第44話 称号士は仲間たちと温泉に入る②
「へぇ。確かにこれは綺麗だ」
外に出ると一面雪景色の中、風呂があるらしき場所から湯気が立ち上っている。
温度差が激しいのか、湯気の量が屋内のそれよりも多い。
「っと、早く湯に入らないと体が冷めてしまうな」
俺は足早に露天風呂の場所まで進み、湯に足を踏み入れる。
そして、風呂の中央辺りまで進んだ時だった。
「ん……?」
トン、っと何かに当たる感触に思わず顔を上げる。
そして――、
「なっ……! お前ら、どうしてここに!?」
見るとルルカにリア、ルコットの女性陣がいた。
もちろん裸である。
「ご、ごめんっ!」
何で男湯から出てきたはずなのにみんながいるんだ!?
俺は混乱しながらも湯から飛び出て、屋内に入るための扉に向かう。
が――、
「え、嘘? 閉まってる?」
扉はガッチリと施錠されていて開くことができなかった。
ますます混乱していると、扉の向こう側からパーズの声が聞こえる。
「ああ、アリウスさん。言い忘れてました。ここの温泉、露天風呂は混浴なんですわ」
「言うの遅いです! それに、何で鍵を閉めてるんですか!」
「いやぁ、リアさんに協力しろって頼まれちまいましてね。ほら、ウチの通信社は例の記事で借りがありますから」
リアに協力しろって頼まれた?
まさかタタラナに着く前に二人で話してたのはそれか?
というか、借りなら俺にもあるはずなんだが。
「ほらほら、アリウス様。観念してお風呂に入らないと体が冷めちゃいますよぉ? それとも、私の体で暖まるのをご希望です? やぁん、アリウス様ったら、だ・い・た・ん♪」
背後から何か柔らかいものが押し当てられるのを感じ、俺は更に慌てふためく。
「くそ、こうなったら《豪傑》の称号付与で扉を壊して――」
「駄目ですよぉ、宿のものを壊しちゃあ」
「くっ……!」
そうだ、ルコットとルルカならこの暴走女神様を止めてくれるはず……!
俺はそう考え二人の方に助けを求めるが、その希望はあっけなく崩れ落ちる。
「お兄ちゃーん。一緒にお風呂入ろーよー」
「師匠……、その……、自分と一緒に入るのはイヤですか……?」
二人はリアを止めるどころか、トロンとした顔をこちらに向けていた。
「な、なんで……」
「いやー、あの温泉、どうやらお酒が入ってるみたいで。お二人ともイイ気分、みたいな?」
「なん……だと……」
そういえばさっきパーズが露天風呂には酒を湯に混ぜた酒風呂もあると言っていた。
二人はその風呂に入ったのだろう。
ルコットは知っていたが、ルルカまで酒には弱いらしい。
くそ……。
確かにリアの言うとおりじゃないが、このままでは凍えてしまう。
俺は半ば観念し、女性陣3人と一緒の湯に浸かることになった。
***
「ちょっと待てリア。何でお前、タオルすら巻いてないんだ?」
「あれ? 知らないんですかアリウス様。温泉にタオルを付けて入っちゃいけないんですよ?」
……。
タタラナ温泉郷に来る前、パーズと話していたのはそれか……。
恥じらいというものは無いのか、この女神様には。
「誤解しないでくださいね? アリウス様だけですよ?」
「考えを読まれた!?」
ちらりと見やるとリアに説き伏せられたのか、ルルカとルコットの二人もタオルを身に着けず湯に浸かっていた。
幸いにも、と言って良いのか湯気ではっきりとは見えない。
が、リアなどは湯気の向こうで肌白い肢体を晒しているのが分かる。
それで先程抱きつかれた際に感じた胸の膨らみを思い出し――、
――って、何を考えてるんだ俺は……。
俺は必死で理性を保ちつつ、背を向ける。
「し、師匠の体、逞しいですね」
「ねー。お兄ちゃん、前に見た時より筋肉が付いてるみたい」
「ま、前に見た時!? まさか、まだ一緒にお風呂入ってるんですか!?」
「やだなぁルルカさん。小さい頃の話だよ」
「それでも羨ましいです。私はいつでもウェルカムなんですけどねぇ」
後ろでそんな女性陣の声が聞こえる。
……ちょっと待て、人の背中をペタペタ触るな。
「ねーお兄ちゃーん。そういえばまだ体洗ってないのー。洗ってー」
「い、妹だからってズルいですよ、ルコット! それなら自分も洗って下さい、師匠!」
「んっふっふー。それなら私もお願いします、アリウス様♪」
そんな言葉の後、酒に酔った3人が背中に抱きついてきて、大小様々な胸が押し付けられる。
「――ああもう、めちゃくちゃだ!!」
俺の叫び声は雪景色の中に虚しく吸い込まれていくのだった。