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丹後の褒美

本日、頑張って更新しますのでポイントください。

なんとかランキングのトップに食い込んでみたいです。


また、モチベーションにもなりますので、ご協力をよろしくお願いします。

私を助けると思ってください。

 そこからは虜囚の確認となった。虜囚は怪しい者でない限り、基本的には全員を解放した。殺す理由が見当たらない。しかし、間者や一色義定の後を追いたいと願い出た者は高屋良栄に任せることにした。


 だが、我らに歯向かった者であったり、その身内は許すことが出来ん。彼らには厳しい処遇を告げることとなった。領地の没収、一族郎党の離散、妻や子を宗九郎に引き取らせるなど、胸が痛むものばかりであった。


 しかし、やらねば示しが付かぬ。我らに味方をすれば大手を振って受け入れるが敵対するならば容赦はしないと内外に示す必要があるのだ。


 それから首実験である。主だった首は小出左京進、桜井豊前守、杉山出羽守等であった。どれも一色義定に与していた領主であった。彼に希望を見出していたのだろう。そして、その判断は正しいと思う。


 それらが一通り終わった頃、菊池治郎助が明智十兵衛と細川兵部を引き連れて戻ってきた。どうやら明智勢は滞りなく与謝郡と竹野郡を制圧出来たようである。


 これで丹後の東半分を制圧することが出来た。残るは熊野郡と中郡の二郡である。丹後の地盤を盤石なものにするにはもう少し時間がかかりそうである。


 これで諸将を建部山城に集めることが出来た。彼等をこの城の評定の間に呼び出し、このまま論功行賞を行うことにする。さて、誰を第一功にするべきか。これはもう俺の中では決めてある。そして根回しも済んであるのだ。


「此度の丹後攻め、皆の者ご苦労であった。其方等の力があったからこそ丹後を切り取ることが出来た。そう思うておる。この通りだ。礼を申す」


 そう言って頭を下げる。すると家臣から「頭をお上げ下され!」といった声や「何を申されますか! これこそ、御屋形様の人徳にござる」という声が散見された。それを手で制して静める。


「そう申してくれると私としても大変ありがたく思う。だが、其方等の力があってこそ丹後を切り取ることが出来たのは事実だ。今回の第一功は、明智十兵衛光秀である」


 俺は十兵衛を第一功にした。本来であれば一色義道を捕らえた熊谷直之なのだが、彼には事前に話を通して承諾してもらっている。猜疑心を抱かせないためにはこういう根回しが必要なのだ。


「拙者、でございますか」

「そうだ。十兵衛が第一功である。其の方は一色式部大輔に猜疑心を抱かせ、一色五郎の離間に成功した。これは丹後攻略で非常に大きなものとなったのは言うまでもない。更に与謝郡と竹野郡を制圧できたのも大きい。残すは熊野郡と中郡のみである。依って十兵衛。其方を此処、建部山城の城主とする。其方の手腕で田辺を、加佐郡を発展させてくれ」


 国吉城から建部山城の城代へと移封させる。石高は五千程になるだろう。行く行くは領地を与えて土地持ちにしてやりたいところだが、十兵衛は立場が難しい。親族であり外様なのだ。ここで諸将の反応を見ておきたい。


「は……ははぁっ! 有り難き幸せ! この十兵衛、命に代えましてもその任、拝命仕りまする」


 十兵衛が深く深く平伏する。周囲はどよめいていたが俺はこの判断を変えるつもりは無い。戦で大事なのは入念な準備である。どれだけ相手の力を削ぐことが出来るか、事前にどれだけ優位に立てるかである。


 その点、今回は至らない部分が多過ぎた。優秀な家臣に恵まれていなければあっと言う間に滅ぼされていただろう。俺は深く深く反省したい。


「第二功は熊谷大膳亮だ。其方が一色式部大輔を捕らえることで戦が終わったのだ。礼を言うぞ」

「何を申しますか。それは御屋形様が『潜んでおれ』と仰られたので座って待っていただけにございます。棚から牡丹餅が転がってきただけでございますぞ。功を立てた訳ではござりませぬ。辞退させて下され」


 そう述べて頭を下げる熊谷大膳亮。これは俺も寝耳に水の宣言であった。何度か押し問答を行うも、彼の決意は変わらない。仕方がない。息子の伝左衛門の褒美に色を付けるとしよう。


