第59話 称号士はギルドメンバーたちに称号付与を行う
このお話から新展開となり、ラストまで向かっていきます。
戦闘シーンなどは少し先になりますが、絶対に盛り上がるラストになっておりますので、是非続けてお読みくださると嬉しいです!
「お前は、確か弓矢を扱うのが得意だったな。なら、命中率をアップさせるこの称号はかなり効果があるだろう」
「そんなことが……」
「試しにそこの的を射てみるといい。たぶん違いが分かるはずだ」
「――おお、凄いですアリウスさん! 今までの精度とは桁違いですよ!」
「それは良かった」
称号付与したギルドメンバーが喜んでいるのを見て、俺まで嬉しくなる。
かつて《黒影の賢狼》で共に戦った仲間。
今は俺たちのギルド《白翼の女神》の仲間だ。
《黒影の賢狼》におけるギルドメンバーの大量脱退、及び《白翼の女神》へのギルドメンバー大量加入は、たちまち王都の人々へと知れ渡ることになった。
そのこともあり、《黒影の賢狼》はA級からC級に、《白翼の女神》はB級からA級へとギルドランクが変更になっていて、今王都ではちょっとした……、というかかなりの話題になっている。
「ふう。これで称号付与は全員かな?」
「お疲れさまです、アリウス様」
移籍してきたギルドメンバーに称号付与を終えると、リアが覗き込んできた。
ギルドの1階部分では、称号付与により自身の能力が大きくパワーアップしたことに感動するギルドメンバーが多数。
ルルカは魔道士系のジョブを持つギルドメンバーから質問攻めにあっていて、照れくさそうにしながらも魔法のことを教えてやっているようだ。
時折、女性のギルドメンバーから「やーん、この魔女っ子ちゃん可愛いー!」などと抱きしめられているようだが……。
受付嬢のルコットは急に増えたギルドメンバーの家族構成や、それ故に手配すべき休暇のスケジュールなどを資料としてまとめてくれていた。
ギルドメンバーとコミュニケーションを取りながら、ルコットは凄まじいスピードでペンを走らせている。
つい先日までは俺、リア、ルルカ、ルコットの4人しかいなかった空間。
そこで皆が和気あいあいと交流している様を見るとどこか感慨深くなった。
――広いギルドで良かったな。
そんなことを考えて、俺は目を細める。
「順調ですねぇ。アリウス様の強さに加えてこれだけのギルドメンバーがいれば《大災厄の魔物》にだってきっと立ち向かえますよ」
リアもまた、ギルドメンバーの賑やかにしている様子を見ながら微笑んでいた。
非常に強大な力を持っているという「漆黒の竜」。
「今年の暮れにこの竜が現れグロアーナ大陸全土を脅かす存在となる」というのが、リアの預言した内容らしいが。
「しかし感慨深いですねぇ。アリウス様とふ・た・り・で、立ち上げたギルドがここまで発展するとは。いやまあ、アリウス様と二人きりの時間が減ってしまったのはアレですが。む、待てよ? ギルドメンバーが増えたということはそれだけアリウス様の時間も増えるということ。であればデートなどもやり放題なのでは?」
「……」
やり放題、ではない。
災厄の魔物に立ち向かうという話から一転、リアはとても個人的な妄想にふけっているようだ。
もはや日常的な光景になりつつあったが、こういう時はそっとしておくに限る。
「アリウス。ご苦労だったな」
リアが隣で妄想にふける中、クリス副長に声をかけられた。
「それにしても、本当にそのジョブ能力は凄まじいな。これだけの人数の力を引き出すのだから。かくいう私も称号付与をしてもらった一人だがな」
「いえ。前にもお話した通り、この力はその人の行いによって付与できる称号や効果が異なりますからね。プラスに働く効果が得られているのはその人がこれまで頑張ってきたからですよ」
「ふふ。謙虚なことだな」
クリス副長がそう言って対面の椅子に腰掛ける。
ちなみに俺が新しく加入したギルドメンバーに称号付与を試みたところ、全員にプラス効果のある称号が表示された。
どれだけ皆がこれまでに努力を重ねてきたかが分かる結果である。
クリス副長に至っては《百花繚乱》という称号が表示され、その効果は「使用する全ての剣技の威力上昇」というものだった。
称号を付与した後に初級剣技を使ったら大木を両断していて、本人も苦笑していたのを思い出す。
――レブラも、これだけの精鋭揃いに見放されたんだから、もったいないというか何というか……。
まあ、レブラの場合は自業自得と言えるのかもしれないが。
「そういえば、クリスさんこそありがとうございます。副長の任を引き受けてくれて」
「いや何。というか本当に新参の私で良かったのか?」
「ええ。リアもルルカにも、ガラじゃないって断られてましたから。それに、これだけの人数となると俺一人じゃ細かいところまで見てやることはできないと思います。元のギルドでも関わりのあったクリスさんが一番適任かなと」
「そうか。そう言ってくれるのは素直に嬉しいよ。それに、ギルドの空き部屋を充てがってくれたことも感謝している」
言って、クリス副長は膝に乗せていた熊のぬいぐるみを撫でている。
クリス副長はこのギルドにやって来る際、大量の荷物を持ち込んできていた。
その大半が動物のぬいぐるみで、クリス副長のことをあまり知らないリアやルルカ、ルコットは驚いていたっけ。
まあ、俺も前のギルドで見慣れているとはいえ、そのクールな立ち振舞いとのギャップを感じるけど。
それに、ぬいぐるみを膝の上で抱えられると、その……、少し目のやり場に困るところがある。
「ううむ。それにしてもデカいですねぇ」
「ん? 何がだ?」
リアが手を顎に当てながら言ったところ、クリス副長が分からないと言った様子で聞き返す。
リアの視線は、ぬいぐるみの上に乗っかり強調されたクリス副長の胸に集中していた。
デカいというリアの意見も、……まあ分かる。
「自覚がないとは……。クリスさんは何というか……、凄いですね」
「よく分からんが、女神様に褒められるのは悪い気がしないな」
「ぐ……! こ、これが無自覚悩殺キャラですか……!」
リアが何かよく分からないことを言って頭を抱えている。
クリス副長は怪訝な表情を浮かべてそれを見ていた。
ちなみに、クリス副長を始め今のギルドメンバー全員にはリアの正体を明かしている。
このギルドの一つの目的である《大災厄の預言》に立ち向かうということについてもだ。
その唐突な事実に新参のギルドメンバーが付いてこようとしてくれるか不安だったが、「恩を受けた分は返しますよ!」と皆が口を揃えて協力を誓ってくれた。
本当にいい奴らだ。
「アリウス、今後のことなんだが」
「ええ。ギルドの活動をどうしていくか、ですね」
クリス副長が座り直していったその言葉に、俺も姿勢を正す。
そうして、俺は今後のギルド活動の方針を打ち合わせることにした。