第36話 称号士と温泉調査
「ご無沙汰しております。キールさん」
「ようこそアリウスさん。お久しぶりですね。といっても一週間ぶりくらいでしょうか」
ギルドのみんなで打ち合わせをした翌日。
俺はリアとルルカを連れてギルド協会にやって来た。
理由はもちろん、昨日話していた上級クエストを受注するためだ。
「なるほど。事情は分かりました。受けられる上級クエストが無いか、ということですか。……ああ、一つだけありますね」
キール協会長は応接用テーブルの上に一枚の依頼書を置き、こちらに笑いかける。
読んで良い、ということだろう。
「ええと。『タタラナ温泉郷で発生した異常事態の調査』?」
《温泉》という言葉にリアとルルカが揃って反応する。
二人は身を乗り出し、キラキラした目を向けてきた。
「アリウス様――」「師匠――」
って、近い近い。
「「この依頼受けましょう!」」
「お、おう……」
どうやら女性陣のお気に召したようだ。
まあ、せっかくだしクエストを受けられたら温泉に入るくらいはいいか。
俺は二人が向けてくる熱烈な視線を躱しつつ、再度依頼書に目を通した。
タタラナ温泉郷というのはこのグロアーナ大陸でも有数の観光地だ。
温泉自体が珍しい代物なため、他の大陸からも大勢の観光客が訪れるほどに人気が高い。
その温泉で不可解な現象が発生しているため、調査を依頼したいというのが今回の内容だった。
「ただですね、アリウスさん。実はその依頼、他にも受注希望を出しているギルドが一つありまして」
「え? そうなんですか?」
「はい。こういった場合はギルド協会で選定をすることになっているんです」
「選定ですか」
「と言っても方法はシンプルです。受注を希望するギルド同士で代表者が決闘し、決めるという形式ですね」
ふむ。
となると他の受注希望を出しているギルドの代表者と戦って勝利しなくてはならないというわけか。
「で、その他に希望を出しているギルドというのは――」
「ちょうど良かった。いらしたみたいですよ」
「え?」
キール協会長の視線の先を見ると、豪奢な魔女服に身を包んだレディが立っていた。
周りには取り巻きと思われる男たちもいて、どうやらこれが同じく受注希望を出しているギルドの代表者らしい。
「おや? なんだか見知った顔がいますわね」
代表者のレディは俺たちの方を品定めするように見回し、顔見知りを見つけたらしい。
「お、お姉様……」
俺がレディの視線を追うと、カチカチと震えながら箒を握りしめるルルカがいた。