「そうか。では次の功である。松宮清長、良くぞ一色五郎を抑え込んでくれた。其方が崩れたら前田又左衛門達が危ない目に遭っていただろう。感謝いたす」

「有り難きお言葉にございまする。しかしながら、一色五郎を落馬させた御屋形様の功には及びませぬ。今後も精進させていただきまする」

「其方には熊野郡の鹿野城を任せたい。周辺の国衆を取りまとめて欲しいのだ。頼めるか?」


 鹿野城は一色義定の後を追った岩田近久の居城だ。そこを接収して松宮清長に与えようというのだ。清長も譜代の家臣である。譜代も優遇しなければ謀反が起きかねん。


 なので、松宮清長に鹿野城と熊野郡司を任せるのだ。石高も今より加増され五千石程に伸びる。若狭武田では出世頭となるだろう。更に熊野郡司だ。悪い話ではないはず。


 だが、松宮清長には断られるかもしれない。そう考えていた。武士は土地に根付く。父祖伝来の土地があるのだ。それを放っぽり出して加増されるからと易々と動いてくれるものではない。そう思っていた。


「今までの土地は俺が接収する。だが、其方しか頼める者がおらぬのだ。この通りだ」

「御屋形様……ははっ。お任せ下され!」

 

 俺が頭を下げ、松宮清長に思いの丈を伝える。がしかし、どうやら俺の杞憂だったようだ。松宮玄蕃允は二つ返事で応じてくれた。ほっと胸を撫で下ろす。


 そこからも恩賞は続いていく。沼田上野之助は十兵衛が居なくなった国吉城に移ってもらうことにした。国吉は肥沃な美浜があり、敦賀もある。上野之助であれば稼ぐことは造作も無いはずだ。


 彼も五百石から三千石へ大躍進である。俺に忠節を誓って五年以上か。やっと上野之助の忠節に報うことができた。勝手ながらそんな気がした。


 そして熊川城には彼の妹婿である細川藤孝が。熊川は京都からも近く、彼にとっても理想の所領と言えよう。熊川の周囲である井ノ口と天徳寺、それから松宮清長の膳部山城と瓜生砦も細川藤孝に任せることにした。石高はざっと二千石になる。


 前田又左衛門には感状と銭をそれぞれ百貫程渡した。その銭を元手に更に政に励んでもらいたい。山内一豊には美浜の南を任せることにする。彼も千石程になるだろう。更に励んでもらいたい。


 それから万願寺城の城代を山県源内に。堂奥城の城代を宇野勘解由の浜衆二人に任命した。どちらも今回の戦では活躍してくれた剛の者である。


 山県孫三郎には君尾山城を。そして市川右衛門を彼の下に付け、吉坂峠砦を与えることにした。武藤友益には加斗城およそ千石を加増することにした。これで主だった評価は行っただろう。


 しかし、これだけ苦労したというのに、まだ二十万石に満たない。十三万石程なのだ。おかしな話である。そもそも若狭も丹後も山が多く、平地が少な過ぎるのだ。


「某には褒美はござらんので?」


 そんなことを考えていると、一条信龍が俺に向かってそう述べてきた。そうだ、彼が居たのを忘れていた。というか、自分から付いてきて褒美を強請るとは。この業突張りめ。


「……何か欲しい褒美がお有りか?」


 とはいえだ。無視することは出来ない。褒美を強請るということは欲しい褒美があるということだ。半ば強引とはいえ、手伝ってもらったのだ。無下にすることは出来ない。


「有り申す」


 そう述べてにやりと笑う一条信龍。俺は嫌な空気を感じざるを得なかった。黙って一条信龍の言葉を待つ。すると、彼はゆっくりとこう述べた。


「我が武田と是非とも誼を通じていただきたい。そう考えており申す」


 正直、彼が何を言ってるのか俺には理解できなかった。誼を通じるも何も、元を正せば同じ一族ではないかと。だが、俺のそんな甘い考えは一条信龍の次の言葉で脆くも崩れ去るのであった。


「武田太郎義信様と嶺松院様の間には見目麗しい姫君がおりましてな」


 そこで俺は悟る。一条信龍が何を言いたかったのかと。つまりは婚儀である。武田徳栄軒信玄の嫡男である太郎義信の娘を娶れと。彼はそう言っているのだ。しかし、腑に落ちない。


