第58話 ギルドメンバー《+25》及び《-25》
クリス副長の取り出した脱退届を見て、レブラは慌てふためいていた。
まるで予期していなかったと、そんな顔をしている。
足元が見えていないあたり、レブラらしいなと思ってしまった。
「な、何を馬鹿な。そんないきなり……」
「いきなりではありません。前々から考えていたことです。もうあなたに付いていくことはできません」
「いいのか……!? キミが抜ければその穴はキミの部下にも響いて――」
「その心配はありません」
クリス副長は懐から複数の脱退届を取り出す。
それは束となっており、かなりの数があった。
「な、な……」
「ここに来る前、預かってきました。私の分も含め、合計で25あります。みんなあなたのギルドを辞めたいそうです」
「嘘、だろう……」
レブラが呆然としながらクリス副長が手にした脱退届の束に目を向けている。
これだけの人数に辞められてはもうギルドとしての活動は困難になるだろう。
というか、「25」というのは《黒影の賢狼》でレブラを除いたギルドメンバーの数だった。
「嘘だと思うのなら読み上げましょうか? 渡すことになった場合はぜひ伝えて欲しいとギルドメンバーからの一言も添えられていますので」
「え……?」
クリス副長は一つ咳払いを入れて、読み上げ始めた。
『ギルド長、自分はロクにクエストにも出かけず部下をこき使いやがって。ウチを辞めたら他では雇われなくなる? 勝手にしろ。もう我慢の限界だ』
『アリウスさんを辞めさせるとか馬鹿なのか? と思ってたが本当に馬鹿だったわ。グロアーナ通信に話してたこと、デタラメもいいところじゃねえか』
『レブラさん、わたしのお尻を何度も触ろうとしてきましたよね。アレ、ホントに無理でした……』
「あ、ぐ……」
クリス副長がなおも読み上げ、レブラの顔はどんどん白くなっていった。
いかに実績のあるギルドでもギルドメンバーがいなくては成り立たない。
《黒影の賢狼》というエリートギルドから抜ける者がいるはずないとタカをくくってレブラはギルドメンバーをないがしろにしてきたのだろうが、そのツケが回ってきた形になっていた。
クリス副長が読み上げた内容を聞くとかつて俺に対してやったように、他のギルドで雇われないよう圧力をかけるとほのめかしたりもしていたようだ。
レブラはなぜこんなことになるのかと理解できていない様子だが、これはここに来る前、俺がクリス副長から持ちかけられた話に起因する。
クリス副長含めて《黒影の賢狼》のギルドメンバーでギルドを脱退したいと願い出ている人間。
その者たちに関して、俺たちのギルドで雇ってもらえないかという話だった。
クリス副長は前々から俺たちのギルドの活躍を見ていてくれたらしく、是非にとお願いされた。
もちろんこの話は、元々ギルドメンバーが不足していた俺たちにとってもありがたいもので、俺は「ギルドが今回の件で活動停止などの罰を受けない場合は」という条件付きでこれを了承していたのだ。
俺は状況をキール協会長にも話し、後で正式に手続きする旨を伝えた。
「承りました。かなり大きな人員の移動があるようなので、ギルドランクについても大幅に変更する必要がありそうですね」
「き、キール君……?」
「アリウスさんのギルド《白翼の女神》はこれまでの実績も素晴らしいものですし、その姿勢も見事なものです。これに加えてギルドメンバーも増えるとなると、A級とするのが妥当でしょう」
キール協会長の言葉を聞いて俺は息を呑んだ。
――俺たちのギルドが、最高ランクであるA級……。
「A級! ギルドの最高ランクですよ! やりましたねアリウス様!」
「……ああ。本当に、みんなのおかげだよ。ありがとう」
「いえいえ。私はできることをさせてもらっただけですよ」
「師匠、これからも自分はついていきますからね!」
「良かった……。お兄ちゃん」
ギルドメンバーの面々から返されて、俺は少しだけ目の奥が熱くなるのを感じた。
――本当に、いい奴らだ。
「対してレブラさんのギルド《黒影の賢狼》はC級とするのが妥当でしょうね」
「し、C級!? そんな、いきなり……!?」
「ギルドメンバーがいないのでは仕方ありません。アリウスさんのギルドも始めギルドメンバーが少なくC級でしたからね。先程あなたが仰っていた『規則』というやつです」
「う、嘘だ……。嘘……」
「……」
レブラは亡霊のような足取りで脱退届の束を持ちながら執務室を去っていった。
「うわぁ、あそこまで一気に落ちぶれるとは……。やっぱり女神様は見ているんでしょうねぇ」
リアがレブラの去っていった方に向けて合掌していた。
女神様はお前だけどな。
まあ、今のはリアなりの皮肉というやつなんだろう。
「それではアリウス。改めてよろしく頼む」
「はい。これからもよろしくお願いします、クリスさん」
レブラが出ていった後で、クリス副長が手を差し出してきた。
これから賑やかになりそうだなと、期待を胸に俺はクリス副長の手を取る。
こうして、俺の元いた《黒影の賢狼》のギルド長レブラとの因縁は幕を閉じることになった。
――と、その時は誰もがそう考えていた。
その後、更に堕落したレブラが王都を揺るがす大事件を起こすことになるとは思いもせずに――。
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●読者の皆様へ
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やっとこの回をお届けすることができました(^_^;)
ちなみにレブラはまだ登場しますのでお楽しみに。
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