将の器、君の器
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永禄四年(一五六一年)十一月 丹後国 君尾山城
標高が高いせいか、肌寒い君尾山城。この山城に若狭国の将兵が集っていた。最後に到着したであろう叔父の武田信景を迎え入れてすぐさま軍議を開く。時間はまだ昼前である。
今回の留守居役は戻ってきた内藤重政とオマケの尼子孫四郎に任せることにした。吉坂峠砦には山県孫三郎が入っている。そう簡単に抜かれることは無いだろう。
「さて、それでは揃ったな。では、ここから建部山城を目指し、万願寺城と片山城を落とすぞ」
「「ははっ」」
万願寺城が田辺の西に、片山城が田辺の東に位置している。どちらも落とさなければ建部山城を攻め落とすときに背後を突かれてしまう。問題は誰に落とさせるかである。そろそろ外様のあの二人を試してみるか。
「万願寺城は又左衛門。其方に任せる。好きに攻め落とせ」
「承知にござる!」
「片山城は伊右衛門。其方だ」
「は、はいぃっ!」
「両名とも寄騎は必要か?」
そう尋ねると又左衛門は「必要ござらん!」と即答した。対する伊右衛門はというと、少し思案してから「斯様な配慮を賜り恐縮ではございますが必要ございませぬ」と丁寧に断ってきた。対照的な二人だ。
「相分かった。それでは我々の中から寄騎は出さん」
前田又左衛門は二百の兵を、山内伊右衛門は百の兵を率いてきた。それぞれ副将が二人ずつ付いている。又左衛門には村井長頼と高畠定吉が。伊右衛門には祖父江勘左衛門と五藤為浄だ。彼らが居れば討ち死にすることは無いだろう。
ただ、そうだな。ここは俺も一肌脱ぐべきである。彼らの将としての才能を見てみたい。いや、才能を開花させなければならない。早く数千を率いてもらう将になってもらわねば若狭武田が滅びるのだ。
「では、又左衛門。其方は女布城の森脇相模守、高妻山城の河島越前守と連携して万願寺城を落とせ。女布城は万願寺城の目と鼻の先にある。上手く使うのだ」
「ははっ」
「伊右衛門は堂奥城と溝尻城の矢野氏と連携するのだ。片山城主である小西石見守は加佐郡陣代だが決して無理はするなよ」
「か、畏まりましてございます!」
そう述べると彼ら二人は軍議の場を離れていった。直ぐに城攻めに掛かるのだろう。丹後国衆の助力を得ることが出来れば兵数は倍近くに伸びるのではないだろうか。それであれば落城させることも出来るだろう。
残された俺達は建部山城を取り囲むべく、兵を進めることにした。できることであれば戦はしたくない。餓え殺しにできるのであればそれが最善だ。
しかし、兵糧がどれほど蓄えられているのか分からぬ。だが、建部山城まで進めば与謝郡を進んでいる十兵衛達とも合流しやすくなるだろう。
だが、丹波からの後詰めは無い。内藤宗勝が苛烈に丹波の諸将を攻め立てているからだ。自領が攻め込まれているのに他領に後詰めを送る馬鹿などいない。居たらとっくに滅んでいるはずだ。
「さて、じゃあ誰か君尾山城に留守居を頼みたいのだが、市川右衛門。其方に任す」
「ははっ!」
彼も伝左の下で励んできた男だ。そろそろ一城くらい御してもらわねば困る。君尾山城は堅固な山城だからそう簡単には落ちないはずだ。この城は丹後を攻略した後も必要となる城なのだ。
この君尾山城が丹波と丹後の境目になる。この城は丹波の甲ヶ岳城等を睨む重要な拠点なのだ。そう簡単に失いたくない城である。それを言ったら失って良い城なんか一つも無いのだが。
「よし、じゃあ向かうぞ!」
「「「応っ!」」」
戦をだらだらと長引かせるつもりは無い。兵は神速を貴ぶ。加佐郡の城その全てに攻城戦を仕掛ける。兵力を分散することは各個撃破の良い的だが、兵は拙速を聞くが、未だ巧久を睹ずとも言う。長引かせてはいけないのだ。
その道中。俺は建部山城をどうやって攻略するか沼田上野之助に相談する。彼の顔はいつも通り青白い。逆にその青白さが何だか懐かしく感じるくらいだ。
「さて。建部山城を落とせると思うか?」
