第41話 称号士は温泉郷へ向かう
「で? 何で記者のオジサンまで一緒なんです?」
タタラナ温泉郷に向かう馬車の中で、リアが不満げに呟く。
「いやぁ、やっぱりブンヤとしては面白そうなネタは自分の目で確かめにゃならんでしょう。それに通信社の方からも承認されてますからね」
「それはそうかもですが、せっかくアリウス様とお出かけなんですから邪魔しないでくださいね」
「まあまあ、リアさん。パーズさんも記者なんだし、今回お兄ちゃんたちが活躍したらその記事を取り上げてくれるかもしれないよ?」
ルコットが言って、リアをなだめる。
ルルカとマリベルの模擬戦の後で俺たちはルコットと合流していた。
当初はギルドに残ってもらう予定だったのだが、温泉と聞いて頑なに同行したいと言ったルコットを拒むことができなかったのだ。
リア、ルルカ、ルコットの女性陣は温泉が楽しみなのか、時折顔を見合わせてはうっとりとした表情を浮かべている。
……やっぱり女の子は温泉が好きなんだろうか?
よく分からん。
「あっ! 見て下さいアリウス様、雪ですよ!」
馬車の窓からリアが身を乗り出して叫び、みんなもつられて外に目を向ける。
見ると、空から白い雪が降ってきていた。
馬車の向かう先には白く塗られた山々や草原も見える。
「タタラナは雪景色が綺麗なことでも有名ですからなぁ。近くまで来たって証拠でしょうな」
「でもパーズさん、ちょっと多すぎませんか?」
俺は雪ではしゃぐリアを尻目に呟く。
確かにタタラナ温泉郷は雪が降ることでも有名な観光地だ。
ただ、外の景色を見るとあまりに雪の量が多い気がする。
「師匠、もしかしてタタラナ温泉郷に起きているという異常事態と関係があるんでしょうか?」
「可能性はあるな。いずれにせよ、着いたら依頼主の人に聞いてみよう」
黒いローブの男が目撃されたというパーズの情報。
それとこの異常気象が関係あるのかは分からないが、何か不穏なものを感じた。
そうして馬車で行けるところまで近づき、俺たちは雪に足を取られながらタタラナ温泉郷を目指すことにする。
「ほうほう、そうなのですか」
「ええ。他にも温泉には色々作法がありますよ。あとタタラナの温泉は――で、――でして。例えば――」
「……ニヤリ」
ズボズボと雪を踏む音が聞こえる中、リアとパーズの話し声が耳に入る。
何やら後ろで歩いているリアがパーズに色々聞いているようだったが、時折リアが不敵な笑みを浮かべていて、少し……、いや、とても嫌な予感がした。