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第61話 称号士は王女から惚れられる


「どどど、どうぞ、王女様」


 妹のルコットが震える声と共に紅茶を差し出す。

 あまりの緊張からか紅茶の入ったカップとソーサーがカチカチと音を立てていた。


「ありがとうございます。ですが、どうかお気になさらず。普段どおりになさってくださいまし」


 サーシャ王女はそう言って、優雅な所作で紅茶に口を付けた。


 今は俺とリア、ルルカ、クリス副長の面子で大机に同卓している。

 サーシャ王女の高貴な外見が目を引くのか、他のギルドメンバーも周りで談笑しているように見えて時折こちらをチラチラと窺っていた。


 ――まあ、気になるよな。


(あの、アリウス様。何で王女様がここにいるんですか?)

(分からん。というか俺が聞きたい)

(師匠が実は王族と知り合いだった、とか?)

(そんなわけあるか)


 小声でリアとルルカに言われて俺はそんな反応を返す。


 キール協会長に紹介されて、というのは何となく分かる。

 あの人は俺たちのことを買ってくれている感があるし、それはありがたい限りだ。


 ただ、何故王女様がわざわざギルドに依頼をしに来たのか?

 王族であれば王城に仕える騎士や側近など、いくらでも頼る相手がいそうなものだが……。


「あの、王女様は何故ギルドの方に依頼を?」


 クリス副長が俺の気持ちを代弁するかのようにサーシャ王女へと尋ねてくれた。


「ええ。そのように思われるのも当然ですわね。……実は、私の依頼内容に関係があるのです」

「……というと?」

「結論から申し上げると、此度、王都で開催される《大武闘会》に出場していただきたいのです」

「大武闘会に?」


 サーシャ王女はコクリと頷く。


 《大武闘会》といえば毎年王都で開かれる武術大会だ。

 チーム戦で行うことからギルドで参加する者たちも多い。


 王族が取り仕切りを行っていることから注目度が高いことはもちろん、非常に権威のある催しとして知られていた。


「アリウスさんのギルドには、この《大武闘会》で優勝していただきたいというのが今回の依頼内容です。そして、私を救っていただきたいのです」

「ええと、話が見えないのですが?」


 大武闘会で優勝、というのもさることながら、何故それがサーシャ王女を救うことに繋がるのだろうか?

 そんな俺の疑問に、サーシャ王女が少しだけ表情を曇らせて答える。


「まだこれは公にされていないことなのですが、今回の大武闘会の優勝者には私サーシャ・ド・ヴァリエールとの婚約が認められるのです」

「……は?」


 予想していなかった言葉に、思わず素っ頓狂な声を上げてしまう。


「え? ということは王女様が武術大会の賞品ってことですか?」

「こらリア。失礼だぞ」

「構いませんわ。まさにその通りですもの」


 サーシャ王女はリアの言葉を肯定するかのように目を閉じて言った。

 王女を武術会の優勝者と婚約させるなんて、どう考えても不可解な話だ。


 そう考え、俺はサーシャ王女に尋ねてみる。


「その発案はどなたが?」

「私のお兄様、ルブラン・ド・ヴァリエールですわ」

「ルブラン王子が……」

「有名な方なのですか? アリウス様」

「ああ、俺も直接お会いしたことはないし話に聞くくらいだけどな。若くして次期国王の呼び声が高い方だ。ただ、こんな突飛な話を出すような人だとは思えないんだが……」


 王族の継承争いか何かだろうか。

 それにしても何やら不穏なものを感じるが。


「本当にお兄様は何を考えているのやら。……と言いたいところですが、アリウスさんの仰る通り、お兄様がそのような発案をするとは考えにくいのです。それに、国王であるお父様もその発案を承認したというのですから、余計に信じられません」

