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第63話 【SIDE:黒影の賢狼】レブラの堕落


「嘘だ……。嘘……」


 王都場末の酒場にて。


 《黒影の賢狼》のギルド長レブラ・テンベルは泥酔し、ひたすら同じ独り言を呟いていた。


 卓の上にはいくつもの酒瓶が転がっている。

 その中身はレブラの体内を巡り、自分を除くギルドメンバーが脱退してしまったという現実から逃避するのにほんの少しだけ役立っていた。


「おい、大丈夫かあのお客さん。さっきからブツブツと」

「ああ、お前は最近王都に来たから知らないんだったな。あの男はな、ついこの前までA級ギルドのギルド長だった男なんだが、最近ちょっとした事件があってな」

「へぇ、どんな?」

「あの男が無能だと追い出したアリウスって奴が新しくギルドを立ち上げたんだよ。そしたらそのギルドが大活躍。アリウスってギルド長も強いのなんの。あの男のギルドにいたメンバーはそのアリウスって男を追いかけて出て行っちまったってわけさ。それも全員な」

「おぉ、それは何とも……」

「で、あの男のギルドはC級にランクダウン。アリウスの《白翼の女神》ってギルドはA級に昇格して今は依頼が殺到しているって噂だ」

「そりゃあ大した下剋上だな」

「ま、あの男がアリウスって人間の強さを見抜けなかったことが要因だからな。因果応報ってやつなんだろうよ」


「……」


 他の客の会話は事の顛末を見事に語っており、レブラはそれで現実へと引き戻される。


「くそっ……。アリウス君さえいなければ……」


 そんな言葉がレブラの口から溢れる。

 原因を自分自身に回帰させないあたりがレブラらしいところだった。


 それ故に今回の事件が起きたのだと言えるが……。


 レブラは手にしていたグラスを煽り、またも現実逃避のための液体を体に流し込む。


 と、そこへ一人の黒いローブを纏った男が現れた。


「堕ちたものだな、レブラよ」

「……ガルゴ君か。そんなに人を引き連れて何の用だい……?」


 レブラが言った言葉通り、呪術士ガルゴは何人かの男を連れていた。

 その者たちの目は虚ろで、一切の感情を有しているように見えない。


「何、貴様のギルドが窮地に陥っていると聞いてな」

「……皮肉のつもりかい? 今は何もする気が起きないんだ。帰ってくれないか」

「レブラ。一つ良い報せを持って来てやったのだ。あのアリウス・アルレインのギルドが《大武闘会》に出場するとのことだ」

「アリウス君が……?」


 ガルゴが放ったアリウスという名にレブラは一瞬だけ反応した。

 しかし、レブラはすぐにガルゴから目を逸らすと、グラスを強く握りしめる。


「フン……。だとしてもボクには関係のないことさ」

「何故だ? 恨みを晴らしたいのだろう? 大武闘会に出てアリウスと雌雄を決すれば良い。そうすれば地に落ちたギルドの評価も幾ばくかは回復するだろう」

「……だとしても、だよ。そもそも大武闘会はチーム戦だ。今のボクにはギルドメンバーがいないの、ガルゴ君だって知っているだろう?」

「クック。何だ、そんなことか。てっきりアリウス・アルレインには敵わないと尻尾を巻いているのかと思ったぞ」

「……っ!」


 その言葉に、レブラはガルゴを睨みつけた。

 ガルゴはそんなレブラの反応を意に介せず続ける。


「人員なら、ここにいる者たちを使えばいい。それなりに腕の立つ者たちだ。全員が貴様の忠実な下僕として動くだろう」

「なんだって……?」


 ガルゴがパチリと指を鳴らすと、虚ろな目をした男たちがレブラの前に膝をつき、忠誠の意を表した。

 レブラはその事象に目を見開く。


 この男たちは一体何だ? いや、そんなことはどうでも良い。ギルドメンバーが準備できるのであればギルド再建に向けた足がかりとできるのではないか?

 そんなことをレブラは考える。


 思案顔になっているレブラに向けて、更に言葉を繋いだのはガルゴだ。


「それと、貴様にはこの力を貸してやろう。遺恨を晴らしたいと思うのなら、アリウス・アルレインと戦うがいい」

「な、何を……?」


 ガルゴがレブラに手をかざすと刹那、黒い靄のようなものが発せられる。

 それはモンスターの放つ雰囲気と酷似していた。


 その靄はすぐレブラに取り込まれて消える。


「こ、これは……! この力は……!」


 レブラはその力の使い方を直感的に理解した。

 と同時に、それがいかに強大な力であるかも……。


「ク、クク……。アーハッハッハァッ! 素晴らしい! 素晴らしいよガルゴ君!」


 大声を上げて笑うレブラの元に、酒場の店主が釘を刺しに寄ってくる。


「おいおいお客さん。さっきからちょっとうるさいよ。他の客もいるんだ。少しは静かに――」

「ククク、うるさいのはキミの方だ!」

「がべっ――!」


 レブラは店主に向けて軽く片腕を振った。

 そこから放たれた黒い気流の直撃を受け、店主は壁面に叩きつけられ白目を向く。


「やはり……」


 レブラは自身の手を見つめる。

 そして手応えを実感し、きつく拳を握り込んだ。


「いける……! この力なら、アリウス君だろうと敵ではない!」

「フフフ。気に召したようで何よりだ。大武闘会に出場する気になったか?」

「ああ……。そういえば大武闘会の優勝者にはサーシャ王女との婚約が認められるのだったね。王女を我が物にしたとなれば王族とのパイプすら築ける。そうすればギルドの再建を図ることだって……。ククク。完璧なシナリオじゃあないか……!」


 そう言って、レブラは醜悪な笑みを浮かべる。

 そして、自身の勝ちを確信したかのように高笑いした。


 (せいぜい道化らしく踊るのだな、レブラよ……。舞台は用意してやる。もっとも、貴様がアリウス・アルレインに勝つなどとは微塵も思わんがな……)


 ガルゴは、ローブの中で小さく呟く。


 高笑いを続けるレブラがその声に気付くことは無かった――。


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