 なぜ俺が武田の嫡男の娘を娶らねばならないのか。嫡男の娘である。政治的にも有用に使うことが可能だろう。今回の婚儀の打診の意図が全く分からない。


「是非とも孫犬丸様にはその姫君を妻にお迎えいただきたく存じまする。それが成れば某にとって最高の褒美となりまする」

「「おおっ!」」


 俺が考えを纏めている間に一条信龍が話を進める。そしてその提案に沸く家臣達。それを見て頭を抱える俺。提案には必ず裏があるのだ。それを何故理解しようとしない。


「解せぬな。何故それが貴殿の褒美に値するのか」


 そう述べたのは上野之助であった。やはり上野之助は浮かれている家臣達とは違い、しっかり現実を見てくれている。今にも倒れそうな顔色をしているのに頼りになる男だ。


「またその話、武田徳栄軒様もご存じのお話でしょうや。徳栄軒様がお許しになるとは思えぬ」


 そう言って更に追及するのは十兵衛である。確かに、一条信龍は本願寺に用があって甲斐から訪ねてきたのだ。若狭武田には用は無いはずである。


「勿論、某の一存である。しかし、この提案は御屋形様が喜ぶご提案でございますれば、必ずお受けになりましょうぞ」


 待て待て。冷静に考えろ。相手は武田義信の娘である。しかし、俺は知っている。武田の後を継ぐのは諏訪四郎勝頼であると。では、何故に義信は廃嫡されたのか。


 これは義信が徳栄軒信玄の今川攻めに反対したからだったはず。彼の妻は今川義元の娘だ。現当主の今川氏真は従弟に当たる。今川に攻め込むのは抵抗があるだろう。


 しかし、桶狭間の戦いで今川の弱体化が決定的となった。そして松平も独立を果たしている。三国同盟があるとはいえ、このままではどこかの勢力に飲み込まれることは必須。その前に掻っ攫ってしまおうと徳栄軒信玄は考えているのだ。


 となると、嫡男の義信が邪魔になる。何処かに追い払いたい。そこで若狭武田に追い払う。そんな流れだろうか。いや、あの信玄公のことだ。乗っ取って来いとでも言いかねないな。うん、断ろう。この縁談は良くない。


「申し訳ござらぬが、この話は断らせて――」

「まさか孫犬丸様ともあろうお方が甲斐武田を敵に回すという愚行をとれるとは思いませぬ。お受けいただくということでよろしいか?」


 確認を取っているように見えるが、これは半ば脅しだ。拒否できないようになっている。どうする。汗が止まらない。進んでも退いても地獄だ。いや、信玄が京まで進軍することは無い。断っても良いはず。


 むしろ、ここで断らなければ上杉の反感を買うだろう。上杉は京まで進んでくる。加賀、越中を制圧して越前まで伸びる可能性だってあるのだ。そして越前の隣は……若狭である。


 それともなにか、俺に孫娘を娶らせることで武田の当主は自分だと喧伝するつもりなのだろうか。俺はもとより武田信玄が武田の当主だと思っている。ではなにか……ああ、伊豆守の官位だろうか。


 伊豆守は武田にとって重要な官位だ。しかし、それを代々受け継いでいるのは若狭武田である。どうしてこうなってしまったのか。これならば伊豆守を手放した方がマシだ。


「お待ち下され。利が分かりませぬ。甲斐であれば……例えば飛騨の姉小路様と縁を設けた方が益になるのでは?」


 そう述べたのは明智十兵衛である。彼の言は至極真っ当な意見であった。甲斐の武田はそうして地盤を固めてきた歴史があるのだ。近くの豪族、国衆に嫁がせるべきである。


「……わかり申した。素直にお話ししましょう。御屋形様と嫡男の太郎様の仲が拗れ始めておいでで。そこで孫犬丸様には太郎様と御屋形様の仲を取り持っていただきたく」


 どうやら俺の推測は正しかったようだ。しかし、そうなると甲斐武田が若狭武田を乗っ取る線も真実味を帯びてくる。その点は断固として拒否したいところである。


「つまり、太郎様のご息女を妻に迎えさせ、徐々に若狭武田を取り込もうと。一条右衛門大夫殿はそうお考えか?」

「滅相もございませぬ。決してそのようなことは。孫犬丸様も仰られていた通り、若狭の武田も甲斐の武田も本をただせば同じ武田に。ただ、若狭は海の幸に山の幸が豊富でございますからな」


 涼やかな顔で否定して頭を下げる。やはり肚の内は教えてはくれぬか。婚儀は断れない。それであればこの問題は一度、棚上げするに限る。


「どちらにせよ、武田徳栄軒信玄公の承諾は得られていないとのこと。続きは承諾を得てからお話ししましょう。それで如何でしょうか。一条右衛門大夫殿」

「……承知いたしました。では、某は御屋形様から承諾を得て再びこちらに戻って参りましょう」


 俺と一条信龍の視線が交差する。そして「御免」と呟き俺の前を辞する。この時の俺は一条信龍の、いや武田信玄の狙いを全くも理解していなかった。


 それと入れ違いに黒川与四郎が評定の間に現れた。どうやら急ぎの用があるみたいだ。与四郎の言葉に耳を傾ける。


「与四郎、如何した?」

「山名右衛門督、息子の慶三郎義親を旗頭に丹後の熊野郡へと攻め込み申した」

「何だと!?」


 これは寝耳に水の報告であった。どうやら山名祐豊は一色氏に後詰めとして用意していた兵でそのまま侵攻に出たのだ。彼の子息であれば一色氏の血を継いでいる。攻め込むには十分な理由だ。


 一難去ってまた一難とはまさにこのこと。いや、逆に好機と考えよう。このまま但馬を切り取る好機だ。

 ここで主力を叩いて逆侵攻をかける。これが最良の策である。


 俺はこのまま但馬の山名祐豊に対する対策を皆と話し合うのであった。

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