銭と越後
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永禄五年(一五六一年)十二月 若狭国 後瀬山城 武田氏館
「この度は御戦勝、誠におめでとうございまする。こちらは我らからのお祝いの品々にございますれば、今後とも御贔屓の程をよろしくお願い申し上げまする」
そう言って平伏するのは組屋の源四郎、荒浜屋の宗九郎、川舟屋の道川兵衛三郎の三人が揃いも揃って面会を申し入れてきたのである。
戦勝の言葉を述べる彼らの後ろには山盛りとなった祝いの品々が置いてあった。言い方を変えよう。貢物である。つまり、俺に擦り寄ることで利があると思っているのだ。
その利とは何か。言わずもがな銭である。彼らは商人だ。その本懐は銭を稼ぐことにある。そして我が家には一色からの戦利品がたんまりと眠っているのだ。商人たちはこれを狙っているのである。
「さて、孫犬丸様。そろそろ武田家にお貸ししていた銭をご返済いただきたいところなのですが」
源四郎がそう切り出してきた。わかっている。皆まで言うな。銭を作るために貯め込まずに売れと言ってるのだな。これらを売り払って今すぐ銭を用立てようではないか。
と言うかだ。それならば何故に戦勝祝いを持ってきたというのか。これでは押し買い押し売りの類ではないか。商魂逞しいというか何というかである。
さて、問題は何を売るかである。御貸具足は売れない。武田の紋に塗り直して再利用させてもらう。金も売れない。金が国外に流出するのは避けたい。金銀の交換比率が国内と国外で違い過ぎるのだ。
そこから考えて売れるものと言えば、まず銀が挙げられる。これはいくらでも売って良い。それから茶器や唐物。これも俺は必要としていない。それから刀など武具の類もである。
ただ、これらは褒美として使うこともできる。売るのは忍びない。どうしよう。天下三肩衝であれば一国に類するとも言われている。流石に天下三肩衝は無いにしても、高価な品があればそれで足りるのだが。
ああ、もう一つ売れるものがあった。人だ。一色で捕らえた人を売ることが出来る。これは宗九郎に一任するとしよう。彼が得意としている分野だ。
「まずは銀だ。これらの銀を買い取ってもらいたい」
「どれどれ」
「拝見いたしまする」
「ほう! これは中々」
三者三様の声を上げる。俺はこの中から最も高値を付けてくれた商人に売り払うことに決めた。早い話がオークションである。欲を言えばこれだけで一万貫の値が付いて欲しい。しかし、それは難しいだろうな。
銀は最終的に道川兵衛三郎が三千貫で買い取ることになった。その三千貫は俺の手に渡ることなく源四郎の懐へと消えていった。
これでは返済までまだ足りない。土地を売るか。いやいや、それは悪手だ。どちらかというと、これから土地を買い漁って直轄地を増やしていかなければならないのだから。
となると、一色から奪った武具や茶器を売り捌くしかない。いくつかの武具や茶器を三人に見せ、品定めをさせる。
「ほう、これは備州正家の作ですな。これならば千貫で買いましょう」
「こちらは伯耆安綱ですか。悪くないですね。六百貫でどうでしょう」
「唐物の天目茶碗ですか。これは……三百貫で如何か?」
こうしてどんどん品物が奪われ、もとい売れていく。中にはどさくさに紛れて後瀬山城に眠っていた唐物も売らされてしまった。いや、唐物に興味は無いから良いんだけども。
そんなこんなで七千貫の借銭を返すことが出来た。残る借銭は四千貫である。え、借銭が増えているって。そりゃ戦なんてしていたら借銭が増えるのは当たり前だ。
「いやー、武田の殿様は銭払いが良くて本当に助かりますわぁ」
「商いは信頼関係で成り立っているからな。困ったときに銭を貸してもらえないと困るのは俺だ」
「何を仰いますか。我々はいつでも銭を用立てますよ。武田の殿様は我らの利をしっかりと考えてくださるお方だ。そのような方に天下を統一してもらいたいものですなぁ」
「天下を統一するためには銭が必要だ。銭で協力してくれても良いのだぞ?」
「それは遠慮しておきましょう。可愛いのは我が身ですから」
そんな馬鹿げた話をする。兎にも角にも借銭が減った。一色様様である。不用品を高値で買い取ってくれたのだ。感謝の言葉しかない。
「しかし、越後や越前でも若狭の羽振りが良いと話題になっておりますぞ」
「ほう。越後と越前でか」
源四郎がそう述べる。その言葉に反応したのは荒浜屋の宗九郎であった。
「ああ、その噂の出所は私でしょうな。方々に孫犬丸様のことをお話しておきましたぞ。なにせ、孫犬丸様は我らの得意様でございますからな」
また余計なことを。目立っても良いことなどないのだ。出る杭は打たれるという言葉を知らんのか。目立たず、ひっそりと力を貯め込むのが肝だというのに。
「琵琶島城の宇佐美駿河守様も孫犬丸様に強い関心を覚えておいででございました」
宇佐美駿河守と言えば上杉謙信の軍師と呼ばれる宇佐美定満か。どうやら宗九郎が拠点としている柏崎を統べているのが宇佐美定満のようなのだ。ん、ちょっと待てよ。
「宗九郎は宇佐美駿河守に目通り願えるのか?」
「それはもう。駿河守様にも贔屓にしてもらっておりますので」
「そうか。では、俺の書状を宇佐美駿河守に手渡してもらうことは能うか?」
「それくらいはお安い御用にございます」
これは願ってもない好機である。俺は上杉と商いがしたい旨、我らと甲斐の武田は今は無関係である旨、上杉とは良好な関係を築きたい旨をつらつらと文に認めて花押を入れた。祐筆ではない、俺の直筆である。
「返書をいただいてくればよろしいのですね?」
「ああ、返書を持ってきてくれるのなら、宗九郎にしかと銭を落とすことにしよう」
「ありがとうございまする。やはり孫犬丸様はわかっておられる」
「抜かせ」
こうして俺は過度な期待をせずに上杉と文通を始めることにしたのであった。
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