第33話 ギルドメンバー《+1》
「だぁああああ! この、離れ、離れて下さいぃいいい!」
ルルカが猪型のモンスター、ワイルドボアにスカートを引っ張られている。
手にした箒でバシバシと叩くも引き剥がせないようで絶叫していた。
そのままでは色々と見えてしまいそうなので、俺は剣でワイルドボアを攻撃しルルカから引き離す。
「た、助かりました……。危うく猪のおやつになるところでした」
言って、ルルカは地面にへたり込んだ。
先程「賢者一族の魔法が見たいです!」とリアに囃し立てられ、ルルカは風魔法をワイルドボアの群れに向けて放った。
しかし、その魔法の威力は低く、ワイルドボアの毛並みをわずかに揺らすそよ風にしかならなかったのだ。
そして近くにいたワイルドボアの注意を引き付けてしまい、襲われ、今に至る。
「アリウス様、賢者一族って【賢者】のジョブを授かる人たちの家系なんですよね?」
「あ、ああ。そのハズなんだが……」
「実は自分、【賢者】のジョブは授かることができなかったんです……」
「え?」
ルルカは膝をついたまま、俺たちの方を見ずに話し始めた。
「自分が授かったのは【リトルウィッチ】とかいうジョブでして……。魔力量だけは高いらしいのですが、今のところ使えるのは《風属性》の、それも初級魔法のみという体たらくでして……」
「そうなのか」
「【賢者】のジョブを授かれない無能だって周りからも蔑まれて。来る日も来る日も風魔法を練習してきたのですが一向に上達せず……。終いにはお姉様からも【賢者】になれないポンコツを家に置いておくなんて一族の恥だって……」
「それで家にいられなくなったわけか」
ルルカは力無く頷く。
ルルカの話では、授かったジョブが原因で賢者一族を追い出されてしまったらしい。
それで行き場もないルルカは色んなギルドの面接を受けていた、と。
「でも、もう他のどのギルドも雇ってくれないんです……」
「そっか。それは災難だったな」
「このままだといつか本当にモンスターのおやつになってしまいそうで……。お願いします! どうか自分をこのギルドに入れて下さい!」
「いや、もうギルドに入ることは決まってるけど?」
「もちろん、荷物持ちでもなんでも……、って、え? 今、何と?」
「だからルルカはもう俺たちのギルドメンバーだと」
ルルカにとっては信じられないことだったらしく、自分の頬を摘んでいる。
俺はそれがおかしくて少し笑ってしまった。
「さっきルコットをギルド協会に向かわせただろ? あれはルルカのことをウチのギルドに登録するための手続きに行ってもらったんだよ。だからもう、ルルカはギルドの一員だ」
「で、でも。良いのですか? 自分は【賢者】のジョブを授かれなかった落ちこぼれで……」
「そんなの関係ないさ。ジョブでその人の良し悪しまで決まったりはしない。もちろん、そう考える人間もいるけど」
ふと、《黒影の賢狼》のレブラの顔がよぎる。
確かにジョブは異能の力を授かるものだが、それだけで人を判断するなんてことは絶対にしたくなかった。
ルルカはあのグロアーナ通信の記事を見ても偏見を持つことなど無く、このギルドに入りたいと言ってくれたのだ。
自分が蔑まれてきたとしても、自分から他者にはそういう目を向けない。
そういった人間のことは、信頼したい。
「それと、ルルカに力はあるよ。きっと」
「え?」
俺はルルカを対象に取って称号士のジョブ能力を使用した。
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【対象ルルカ・ランフォーレ、選択可能な称号付与一覧】
●風雅
・初級風属性魔法の使用が可能になります。
・中級風属性魔法の使用が可能になります。
・上級風属性魔法の使用が可能になります。
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――やっぱりな。
俺はルルカを立ち上がらせ、その称号を口にする。
「称号付与、《風雅》――」
***
轟音が響き渡り、ルルカから放たれた上級風魔法がワイルドボアの群れを飲み込んでいく。
暴風が収まると気絶したワイルドボアたちが地面に倒れていた。
「す、凄いです! 自分、こんな魔法が使えたこと一度もありません!」
ルルカが興奮しながら、こちらを振り返る。
先程、ルルカに付加した称号は使用可能な風魔法を増やす効果があった。
風魔法を毎日練習してきたというルルカにぴったりの称号だろう。
「ふふーん。だからビラに書いてあったでしょう? アリウス様の【称号士】はその人に眠った力を呼び起こすことだってできるのです」
「そ、そんな力が……」
「ああ。でも、俺の【称号士】の能力は相手によって付与できる称号が変わるみたいでな。だから、今みたいに強い魔法を使えるようになったのは何も俺の称号付与が凄いんじゃない。ルルカがこれまで努力してきた証みたいなものだと思うよ。俺はただそのきっかけを与えただけ」
「あ……」
ルルカは少し涙ぐんでいた。
今まで自分の力を周りから馬鹿にされてきたのだ。
喜びもひとしおだろう。
「それじゃ、改めてよろしく。ルルカ」
「は、はい! 自分こそよろしくお願いします! 粉骨砕身、このギルドのために尽くします!」
ルルカは手にした箒を嬉しそうに抱えながら、満面の笑みを浮かべていた。
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