第1話 称号士と追放
「解雇、通知書……」
ギルド長の執務室を訪れた俺に、一枚の羊皮紙が手渡された。
その紙には「アリウス・アルレイン」という俺の名前があり、そしてただ一言、ギルド《黒影の賢狼》より解雇すると記載されている。
「これは……。一体どういうことですか、ギルド長!」
「おやおや。文字が読めないほどに低能だとは思わなかったよ、アリウス君。どういうことも何も、そこに書いてある通りさ」
俺に解雇通知書を渡した男は、精悍な顔立ちとは裏腹に下卑た笑みを浮かべている。
レブラ・テンベル――。
一年前、若くして《黒影の賢狼》のギルド長に就任した男だった。
《黒影の賢狼》はこの王都でも随一を誇るエリートギルドであり、大陸一のギルドとの呼び声も高い。
故郷にいる病弱な妹のため資金を稼ぎたかった俺にとって、このギルドに採用が決まったことはまさに僥倖だった。
故郷のみんなが祝ってくれて、妹などは手製のお守りを作って祝福してくれて……。
これで故郷の妹を楽にしてやれる、恩を受けたこのギルドのために尽くそうと、これまで奮闘してきた。
先代からは部下を持つ部隊リーダーに任命され、ここで頑張れば明るい未来を歩むことができると、本気でそう思っていた。
しかし、そんな未来図は一年前に終わりを告げる。
一年前、このレブラがギルド長に就任してからというもの、ギルドメンバー一人ひとりに過剰なノルマが設定されたのだ。
来る日も来る日も戦闘に駆り出されるギルドメンバーは日を追うごとに疲弊し、その代わりにギルドは例年よりもほんの少し多くの金を得た。
その利益がギルドメンバーに還元されることは無かったが……。
「いやぁ、部隊リーダーであるキミには期待してたんだけどねぇ。よりにもよって授かったのが戦闘に使えない外れジョブだとは。本当にキミにはがっかりしたよ、アリウス君」
「何で俺のジョブが外れだと決めつけるんです!」
「いやいや。キミのジョブ……、【称号士】だっけ? 授かった能力は《称号を与える》って、意味分かんないでしょ。《名前を付ける能力》だなんて、子供の遊びじゃないんだよ?」
「し、しかし……」
「確かにキミは優秀だったさ。優れた戦闘能力を持ち、先代から部隊リーダーに任命された。きっと有能なジョブを授かるんだと思って誰もが疑わなかった。それはボクだってそうさ。だからキミの部隊リーダーの地位もそのままにしておいた。でも、今日の朝、突然裏切られるなんてねぇ」
今日の朝――。
18歳になった俺は女神から力を授かった。
それは何も俺だけに起こることじゃない。
この世界では誰もが18歳の朝を迎えると女神から「ジョブ」という異能の力を授かることになるのだ。
ジョブはその者の潜在能力を引き出すと言われ、剣士や魔道士、回復士にテイマーなど、数多くの種類が存在していた。
自身の行く先を決めるジョブの決定に心躍らない者はおらず、それは俺も同じだった。
けれど、そうして俺が授かったジョブは【称号士】。
能力は「称号を付与することができる」という使い道の分からない意味不明な力だった。
いや、使ったところで何になるのか、と言った方が正しいかもしれない。
レブラによればそのジョブを授かったことが「裏切り」だと言う。
けど、ここで引き下がるわけには……。
「せ、せめて……」
「ん?」
「せめて俺のジョブ能力を確かめて下さい!」
「……いいとも。試しにボクに使ってみたまえ。それでもしキミのジョブが有能だと証明できたのなら解雇の撤回を考えてあげよう。もっとも、名前を付けるだけのジョブにそんなことできるハズないと思うけどね」
「じゃあ、いきますよ……!」
俺は対象をレブラに定めてジョブ能力の使用を念じた。
すると、目の前に青白く光る文字列が並び、レブラと一緒にその文字列を覗き込む。
=====================================
【対象レブラ・テンベル、選択可能な称号付与一覧】
●愚者
・知能のステータスがダウンします。
●怠惰
・魔力のステータスがダウンします。
=====================================
「……」
「……あ、えっと……」