「十分に能うかと。建部山城への援軍を断つ策を講じました。建部山城に籠もる兵は物見によると四百にも満たないとのこと。どうも兵が逃散しているようで。対して此方は千二百は居りまする。又左衛門殿、伊右衛門殿、或いは十兵衛殿の誰かが援軍に到着すれば落とせましょう」
「それまでは包囲して待機だな」
「いいえ、包囲する必要はございません。包囲すると薄くなってしまいます。薄くなると容易く破かれますぞ。一か所に固まり、数を量を見せつけて心を攻めるのでございます」
そう述べる上野之助。むぅ、俺が浅はかだったか。そりゃ戦の何たるかを知らない現代人だったのだ。稀代の軍師であった上野之助に俺が叶う訳が無い。
「成る程のぅ、ではその通りに建部山城から一番見えやすい位置に陣取るとしよう。なあ、上野之助。俺は戦下手か?」
自分の考えた策を上野之助に否定されて自信を失くした俺は上野之助にそのようなことを尋ねてみる。すると、上野之助からは意外な言葉が返ってきた。
「いえいえ、御屋形様は稀にみる名将にございましょう」
上野之助がおべっかを言うとは珍しい。歯に衣着せぬ物言いしか出来ぬものだとばかり思っていた。いや、それでは軍師は務まらぬか。相手をおだてて良い気分にさせ、自分の意見を通すのも策の内なのだろう。
ああ、要らぬ気苦労をかけてしまった。足りていないのであればそう言って欲しいものだ。俺はまだ家臣に信頼されていないのだろうか。
「見え透いた世辞は良い。至らなさは自分でも痛感している」
「いえいえ、世辞ではございませぬ。名君とは分別を持ち、正しい価値観のある方にございます。私心で家臣の直訴を無下にせず、公平に理と利をもって判断できるのが肝要にございますれば。御屋形様はそれらを持ち合わせたお方でございましょう」
相変わらず青白い顔でそう述べる上野之助。その目は至って真面目である。俺は馬上にて上野之助の真意を思案していた。
「つまり、戦の得手不得手ではなく正しい判断を行えるのが名君である、と?」
「左様にございます。御屋形様の御父上であらせられます武田伊豆守様は戦上手と言われておりましたが御討ち死になされました。これは正しい判断を下せなかったからにございます。なので、戦上手ではなかったのでしょう。ふふふ」
これは耳が痛い話である。嗾けた身としては口を噤むことしか出来ぬ。そうして沈黙を維持していた時である。
進軍の先頭を任せていた松宮玄蕃允の列が慌ただしく動き始めた。傍に居た上野之助が声を上げる。
「何事か!」
「御注進にござる! 一色五郎義定が二百の兵を率いて出陣されたとの由」
「は?」
思わず俺は情けのない声を上げてしまった。たったの二百で撃って出る意味が分からない。こちらは倍以上の数で攻め込んでいるのだぞ。正直、理解が追い付かなかった。その横で上野之助がこう呟く。
「成る程」
「どういうことだ?」
「簡単なことでございますよ。勝てる目が無いのであれば武士らしく華々しく散りたい。そういうことでございましょう」
ああー。そうかそうか。理解した。上野之助の言葉で完全に理解しました。そうだよな。打って出るよな。籠城しても勝ち目は無いのだ。それであれば一か八か打って出よう。そう言うことなのだろう。
俺の『戦わずして勝つ』という目標が早くも失敗に終わってしまった。いや、無理なのは重々承知していたのだが、目指すくらいはしても良いではないか。
今回の失敗は一色勢を追い詰め過ぎた点だろう。どこか違う国に逃がすのが最良であったか。これは失敗だ。
「厄介だな。……ん、どうした?」
「いや、意外でして。何が厄介なのでござましょう」
そう問いかけてくる上野之助に対し、今の俺の考えを述べる。第一に考えなければならないのは自軍の被害をなるべく抑えることである。
「今の奴らは死兵ということであろう。全員、この場で死ぬ気だ。それであればこちらの被害も大きくなる。逃げてくれないのだからな。なので厄介だと考えておるのだ」
「いやはや。やはり御屋形様は名君でございましょう」
そう述べて上野之助は間違っていなかったと言わんばかりに満足そうに頷いたのであった。
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