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忍びの戦い

若狭国 某所 黒川与四郎


 儂は皆を集めていた。この場に居るのは儂と息子の与左衛門にいつもの田川仁左衛門、上村一徳、藤山節庵のほか、歩き巫女のお鈴と白拍子のお猪の七人である。まず、仁左衛門が一言。


「探られておるな」


 これに全員が頷いた。我らが武田家も大きくなってきた。大きくなるということは対象になるということだ。何の対象か。それは侵略だったり同盟だったりの対象になるのである。


「甲賀は入って来ぬ。儂らが情報を流し続けている間な。来ているのは伊賀、鉢屋、世鬼辺りだ。御屋形様の申された通りにしているか?」


 御屋形様に忍びが入り込んでいることをご報告するとこう返ってきた。全てを防ぐのは難しい。奪われてはならぬ情報だけを守れと。与えても良い情報は積極的に与えよと。


 これが何を意味しているのか理解できなかった。しかし、今ならば理解できる。彼奴等も手土産無しには帰れないのだ。引き下がってもらえるよう、与えられる情報を与え、無理をさせない。そういうことらしい。


「だが、我らの沽券にも関わる。今まで通り見つけ次第、排除で構わんのだろう?」


 上村一徳が淡々とそう述べる。儂はその問いに首肯を持って回答とした。我ら黒川衆も多くなってきた。最初は二十そこそこしかいなかったが、今では八十まで増えている。


 確実に我らは強く大きくなっている。甲賀に居た時では考えられないほどに。御屋形様に付いて正解だったかも知れぬ。甲賀に残っていたら今頃は三好との戦で使い潰されていただろう。


「御屋形様から新たな命だ。一つ、但馬国に金山が眠っている。それを探し当てろとのことである」

「御屋形様はどこでそれを?」


 与左衛門が尋ねる。しかし、これは儂にもわからぬ。御屋形様があると仰っておるのだ。探せば見つかるだろう。あの方は無駄なことはさせない主義だ。


「知らぬ。しかし養父郡にあると仰せだ。節庵、其方が調べよ」

「承知」

「二つ、因幡国を探れ。御屋形様は次の狙いを因幡国に定めたようだ。お鈴、頼む」

「かしこまりました」


 お鈴が三つ指を付いてお辞儀する。男から情報を得るのであれば、お鈴の右に出る者はいないだろう。その手練手管に耐えられる男はこの日ノ本には存在しない。


「三つ、三好を調べろとの仰せだ。これは儂とお猪で行う。与左衛門は御屋形様の身辺の警護を、仁左衛門は若い者の育成を頼む」

「かしこまった」

「任せておけ」

「待て待て待て。儂は何をすれば良いのだ?」


 そう述べてきたのは一徳であった。一徳には危険な橋をわたってもらわねばならぬかもしれぬ。しかし、一徳がこの任には適任だと儂は判断した。


「一徳は儂の父上の説得を頼む。甲賀を見限り、武田に付く説得を。その後、甲斐の武田と駿河の今川の関係を調べよ」

「……その言、真か?」

「真だ。だが、今すぐではない。体制が整い次第、我らは甲賀を離れる。今のままでは甲賀にも伊賀にも太刀打ちできぬ。なればこそ、若い衆の育成が急務となるのだ」


 そう言って仁左衛門を見る。儂は黒川衆の中で一番信を置いているのがこの田川仁左衛門である。我らが百を超えたらば独立するつもりだ。


「各々方、抜かりなく頼むぞ。我ら黒川衆の命運がかかっているでな」

「「「はっ」」」


 その言葉を発した後、全員が散開する。この場に残ったのは儂とお猪の二人である。儂らは三好を調べねばならぬ。御屋形様は三好と良好な関係を築きたいとの仰せであった。そのために、三好と足利の関係を調べるのだ。


 敵対したり共闘したり、忙しい二家。足利と良好な関係ならば真正面から同盟を申し込むことが出来る。しかし、御屋形様の言だと足利はやはり三好を憎んでいるようだ。


 つまり、我らは足利に睨まれずに三好と良好な関係を築かねばならない。これは難しい状況に立たされた。しかし、御屋形様が西に目を向ける以上、南とは仲良くやらねばならぬのだ。


「なにをすれば良い?」


 ぶっきらぼうに尋ねてくるお猪。彼女には三好の重臣との縁を築いてもらいたい。儂は商人として潜入するか。いやしかし、堺に新参の商人が紛れ込めば怪しまれる。どうしたものか。


「儂と親子という設定で堺に潜るぞ。いつもの宿屋に住み込みで働くことにする」

「わかった」


 儂は下人として下働きをし、お猪は客をとる。もうすぐだ。もうすぐで我らの悲願である独立を果たすことが出来る。日の当たらぬ者が独立か。自嘲した笑みが口からこぼれたのであった。

戦記物です。

面白くできたと思いますので、ブックマークだけでもしてくれると嬉しいです。

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