甲斐信濃にて
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甲斐国 躑躅ヶ崎館 一条信龍
「一条様、どちらに居られたのでございますか。御屋形様がご心配されておりましたぞ」
躑躅ヶ崎に戻って来るや否や、奥近習衆の一人である武藤喜兵衛が俺に詰め寄る。知らせは文にて逐一知らせていたのだが、どうやら御屋形様の心配性は治らないらしい。
それも仕方のないことである。典厩の兄者が川中島にて亡くなったのだ。それで過敏になるなという方が難しいだろう。人は石垣、人は城、人は堀なのだから。
「失礼いたします。ただいま戻りましてございます」
「右衛門か、遅かったではないか。如何した?」
「お手紙にも記載しましたが、本願寺にて面白き御仁と巡り合いましてな。兄上にも良い話ができるやもと思い、暫く時間を貰っていた次第にございます」
俺は飄々と兄である信玄公の前に座る。奥近習衆を下がらせた今、此処に居るのは俺と信玄公の二人だけだ。自分で自分の肩を揉みながら信玄公に報告を行った。
「ほう。面白き御仁とな」
「はい。名を武田孫犬丸と申しまする」
「武田孫犬丸。確か若狭に居る我らが分家筋の倅であったな」
兄者は分家筋とわざわざ口に出して述べた。それだけ意識しているということである。それも伊豆守の官位が欲しいのだろうか。
「左様にございます。中々に見事な手腕で丹後をあっさりと奪いましてございます。今頃、但馬の山名とも事を構えているでしょうな」
俺は若狭であった全ての出来事を兄者に伝える。兄者はそれらを興味深そうに、時々質問を交えて聞いていた。
彼の御仁は但馬も手中に収めるだろう。山名如きでは相手にならん。一枚岩になれぬ、過去の栄華に縋る者に未来など無いのだ。
「ふむ。して、それが如何したのだ?」
「聞けば孫犬丸殿は未だ未婚にございます。相手も居られません。であるならば、藤姫を嫁がせては如何でしょうか?」
「ほう。藤姫を」
藤姫というのは兄者の孫娘である。つまり、藤姫が男児であれば嫡男たりえるお方である。それを嫁に出すことを提案した。勿論兄者、信玄公を慮って。
「何故、そう考える」
「それは、あに……御屋形様が太郎様を疎んでいるからにございます」
兄者の目が俺を射抜く。俺はただ笑顔を浮かべているのみだ。じっと見つめる兄者。そして根負けしたのかふぅと溜息を吐いてから兄者が重い口を開く。
「いつから気が付いておった」
「昨年の末から」
「あれは情に流され過ぎておる。我らには海が必要なのだ。そのためには上杉か今川を喰らわねばならん。しかし、上杉を喰らうのは手強いであろう。一向宗も当てにできん。そして和睦ももう出来ぬのだ」
兄者はそう述べた。兄者は海の重要性を理解しておられる。甲斐と信濃には海がないのだ。海を手に入れるには越後の上杉を食い破るか南の今川を食らうしかないのだ。
我らは既に上杉との和睦を破棄している。破棄しているのにもう一度、和議をと言っても取り付く島もないだろう。
いや、もしくは領土の割譲を求められるはず。がしかし、それには応じられない。
であれば南の海を、今川を攻め滅ぼすしかないのだ。織田を見れば分かるはず。熱田と津島を押さえている織田がどれだけ潤っているかを。だから兄者は海を欲しているのだ。
今の今川は義元の死により求心力が低下し、三河の狸如きに押される始末である。それならば我が武田の精鋭をもって攻め掛かれば駿府をあっと言う間に落とせるはずである。
しかし、今川は同盟相手なのだ。そして信玄公の嫡男である太郎様の嫁が今川の出、あの義元の娘なのである。そして太郎様は妻に恋慕している。太郎様が情に流されて猛反対するに違いない。
そこで、太郎様には別の命を与えるのだ。若狭武田を乗っ取るという命を。まあ、早い話が体の良い厄介払いである。海を獲らねば武田が干上がるのだ。武田か嫡男か。天秤がどちらに傾くかは火を見るより明らかである。
だが、俺もそこまで上手く行くとは考えていないし思ってもいない。相手はあの武田孫犬丸だ。それに、嫡男を国外へ出す守護大名が居たら会ってみたいものである。
要は国内の憂いを取り除ければ良いのだ。それがどんな形であっても。
太郎様を廃嫡するには正当な理由が居る。例えば伊豆守を継ぐ人間が必要になる、となれば周囲も納得しよう。伊豆守の官職は我ら武田に代々伝わる官職だ。
だというのに、何故か若狭の武田がそれを継いでいる。公方が根回ししたに違いない。我らを敵に回すつもりなのだろうか。
「どちらにしても、太郎様と連携されると困るゆえ、藤姫は近くの国主には嫁がせられませぬ。であれば距離があり、賢き者の元に送るべきかと。その際、飯富兵部らも若狭へと送りましょう」
近くに嫁がせて太郎様と共謀でもされてみろ。一気に足元から揺らぎかねない。だので、遠くに嫁がせるしか選択肢が無いのだ。
そして孫犬丸は明らかに我らが武田を恐れている。いや、我らと言うより兄者を。その理由は俺にも分からない。
彼の者であれば太郎様が謀反を企てようとも加担はしないだろう。そして一番重要なのは我らと家格が釣り合い、金銭的に潤っているという事実である。
金銭があるのなら、こちらに融通してもらうこともできるかもしれない。それは話の持って行き方次第だろう。
更に太郎様の傅役である飯富殿も藤様の護衛と称して一緒に若狭へと送る。さすれば太郎様とておかしなことを考えるような真似はしないはずである。
なに、我らが今川を喰らうまでの辛抱よ。そうすれば戻せば良い。太郎様も今川家が潰えてしまえば未練も無くなるだろう。
もし、向こうの家を乗っ取っていればそのまま当主として君臨すれば良い。ああ、その前に嫡男だけを授かってもらわなければ。その嫡男を我らで教育するのだ。
その嫡男は兄者の血と義元の血を継ぐ子になる。そうすれば甲斐や信濃だけでなく、駿府や三河も治める血筋足り得るのだ。
「遠くと交わりて近くを攻むる、か。分かった。この件は儂が預かろう」
「ありがとうございまする。必要とあらば本願寺と公方を動かしましょう」
こうして、我らはお家安泰のために太郎様の娘を遠くに嫁がせることにしたのであった。
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