第46話 称号士とフロストドラゴン
リアと二人で手を繋いで歩き、タタラナ温泉郷の入口付近まで来た時だった。
「何だ? 雪が……」
急に俺たちの体を打ち付けていた雪が止む。
俺はふと上空を見上げ「それ」に気付いた。
「リア……!」
「きゃっ――」
俺は咄嗟にリアを抱きかかえ、その場から脱出する。
――ズゥウウウウン!!
地面を揺るがすようにして着地したのは、巨大なドラゴンだった。
「――フロストドラゴン……!」
尖った水晶を束ねたような翼に、青白く光る氷の鱗。
古い書物でしか語られることがないような伝説級のモンスターだ。
そのあまりの凶暴性から、大昔に封印されたと聞いたことがあるが……。
ここタタラナで雪が降り始めたのは、かつてフロストドラゴンが近くの山に立ち寄ったから、というのは有名な話だ。
そんな冗談じみた逸話を残すような竜が、どうしてこんな所に……?
「アリウス様、あそこを」
「……」
俺の腕の中でリアが竜の方を指差す。
俺の目に映ったのは、半ば予想していた人物だった。
「称号士に女神か。数奇な巡り合わせもあるものだ」
氷の竜の背に黒いローブを纏った男が乗っていた。
「お前は……」
「おや、これは光栄だ。私のことを覚えていたか、アリウス・アルレイン。女神も息災のようで何よりだ」
「…………どうして俺の名前と、リアが女神だということをを知っている?」
「さあ、何故かな。フフフ……」
ローブを被っているためその表情の全ては見えないが、何やら楽しそうに笑っている。
しかしこの状況、フロストドラゴンをこの男が操っているのか?
だとしたら、ウロボロスを操っていたのもこの男という可能性が高まる。
「エルモ村を襲ったウロボロスを操っていた呪術士というのはお前か?」
「そこまで察しが付いているか。……ああ、女神がいるのであれば当然か」
「答えろ。何故そんなことをしている? それに、何の目的でルコットに呪いをかけた?」
「ククク。タダで、というのはあまりにも強欲だぞ、アリウス・アルレイン」
「……」
「今すべきことは話し合いではない。分かるな?」
――グルゴァアアアアアア!
フロストドラゴンが目の前の獲物を食わせろと言わんばかりに咆哮する。
それはこれまで戦ってきたどのモンスターよりも凶悪で、殺気に満ちていた。
「これは、戦うしかないようですね。アリウス様」
「ああ。こんな馬鹿デカい竜をタタラナに入れるわけにはいかない。俺たちで食い止めるぞ」
「ええ。二人の愛の力であんなでっかい氷の塊、溶かしちゃいましょう!」
「……」
こんな状況でもブレないとは、もはや尊敬するよリア。
俺はリアと並んで構えを取り、睨みつけてくる脅威と相対した。