「王女様は何者かの陰謀の可能性もあると?」


 サーシャ王女は静かに頷いて真っ直ぐにこちらを見つめる。


「その可能性が高いと思います。実はこのところ、お兄様やお父様含め、王城にいる者の様子が変なのです」

「様子が変?」

「ええ。何やら目が虚ろというか……。私も今回の件にはもちろん異論を申し出ましたが、まったく取り合ってもくれなくて。優しく、聡明な人たちでしたのに……」


 なるほど、それは確かに妙だ。

 俺はそう思うと同時に、頭の中である一人の人物を思い浮かべていた。


 ――赤眼の男、呪術士ガルゴ・アザーラ。


 確か以前、グロアーナ通信の記事の一件があった際にパーズが言っていた。

 上層部の様子がおかしく、本来のその人たちではあり得ない決定をしていたと。


 確信は持てないが、まさか今回も奴が絡んでいるのだろうか?


 ――もしそうだとすれば、今回は王族とも関係してきているのか。何か規模が大きな話になってきたな……。


「今年は災厄の魔物が現れるとされる年。王族としてもその中で武術大会を盛り上げ、より有力な者を募りたい。それを表向きの理由として発表するつもりのようですわ。そこで目玉の賞品として私を据えたというわけですね」

「酷い話ですねぇ。王女様にも想い人がいるかもしれないのに」

「その通りですわっ!」

「え、ええ?」


 リアが何気なく言った一言に、サーシャ王女が声を荒げて卓を叩いた。

 先程までの落ち着いた態度から変貌したその姿に、俺を始めとして同卓していた女性陣も目を見開いている。


「コホン……。失礼致しました。とにかく、私は誰とも分からない殿方と婚約するなんてまっぴらごめんなのです」

「な、なるほど。だから俺たちに話を通しておき、優勝してもらえば婚約の件もうやむやにできるのではないかと?」

「……」

「王女様?」

「……え、ええ。その通りですわ」


 なるほど、趣旨は理解した。

 しかし、少し気になるな……。


 何故サーシャ王女は今回の件を俺たちのギルドに持ちかけたのだろう。

 キール協会長の勧めで信用してくれている、ということなのだろうか?


 そんなことを考えていると、サーシャ王女が手にしていたティーカップを置いて口を開く。


 ……? 何か、顔が紅潮しているような……?


「と、時にアリウスさん。貴方、心に決めた意中の女性はおりますの?」

「「「……え?」」」


 その言葉に、リア、ルルカ、クリス副長の女性陣が揃って反応する。

 サーシャ王女は「な、何でもありませんわ」と言って目を逸らしてしまった。


 ――い、いや、まさかな……。


「アリウス様。この王女様、もしかして――」

「あ、あのっ! 王女様はどうして俺たちのギルドに依頼をされたんですか? キール協会長の勧めとはいえ、俺たちのギルドで良かったんでしょうか?」


 俺は咄嗟に話題を変えようと先程の疑問を口にする。


 が、それは自ら泥沼にはまる質問だったらしい。


「貴方()いいのです!」

「え……」

「実は以前アリウスさんの勇姿を遠目から拝見したことがあるのですあれは私が隣国の公務から帰還する時のことアリウスさんがモンスターをバッタバッタとなぎ倒していく様が本当に逞しくて本当にカッコ良くてその時のお姿が目に焼き付いて離れずそれから毎晩貴方のことを夢に見るのです気付けば貴方のことを考えない日は無く今日お会いするのも本当に心待ちにしていて――。……はっ! 私としたことが……」

「おおぅ……」


 サーシャ王女は思い切り早口で言った後、両手で顔を隠すように覆った。

 先程の比じゃないくらいに顔が赤くなっている。


「ほほう。さすが王女様、お目が高い」

「さすが師匠……。まさか王女様まで虜にしているとは……」

「アリウス。君という奴は本当に人気者なのだな。……特に女性から」


「やめてくれみんな……。どう反応していいか分からん」


 遠目からやり取りを見ていた妹のルコットや、他のギルドメンバーも驚いた顔を浮かべているのが分かる。


 俺が額に手を当てて困惑する中、指の隙間からチラリと上目遣いにこちらを窺うサーシャ王女が目に入り、何というか可愛らしかった。


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