第25話 称号士は条件を提示される
「ここだな」
俺たちは件の物件の所有者がいるという屋敷までやって来る。
石造りの門柱に鉄製の門扉。
いかにも貴族の住まいを象徴するような入り口を通ると、しっかりと手入れされた庭園に招き入れられる。
「うっへぇ、いかにも成金趣味な感じのお屋敷ですねぇ」
リアが獅子の口から吐き出される噴水を見ながら悪態をついていた。
「リアさんの女神像まであるね。女神信仰の深い人なのかな?」
「うーん、成金屋敷に飾られててもあんまり嬉しくないんですけどねぇ」
「まあまあ、本人に会ってもいないのに先入観を持つのは良くないぞ。もしかしたらキールさんみたいな人格者かもしれないんだし」
しかしその後、屋敷の執事らしき人に応接間へと通され、待たされること数十分。
扉を勢いよく開けて現れたのは、貴族服に身を包む恰幅のいい男性だった。
装飾過多ともとれるその服に、付ける必要はあるのかというほどの金のアクセサリー。
悪いがお世辞にも似合っているとは言えない。
「君たちかな? 我の優雅なティータイムを邪魔してくれたのは?」
男は上から見下ろすようにしてギロリとした目を向けてくる。
(アリウス様、とりあえず第一印象も最悪では?)
(ある意味分かりやすいとも言えるね、お兄ちゃん)
(お前ら……、頼むから余計なこと言うなよ)
「こらそこ。何をヒソヒソと話をしておるか」
言って、男はソファーにどっかと腰を下ろす。
男の体重を受けて幅の広いソファーが軋んだ。
(あのソファー、一人用だったんですね。ぷっくく)
(もぉリアさん、そんなに笑っちゃ悪いよぉ)
(そういうルコットさんだって。くくっ)
リアの緊張感の無さがルコットまで伝播しているらしい。
俺は息を一つ吐き、相手の機嫌を損ねないようにと気を引き締める。
「申し遅れました。自分はアリウス・アルレインと申します。この度はギルド協会のキールさんからご紹介を預かりました」
「うむ。我はデーブル・ハインツだ」
「この度はお時間を頂戴しありがとうございます。実はデーブル伯に折り入って頼みが――」
「断る」
「……は?」
まだ何も伝えていないのに拒否された。
ピシャリと言い放ったデーブルの高圧的な態度に、隣の女性陣二人から怒気が放たれているのが感じられる。
「あの物件のことであろう? アレは我が認めたギルドにしか貸さぬと決めておる」
「と言いますと?」
「アレを貸すことで我が得たいのは金ではない。金なら腐るほどあるからな。アレは将来有望なギルドに使ってもらうためにあるのだ」
なるほど。
デーブルが得たいのは、優秀なギルドとの「繋がり」なのだろう。
例えばA級ギルドなどとパイプを持っているとなれば依頼を優先で受けてもらえたり、有事の際は武力を貸してもらえたりと、資産を持つものにとってその恩恵は測り知れない。
「俺たちのギルドにその資格は無いということですか?」
「フン。見れば分かるだろう。ギルドの代表者がまだまだヒョロくさそうなガキときたものだ。まあ、そこの女子どもの見目は秀麗のようだ。そなたらが夜の伽に付き合ってくれるというなら考えてやらんでもないがな。グフ、グフフフフ」
トントンと、肩を突かれ見るとにこやかに笑うリアが目に入る。
(アリウス様、コイツぶっ飛ばして良いですか?)
(まあ待て。気持ちは凄くよく分かるし俺だってそう思わなくも無いが、もう少しだけ我慢してくれ)
リアと小声で会話して、俺は目の前に座る豚……、じゃなかった。デーブルに向け、努めて冷静に尋ねる。
「デーブル伯。物件を借りる際の条件というものがあると聞きましたが、それを満たせば俺たちのギルドを認めてくれるんですか?」
「ん? ああ。しかしおぬしらには到底不可能な条件だ。聞くだけ無駄というもの」
「教えて下さい」
「無駄だと言っておるだろうが。いいか? 優秀なギルドというものは強さも伴うものなのだ。我はあの物件を借りる条件にとあるモンスターの討伐を設定した」
「そのモンスターを倒すのが俺たちには不可能だと?」
「その通りだ」
デーブルはそこで身を乗り出し、ニヤリと醜悪な笑みを浮かべる。
「聞いて驚け。そのモンスターというのはB級のギルドでも討伐が難しいとされるモンスター、《ミノタウロス》なのだ!」
「「「……は?」」」
デーブルのその言葉に、俺だけではなく隣にいる二人からも声が漏れた。
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