第60話 称号士と王女
「まず、以前アリウスが言っていた呪術士ガルゴという男。この男がレブラと何らかの関わりがあったのは間違いないだろう」
「ええ、クリス副長が《黒影の賢狼》にいた時、レブラの執務室でガルゴを見たということからも明らかでしょうね」
俺たちはまず、各地で暗躍している呪術士ガルゴのことを話すことにした。
「あの男にどんな目的があったのかは分からんが、不穏なものを感じるのも確かだ。とはいえ、あのグロアーナ通信の記者からも特に情報は入ってきていないのだろう?」
「はい。タタラナ温泉郷でフロストドラゴンと戦った時以来消息は不明でして」
「ふむ。奴のことは気になるが、今は地道に情報収集をしていくしかない、か。レブラから聞き出せれば良かったのだがな」
レブラはあれ以降、ギルドにも姿を見せていないらしかった。
と言っても、ギルドメンバーが自分一人だけではギルドでやることも無いのだろうが……。
「となると、やはり《大災厄の預言》で現れるとされている漆黒の竜について、ですね」
「ああ、女神様の言うところによれば――」
「もう! クリスさんってば。『リア』で良いって前に言ったじゃないですか」
「む、そうだったな……。リアの話では今年の暮れに現れるということだったが、まだ詳しく話を聞いていなかったな。何か知っていることはあるのか?」
「そうだな。それは俺も聞きたい。リアがこの世界に伝えた預言ってことは、女神の力によるものなんだよな?」
リアが俺とクリス副長の質問に対し、ムムムと考え込んでいる。
「ええ。確かにアリウス様の仰る通り、《大災厄の預言》は女神の力によるものなのですが、私も時期以外は詳しく分からなくてですね。その漆黒の竜が超強いってことは分かるんですが」
「今年の暮れ……。あと半年ちょっとか。となると、そこまでにギルドの依頼をこなしながらみんなで強くならないと、だな」
幸いにもA級ギルドに昇級したことによって寄せられる依頼の数も増えるだろう。
人数も多くなったことだし、皆で分担して依頼に当たれば経験値を積んでいくことができるはずだ。
「ふむふむ。となると新しく依頼を受注したいところですねぇ」
「ああ、それについては早速今日話があってな。ウチのギルドに依頼者が一人来るってことをギルド協会のキールさんから聞いているが」
「ほう。そうなのか、アリウス」
「ええ。もうすぐ来る頃かと――」
「失礼致します。ギルド《白翼の女神》さんはこちらでしょうか?」
鈴の鳴るような声とともにギルドに入ってきたのは一人の女性だった。
フードを目深に被り、顔を隠しているようにも見える。
「初めまして。《白翼の女神》のギルド長、アリウス・アルレインと申します。キール協会長が話していた依頼者の方ですか?」
「ええ、その通りですわ」
生地のしっかりした外套を羽織ったその女性は、端的ながらも丁寧な口調で答える。
話し方や風貌からして高貴な身分の人のようだ。
その女性が、フードを取る。
妖精かと見まごうようなブロンドの髪に整った顔立ち。
こんな女性が街中を歩いていたらさぞ目を引くだろうと、そう思わせるような容姿だった。
どんな依頼者なのか興味があったのか、リアも俺の隣にやって来て感嘆の声を上げる。
「ふわぁ、綺麗な方ですねぇ」
「ふふ。そう仰っていただけると嬉しいですわ」
リアの言葉に、その女性は口に手を当てて上品に笑っている。
やっぱり、何かしら地位のある人なのだろうか?
「失礼、自己紹介がまだでしたね。……初めまして、アリウス・アルレインさん。私、この国の王女、サーシャ・ド・ヴァリエールと申します」
「ええ、初めまして」
「なーるほど、王女様でしたか。どうりで」
「……」
「……」
沈黙の後、リアと顔を見合わせる。
このお嬢さん、変なことを言わなかったか? と確認するかのように。
そして、先程放たれた言葉を消化した後、二人で揃って声を上げる。
「「お、王女様ぁ!?」」
その声に、ギルドメンバーたちが驚いてこちらを見ていた。