第28話 【SIDE:黒影の賢狼】 ギルド長レブラと呪術士
――全く気配を感じなかった……。
「おお、ガルゴ君! ちょうどいいところに来てくれた!」
何だ? レブラの知人か?
今までこんな男を見かけたことは無いが……。
ガルゴと呼ばれた黒いローブの男は音を殺した足取りで執務室の中へと入ってくる。
その所作だけでも相当な手練れであることが分かった。
「クリス君。悪いが席を外してくれるかな。このガルゴ君と話し合わなくてはならないことがあるのでね」
「……分かりました。先程のアリウスの件ですが、くれぐれも軽率な行動は取らないようにお願いします。私も、また彼と手を取り合うことができればと考えておりますので」
私はそれだけ言い残してレブラの執務室を後にした。
◇◆◇
「なかなか聡明な判断をするお嬢さんだな」
クリスが執務室を出ていった後。
ガルゴが黒いローブの奥からレブラに向けて言葉を発する。
「おや、クリス君との話を聞いていたのかい?」
「途中からな。生憎、耳は良いものでね」
「ククク。ならば話は早い」
「というと?」
ガルゴに対してレブラは先程と打って変わった余裕の笑みを浮かべている。
「いやぁ。つい先日ギルドから解雇した人間がいるんだが、その人間のことで頼みがあるんだよ」
「アリウスと言ったか。なかなかに良い目をしている少年だったな」
「おや? 会ったことあるのかい?」
「ああ。と言っても、軽く挨拶したくらいだが」
「ふぅん」
レブラは興味なさげに呟いた。
そして、話を戻すように軽く咳払いをすると、ガルゴに対して語りかける。
「実はそのアリウス君が新しくギルドを立ち上げたらしくてね」
「ああ。知っている」
「ボクもこの《黒影の賢狼》のギルド長を務める立場だからね。あんまり他のギルドに大きい顔されるのは困るんだよ」
「アリウスという少年の立ち上げたギルドはそうなる可能性があると?」
「心配には及ばないだろうがね。ただ、芽は摘んでおきたいんだよ」
「それは貴様にとっての愉悦か?」
「やだなぁ、人聞きの悪い。ボクはただ、このギルドにいる大切な仲間たちの職場を確固たるものにしたいだけさ」
そう言ってレブラはわざとらしく手の平を上に向ける。
もちろんガルゴはその言葉を本気にはせず、具体的に何をするのかとレブラに尋ねた。
「ああ、それなんだけどね――」
そうして、レブラがアリウスとアリウスのギルドを陥れるための奸計をつらつらと話し始める。
「――というわけさ」
「下衆め」
「ククク。褒め言葉として受け取っておくよ」
「フン、まあ良い。あの少年がこういう事態にどう対応するか見ものだからな。今回は貴様の案に乗ってやるさ」
「ああ。よろしく頼むよ、ガルゴ君」
ひとしきりの話を聞き終えると、ガルゴは入口の方へと足を向けた。
その途中、黒いローブの中で呟く。
「私にとって貴様は利用するだけの駒に過ぎんがな、レブラよ」
黒いローブの中で漏らした言葉がレブラに届くことはなかった。