第37話 称号士とオバサン
「それではこれより、上級クエストを受注するギルド選定についての説明を行います」
キール協会長が応接テーブルの向こう側で姿勢を正して説明を始める。
「ルールは至ってシンプル。各ギルドとも代表者を選定していただき、模擬戦を行っていただきます。その模擬戦で勝利したギルドがタタラナ温泉郷の上級クエストを受注できるというわけですね」
「フンッ。【賢者】のジョブを持つ私が負けるわけありませんわ。ましてや落ちこぼれの妹がギルドメンバーにいるような新参ギルドなんかに」
「マリベルお姉様……」
ルルカの姉、マリベルはソファーの上で足を組み、見下すかのような視線をルルカに向けていた。
いや、というか実際に見下してるんだろう。
前にルルカが言っていた。
賢者一族に生まれながらも【賢者】のジョブを授かれず、姉から一族の恥と蔑まれたことがあると。
このマリベルという女性がその当人というわけだ。
「しかしアリウスさんと仰いましたか? ルルカのような落ちこぼれをギルドメンバーに入れなくてはならないとは、大分余裕が無いようですわね」
「……」
「それともルルカのような小さい娘が好みなのかしら? そちらの青髪のお嬢さんも似たような感じですしねぇ。オーホッホッホ!」
マリベルは大きくのけぞりかえると下品な高笑いを浮かべた。
うーん。何か昔見た絵本の悪役令嬢とかでこういう人いたなぁと、よく分からない方向に思考が逸れる。
リアはマリベルの態度が気に食わなかったようで、ジトッとした目をマリベルに向けている。
「何様です? このおっぱい大きいだけオバサンは」
「オバ――! 失礼ね! 私はまだピチピチでしてよ! ねえ皆さん!?」
「ね、姐さんの言う通りっす! 姐さんはまだピチピチっす!」
突然マリベルに問いかけられ、すぐ傍にいた取り巻きの男が慌てて答えていた。
「えー? その方たち、目が腐ってるんじゃないですか? どう考えてもルルカさんの方が可愛らしくてピチピチですよぉ?」
「そ、そんなリア。人を魚みたいに……」
「ああ、分かりました。魅了の魔法でもかけてごまかしてるんですよね? オ・バ・サ・ン?」
「キィーッ! 何よこのチビっ子!」
「なっ――! 確かに今は小さいですがそれには色々と事情が……。というか胸の大きさでなら負けてません!」
リアがマリベルに対抗しようとしているのか、胸を突き出して叫んでいた。
何か段々と子供の喧嘩みたいになってきたなと、俺はキール協会長と顔を見合わせ乾いた笑いを浮かべる。
それにしても、代表者同士の模擬戦か。
あの様子だと、あっちは当然マリベルが出てくるんだろうな。
こっちからは俺が――。
そこまで考えて、隣で小さく縮こまっているルルカが目に入る。
「ルルカ、大丈夫か?」
「……え? ええ、大丈夫です師匠。ハハ……、久しぶりにお姉様と会って緊張してしまって……」
「……」
俺はその様子を見て、あることを決める。
「それでは各ギルドの代表者を決めて欲しいのですが、両ギルドともどうなさいますか?」
「こちらからは当然、私マリベル・ランフォーレが出ますわ!」
「分かりました。《白翼の女神》さんの方からはアリウスさんですか?」
「――いいえ」
キール協会長の問いかけに対して俺は短く答え、そして続ける。
「こちらからはルルカ・ランフォーレを代表者として選出します」
俺の放った言葉に、その場にいた全員が唖然とした表情を浮かべていた。