「キミはボクのことを馬鹿にしてるのかい……!?」
「い、いや、そういうわけでは……」
レブラは激昂し俺の胸ぐらを掴んできた。
断っておくが俺が文字列の内容を決めたわけじゃない。
《選択可能な称号》というのは勝手に表示されたものだ。
そうレブラにも伝えるが、聞き入れてはくれない。
「第一、能力を下げるデバフならギルドにいる魔道士でも十分にできることなんだよ。それをわざわざボクを愚弄するような言葉で表わすなんて、馬鹿にしてるとしか思えないだろ!」
「く……」
「そうだ、ボクがキミに称号を与えてやろうか? そうだなぁ。『外れジョブ持ちの低能クン』なんてのはどうだい? ハハハハッ!」
レブラが俺を突き飛ばす。
と、その拍子に1体のお守りが床に投げ出された。
「なんだい? このチンケな護符は。こんなものを持ち歩いてるからそんな外れジョブしか授かれないんじゃないのかなぁ?」
言って、レブラがそれを踏みつける。
それは故郷の妹が俺のためにと、今後も無事でいられるようにと、想いを込めて作ってくれたお守りだった。
「――っ、貴様!」
「……あのさぁ、ボクは大陸一のギルド《黒影の賢狼》の長だよ? いいのかなぁ、そんな口聞いて。このギルドを出ていった後、アリウス君を雇わないよう他のギルド長に声をかけてあげてもいいんだけどなぁ」
かつてない怒りを覚えたものの、思い留まる。
ここでレブラに歯向かい他のギルドでも雇われなくなれば、俺はこの王都で稼ぐ手段を失うのだ。
そうなれば、妹を救うことができなくなる。
「……失礼、しました。せめて、その足を離して下さい」
「クックック。ああ、いいとも。そらっ」
レブラが蹴って寄越したお守りが顔に当たった。
「……」
俺は膝をつき、ボロボロになったお守りを拾い上げた。
怒りと悔しさとを均等に混ぜ合わせたような、チリチリとした感情が湧き上がるのを感じる。
授かったジョブが役に立たないからというだけで、こんな仕打ちを受けなければならないのか……。
そんなことを考えていると、執務室の扉が勢いよく開く。
「ギルド長!」
そこにいたのは俺の上司に当たるクリス副長だった。
普段の冷静沈着な彼女からは想像もできないほどの剣幕で、長く綺麗な銀髪を揺らしながら執務室の中へと入ってくる。
「聞きましたよ! 私に報せもなくアリウスを解雇するなんてどういうおつもりです、ギルド長!」
「うるさいなぁ。キミは」
レブラは面倒くさそうに大きく溜息をつく。
「ギルドの長であるボクが、副長であるキミに了承を得る必要がどこにあるんだい?」
「し、しかしあまりにも横暴です! アリウスがどれだけ身を粉にしてギルドに尽くしてくれたと思っているのですか!? この一年、仕事を終えるのはいつも日をまたいでから。来る日も来る日もモンスター討伐。そんな状態でロクに休みも与えず働かせ続けたのはギルド長じゃないですか!」
クリスは憤慨して捲し立てる。
確かにいつしかそれが当たり前になってしまっていたが、言われてみるとけっこうな激務だった気がする。
「でも、キミだって分かってるでしょ? この世界においてジョブは絶対なんだよ。個人の持つ元々の戦闘能力なんてジョブが及ぼす影響力の前ではちっぽけなものさ」
「……ですが、アリウスの人柄は先代も認め多くの部下から慕われるほどで――」
「あーもう、そういうのいいからさぁ。ギルドは仲良し集団じゃないんだから」
「ギルド長っ……!」
「クリスさん。もう、大丈夫です」
俺は妹のお守りを懐にしまい立ち上がる。
クリス副長にもこれ以上迷惑をかけるわけにはいかない。
「クリスさん、ありがとうございます。でも、大丈夫です。ギルド長の言う通り俺はこのギルドを出ていきますから」
「しかしだな……」
「出ていく、じゃなくて追い出されるんだけどねぇ……。さあ、行った行った」
口に手を当てて笑うレブラに背を向けて、俺は執務室を後にする。
「アリウス……」
クリス副長が心配そうに呟いてくれて、少しだけ心が軽くなった気がした。
――このまま……、このまま終われるかよ。
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