていた。
側には国王とルブラン王子の姿も見える。
サーシャ王女が言うように遠目から見ても二人の様子は少しおかしい気がした。
大武闘会で勝って王族たちにかかっているであろう魔法を解かなくては。
そんな思いを強め、俺は仲間たちと共にアリーナの中央へと向かう。
そうして試合が行われる位置まで来て、反対側の控室から出てきた相手のチームと向かい合った。
「……アリウス様。何かあの人たち、めっちゃ睨んでません?」
リアに言われて見ると、確かに相手のギルドチームのうち三人の男が俺のことを睨みつけていた。
その中でも髭面の大男が特にギラギラとした殺気を放っている。
「ええと? どこかでお会いしましたっけ?」
「ああん!? テメェ、俺たちのこと忘れたのか!」
いきなり高圧的な口調を向けられる。
――何だろうか? 確かにどこかで見たことのあるような気もするが……。
俺は記憶を辿っていき、男たちの顔と態度で思い当たる。
リアも同時に思い当たったようで、男たちを指差し、叫ぶ。
「ああー! 思い出しました! この人たち、ギルドの立ち上げをする時アリウス様に絡んできた輩です!」
「ようやく思い出したか! あの時そこのアリウスに負けてからなぁ、俺たちは勝つために特訓を積んできたんだよ!」
「名前は確か……、オデブ三兄弟!」
「違ぇよ! オデル三兄弟だ、オデル三兄弟!」
リアの放った言葉に、ルルカとクリス副長が小さく吹き出していた。
「ったく、女ばかり連れて来るなんてよ。ナメやがって」
「でもアニキ、青髪の嬢ちゃんもそうだけど、後ろの二人もかなり上玉だぜ」
「魔女っ子の嬢ちゃんは将来有望な感じだし、後ろの胸がデカい銀髪のネエちゃんもかなりの別嬪だ」
髭の大男の脇にいた二人が言った言葉に、ルルカとクリス副長がピクリと反応する。
「む。確かに言われてみればそうだな。どうだい嬢ちゃんたち。そんなアリウスとかいうくだらねぇ男のところにいないで俺たちのギルドに来るってのは――」
「「「あ?」」」
大男が言って、女性陣三人から怒りのオーラが立ち上る。
「それでは一回戦第三試合、始め!」
審判が試合開始の宣言をするのと、三人がオデル三兄弟を攻撃するのはほぼ同時だった。
「アクアショット――!」「エアリアルドライブ――!」「バーストストライク――!」
「「「――おぁああああああああ!!」」」
三人がそれぞれ魔法と剣技を放ち、オデル三兄弟は三人仲良く吹っ飛んでいった。
――おい、ちゃんと加減したのか……?
「あ、え? あ?」
残った一人は事情が飲み込めないといった様子で慌てふためいている。
オデル三兄弟に連れてこられたのだろうが、何というか少し可哀想ではある。
「まだやります?」
《閃光》の称号付与で素早く残りの一人の所まで距離を詰め、眼前に剣を突きつけて言った。
「き、棄権しますぅ!」
試合開始からおよそ5秒。
俺たち初戦は、大武闘会始まって以来の最速決着という形で幕を閉じたのだった。