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第38話 称号士とリトルウィッチ


「お、珍しいな。ギルド同士の模擬戦か?」

「ああ。どうやらあのアリウス・アルレインのギルドが上級クエストの受注権を賭けて賢者一族のマリベルと戦うらしいぜ」

「ん? でもどうやら戦うのはアリウスじゃないみたいだぞ?」


 俺たちはギルド協会の中庭に移動していた。

 以前俺がギルド設立の際にキール協会長と戦った場所。


 その空間はギャラリーに取り囲まれていて、あの時の戦いを見ていた連中も何人かいるようだ。

 しかし、今回戦うのは俺ではない。


 既にルルカの姉、マリベルが待ち構え余裕の笑みを浮かべてこちらを見ている。


「し、師匠……」

「そんな不安そうな顔をするな、ルルカ。きっと勝てるさ」


 ルルカが落ち着かない様子で俺のことを見上げていた。


 ルルカの気持ちはよく分かる。


 魔道士系の中でも最上位である【賢者】のジョブを授かった姉と、賢者一族にありながらもそのジョブを授かれなかった自分。


 恐らくルルカ自身の中で姉に対する劣等感は相当に強いのだろう。

 しかし、だからこそそれを乗り越えなくてはならない。


「い、今からでも師匠が……」

「残念。もうキールさんに伝えちゃったからな」

「でも……」

「大丈夫。修行でやってきたことを信じるんだ。俺もルルカが勝つって信じてる」

「……分かりました」


「それではギルド《白翼の女神》さんの代表者も前へ」


 キール協会長が促し、ルルカがマリベルの待つ中央へ向かっていく。


「アリウス様もけっこうスパルタですねぇ」


 ルルカとのやり取りを見ていたリアが声をかけてきた。


「リアは反対だったか? ルルカに戦わせること」

「いいえ。アリウス様がルルカさんのこと、それからギルドのことをとてもよく考えてるんだなぁって分かりましたから」

「そっか。そう言ってくれると正直嬉しいが」


 リアはニコリと笑った後で少しだけ真剣な表情になる。


「このままルルカさんが自身の劣等感に立ち向かわなければ、この先彼女は殻に閉じこもったままになるでしょう。それはもっと強大な敵、例えば《災厄の魔物》と戦う際には致命的です。それに、困った時に結局アリウス様頼みでは何のためのギルドか分からない。だからアリウス様はルルカさんに自信を持つきっかけを与えたんですよね?」

「まあ、そうだな。自分のことをあんまり棚に上げるのは好きじゃないけど」

「んっふふ。やっぱりアリウス様はス・テ・キです」

「どうも」


 リアはその後に「勝てるかは分かりませんが」と付け足し、不安そうな足取りで歩いているルルカを見つめる。


「リアの言う通り、確かにこれはルルカにとって試練かもしれない。でも、俺はルルカが勝つと思ってるよ。しかも、楽勝だと思う」

「ほうほう。ルルカさんは修行を頑張ってこられましたからね。それは楽しみです」

「もちろん、それもあるが。マリベルさんはどうやら戦闘に慣れていないようだからな」

「……?」


 中庭の中央に目を戻すとルルカとマリベルが対峙し、キール協会長が決闘前の前口上を述べているところだった。


「女神エクーリアよ、彼女らの戦いを照覧あれ!」

「……」

「な、何です、アリウス様? 私の方をじっと見て。はっ! まさかとうとう私の魅力に気づいてくださって――」

「いや、今回は女神ってのに反応しないんだなと思って」

「むぅ……。アリウス様、酷いです」


 ぷくっと頬を膨らませるリアが可愛らしくて笑ってしまった。


 さて、それは置いておき、ルルカとマリベルの模擬戦が始まるところだ。


 ――修行でやったことを思い出せ、ルルカ。


 俺は箒を握りしめるルルカを見ながら心の中で呟いた。


   ◇◆◇


 師匠の考えていることは分かる。


 自分が強くなったといっても、それはそもそも師匠の【称号付与】の能力によるものだ。

 師匠は努力の成果のようなものだと言ってくれていたが、どうしても自分にとって借り物の力である感は否めない。


 さっきも師匠のことを頼ってしまっていて、そんな自分が情けないと思っていた。

 自分が自信を持てずにいるのは師匠からしてみればお見通しなのだろう。

 だから師匠はその殻を破れと、そう考えているのだ。


 愛用の箒を抱きしめるように握りしめると、その向こうからマリベルお姉様が嘲笑(ちょうしょう)を浮かべていた。


「あなたのギルド長、グロアーナ通信の記事で書かれていたようにかなり非情な人間のようですわね。ギルドメンバーのことを駒としか思ってないのかしら。今からでも遅くはないですわルルカ。ギルドを抜けた方がよろしいのではなくって?」

「……っ! 師匠はそんな人じゃありません!」


 そうだ。

 師匠は自分が賢者一族の落ちこぼれと知っても突き放すことはしなかった。

 それどころか自分の努力を認めてくれて、信じてくれた。


 ふと師匠の方を見やる。

 まっすぐで綺麗な目。

 自分が勝つことを信じて疑わない、そんな目だと思った。


 一度深呼吸し、眼前にいる模擬戦の相手、マリベルお姉様を見据える。


 自分自身のことを信じられるかは正直なところまだ分からない。

 けれど、師匠のことは信じられるのではないか?

 そんなことをふと考える。


 そう。


 自分のことを信じてくれる師匠のことは信じられる。

 その感情は何故かとても自然に心の中へストンと落ちてきた。


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