表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

87/270

兵は神速を貴ぶ

若狭国 後瀬山城 武田氏館


 そこからの行動は早かった。いや、早くなるよう努めたのだ。兵は神速を貴ぶ。電撃戦はこの一言に尽きる。相手の準備が整う前に落とすのだ。公方の和睦の使者が来るよりも早く。


 四月の農繁期真っ只中に俺は雇い兵を集めた。


 まずは熊野郡の奪還からである。それに関しては十兵衛が首尾良く、速やかに行ってくれた。兵の数で勝っており、士気も高い。国衆も一色重之が話を通してくれているのだ。地の利も人の和もある。明らかに勝ち戦だ。


 戦を行ってみて分かったのは、少数で守っている城を攻めることはそう難しくはない。難しいのは攻め奪った後にその地域と国衆達を治めるのが難しいのだ。


 圧倒的な力量差があれば国衆もひれ伏すだろう。しかし、今回の場合だと山名家には十分な力が残っている。山名に臣従するか我等武田に臣従するか判断しきれない場面なのだ。


 それを狙って十兵衛が調略を用いて熊野郡に攻め入った。流石としか言いようがない。

 今回は熊野郡を奪い返すことが目的だったのでそこで兵を解散させる。そして国衆達の懐柔を行うのだ。


 飴と鞭を使い分ける。飴は所領の安堵と澄み酒の製造方法である。そして鞭は謀反や離反した場合、どうなるのかを懇々と説明して回ったのだ。


 どうなるか、もちろん一族郎党尽く根切りにするまでである。赤子とて容赦するつもりはない。それだけの覚悟をもって俺は丹後を手中に収めようと思っているのだ。


 それと同時に山名に使者を出す。丹後にちょっかいを出すな、という抗議と講和の使者だ。お互い、山名は但馬国、武田は若狭と丹後で矛を収めようじゃないかという使者だ。


 勿論これは嘘である。あくまで『講和しませんか』という誘いであって『講和します』という断定ではない。


 そして講和が締結されそうな雰囲気になったらそれを蹴るような動きを見せるよう、強気の講和条件を突き付けるよう使者には言い含めてある。


 使者がもたもたしている間に粛々と軍備を進める我等が若狭武田。気付かれないよう、予め手筈通りに熊野郡の大井城に兵糧や武具、旗や馬等をこっそりと運び込んでおく。


 大井城から此隅山城までは約二十一キロ。鍛えた兵を鎧甲冑姿で死ぬ気で歩かせて三時間くらいである。時速は七キロほど。徒歩が時速四キロと言われている。つまり、早歩きくらいだ。


 しかし、鎧甲冑姿で舗装されていない道を早歩きで進むのである。それがどれだけ大変かは想像に難くないだろう。だが、雇い兵は鍛錬に鍛錬を重ねた者どもである。それくらいはやってのけるはずだ。


 それもこれも弓木城に兵が集まってからだ。極端な話、大井城に御貸具足があるため弓木城には褌一丁でやってきても構わない。弓木城から大井城へ移動し、そこから此隅山城を急襲する。


 なので、後は弓木城に兵が集まるのを待つだけである。雇い兵だから農繁期でも動ける利点がある。対して向こうは農兵。召集される前に攻め落としてしまえば良いのだ。農民も招集を渋るだろう。動きは遅いはず。


 それが我ら若狭武田の電撃戦である。孫子にもあるだろう。曰く、動如雷霆。動くこと雷霆の如しだ。


 山名からの使者が帰って来たら出陣である。どうやら本拠である此隅山城には兵が三百程しか居ないらしい。どうしてこんなに少ないのか。 


 いくら守護の城とはいえ、平時であればそのようなものなのだろうか。それとも求心力が足りていないのか。そう思っていたが違った。我らの策が見事にはまったのだ。


 その策に役に立ったのは武田高信である。武田高信が鳥取城で蜂起したのだ。勿論、こちらから兵糧の類は支援してある。そして垣屋と太田垣には静観を決め込ませた。ま、参陣してもらっても構わないが。


 ここまでは筋書通りである。我らが攻め込む前に武田高信が謀反し、山名の目と兵を西に向け、その隙に我らが攻め込む。これで勝てるはずだ。


 問題は武田高信がどれ程の兵を動員できたかである。最低でも三百は集めて欲しい。改修された鳥取城であれば千の兵であろうとも対抗できるはずだ。


 千も兵を連れて行くとなると、山名としては自分自身が出張るか、もしくは一族の誰かを向かわせるしかないだろう。恐らくは甥の山名豊国辺りだろうな。


 これらのお陰で此隅山城の兵が三百まで減ったのである。この数であれば千五百ちょっとの兵で十分に攻め落とすことができる計算である。あくまで机上の計算であるが。


 やはり問題は武田高信がどれだけ時間を稼いでくれるかだ。使者が戻ってこなくても、武田高信が蜂起している今、出陣するしかなさそうだ。


 そうして兵を減らしている最中に俺達が此隅山城を電撃的に急襲する。これは楽しみになって来た。


 そんなことを考えていると、丁度良いときに向こうから送り出した使者が馬に乗って後瀬山城へと駆けて来るのが目に映ったのであった。これで心置きなく急襲できる。


「どうであった?」

「申し訳ございませぬ」

「そうか」


 その返事だけで結果がわかるというものである。ここからは速度勝負だ。公方の使者が届くのが先か。それとも我らが此隅山城を落とすのが先か。果たして結末は如何に。


Twitterやってます。フォローしてください。

https://twitter.com/ohauchi_karasu


モチベーションアップのためにポイントください。

ご協力、よろしくお願い申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

餓える紫狼の征服譚の第2巻が予約受付中です。

あの、予約にご協力をお願いします。それなりに面白く仕上がってますので、助けると思ってご協力ください。

詳しくはこちらの画像をタップしてください。

image.jpg

応援、よろしくお願い申し上げます。


― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