第40話 上級クエスト受注、そして
「そ、そんな……。まさか、私が負けた? それに、ルルカがあんな強力な魔法を使うなんて……」
マリベルは取り巻きのギルドメンバーから治癒魔法を受けて回復したのか、立ち上がり呆然とした目を自分の妹、ルルカに向けている。
以前、賢者一族の恥だと罵った相手が自分を圧倒したのだ。
姉のマリベルからすれば屈辱以外の何物でもないだろう。
しかし、強張った顔でルルカを見つめていたマリベルの表情がふと和らぐ。
「参りました。あなたの勝ちですわ、ルルカ」
「お、お姉様?」
「おや、意外と素直に負けを認めるんですね。オバサンは」
「オバサンはやめてくださいません!?」
リアの言葉にマリベルは声を張り上げるが、溜息をついてルルカの近くまでやって来る。
「以前ルルカを一族の恥だと言ったこと、謝りますわ。相当に努力を重ねたんですわね」
「で、でも。私は師匠の能力のおかげで――」
「だとしてもだ。ルルカが今回の戦いに勝てたのはその能力に依存することなく努力を続けていたからだ」
「師匠……」
「耳が痛いですわね」
戦闘前からマリベルの所作を見ていて何となく分かった。
戦闘経験が足りていないな、と。
確かに【賢者】のジョブは多くの魔法を扱える強力なジョブだ。
しかし、戦いとはただ単に強い魔法や剣技を放てばいいというわけではない。
その状況に合わせて最適解を導き出すことが必要になるのだ。
そしてそれは俺がルルカとの修行の中で伝えてきたことでもあった。
マリベルも今回の戦いでそれを実感したのだろう。
「とにかく! 私たちのギルドの代わりに上級クエストを受けるのです。無様な結果は許しませんわよ?」
「別にオバサンに言われなくても頑張りますよーだ」
リアがマリベルに向けてべーっと舌を出している。
これで女神だもんな……。
「本当に口の減らないチビっ子ですわね。この世界を見てくれている女神様に嫌われますわよ?」
「……」
「……」
「……」
俺にルルカ、それに張本人であるリアが揃って沈黙する。
そして、耐えきれなくなったのかルルカが吹き出した。
「ぷっ。あははは!」
「な、何ですのルルカ? 急に笑いだして。気色の悪い」
「い、いえ、すいませんお姉様。……上級クエスト、頑張ってきます!」
「ええ、気をつけて。アリウスさん。妹をよろしくお願いしますわね」
「はい。ありがとうございます」
姉妹のわだかまりは溶けたようで、マリベルは柔らかい笑みを浮かべ去っていった。
……。
もしかするとマリベルは不器用だっただけなのかもしれないな。
ふと俺はそんなことを考えて一つ息をついた。
その後、俺はキール協会長から今回受注する上級クエストの説明を受け、ギルド協会の入り口のところでグロアーナ通信の記者、パーズを見かける。
「やあやあアリウスさん。良かったですな、上級クエストを無事受注できて」
「ありがとうございます。そういえばパーズさん。さっき何か情報を掴んだというようなことを言ってましたが、あれは……」
「ええ、これで本題をお話できます。実は、アリウスさんたちがこれから向かうタタラナ温泉郷。その近くでとある人物の目撃情報があったんですわ」
「とある人物? まさか……」
パーズのその言葉に息を呑む。
そして、次に続けられる言葉の予想は付いていた。
「そう。目撃情報があったのは、あの黒いローブの男です――」