銀山の活用法
若狭国 後瀬山城 武田氏館
「岡和泉守盛俊にございます。お呼びにより参上仕り申した」
「おお、来たか。もっと近う寄れ」
俺は今日、若狭は太良庄の領主である岡盛俊を呼び付けていた。というのも、彼には重要な仕事を任せたいと思っていたからである。歳は二十歳そこそこ。眠らせておくのは惜しい。
何故この男を呼び出したのか。それは、この岡盛俊という男は利殖が非常に上手い。なので、彼に生野銀山を任せてみたいと思ったのだ。俺は彼を近くに呼び寄せる。
「如何なされましたか?」
俺に対し懐疑的な目を向ける盛俊。どうしてそんな目を向けるのか。おそらく、岡家が我が若狭武田家から疎まれていたからだろう。父であれば利殖に励む岡盛俊を疎むにきまっている。しかし、俺は違う。
「実はな、其方に頼みたい仕事があるのだ」
「はぁ」
「どうだ。奉行をやってみんか?」
俺は岡盛俊にそう提案する。奉行。つまり、部門の長である。有名なのは豊臣の五奉行だろうか。実務的な作業の長と言っても過言ではない。盛俊の眉が動いた。そんなに重要な職を任せてもらえるとは思っていなかったらしい。
「何の奉行にございますか?」
「まずは鉱山奉行を。そしてゆくゆくは我ら武田の勘定奉行か段銭奉行を任せたいと考えておる。如何か?」
俺は岡盛俊を正面から見据えてにやりと笑った。勘定奉行は財務を。段銭奉行は税務を司る部門だ。どちらも銭とは切っても切り離せない部門になる。つまり、我ら若狭武田の銭回りを一手に任せようと思っているのだ。
「もちろん手当は出すぞ。鉱山奉行で二百貫の加増だ。其方に銀山を任せればそれ以上に稼いでくれるだろう。どうだ、面白いと思わんか?」
そう尋ねると岡盛俊の喉がごくりとなった。じっと俺を見つめる。俺も目を逸らさない。さて、岡盛俊の返答や如何に。彼の口がゆっくりと開く。
「どうして某に任せようとお思いで?」
「決まっている。其方が一番、この若狭で利殖上手だからだ。利殖が下手な人間に銭を握らせても良いことはない。違うか?」
「御屋形様は某が銭に執着することを咎められませぬので?」
「何故咎める必要がある。商人を見てみろ。汗水垂らして銭を稼いでおる。百姓だってそうだ。米を作り、それを売って銭を稼いでいる。我らも銭が無ければ武具が買えぬ。何をするにも銭は必要なのだ」
「武士とは思えぬ言い草にございますな」
嫌味たらしく述べる岡盛俊。おそらく、我が父にでも言われたか。俺も父に銭稼ぎを止めろと言われた記憶がある。武士のすることではないと。しかし、それは違う。
「何を言うか。これが新時代の武士なのだ。逆に銭を稼げない、銭の価値を理解しない武士は滅びるぞ。それが桶狭間だ」
銭を大事にする織田信長が勝った。それが何を意味するのか理解できない岡盛俊ではない。俺はお前を必要としている。お前の才能を輝かせることが出来るのは、俺か織田信長だけだ。
「承知いたしました。その命、謹んでお受けいたしましょう」
「よろしく頼むぞ。目標は高く設定しておく。其方の手腕で我ら武田をもっと強く豊かにするのだ」
「ははっ」
永禄五年(一五六二年)、若狭武田家の財政状況が大きく変わる潮目となる。今までは借銭だらけで首が回っていなかったのだが、丹後と但馬を併合し、彼らが貯め込んだ財産を手に入れたこと。
そして領地が広がり鉱山を手に入れたことが功を奏して若狭武田が日ノ本一の金持ち大名になるのには、そう時間はかからないのであった。
戦記物です。
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餓える紫狼の征服譚 ~ただの傭兵に過ぎない青年が持ち前の武力ひとつで成り上がって大陸に覇を唱えるに至るまでのお話~
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