将来の敵に米を送る
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永禄四年(一五六一年)九月 若狭国 後瀬山城
丹後国の国衆への調略は着々と進んでいた。石川秀門、矢野政秀がこちら側に呼応してくれることを確約してくれたのだ。
これで丹後国の主だった国衆、領主達は若狭武田が攻め込んだ時に呼応してくれることを確約してくれたのだ。どうやら一色式部の圧政には耐えかねていたようだ。
しかし、当然ながら呼応しなかった者も居る。弓木城の稲富直時や中山城主の沼田幸兵衛等がそうだ。本来ならば彼のような忠義者を配下に加えたいところだが、降ることはないだろう。
それにしても気になるのは一色五郎義道の動きだ。あれから何の動きも無い。何故だろうか。音沙汰が無いのが逆に怖い。もっと慎重に丹後侵攻を進めるべきだろうか。
しかし、時間をかけていては朝倉にこれ幸いと背後を突かれる可能性がある。それだけは避けたい。それに兵を動かすのにも銭を使う。借銭の身である今、銭を多く使う行動は慎むべきなのだ。
いや、ここは進むべきだ。君尾山に城も築けた。ここを皮切りに丹後を飲み込むべきである。
俺は諸将を集めた。明智十兵衛、沼田上野之助、白井光胤、逸見虎清、黒川与四郎、武田信景、熊谷伝左等の主だった家臣達である。
「御屋形様、揃いましてございます」
「うむ」
十兵衛が音頭を取る。集まった彼等には事前に何用で呼び出しているのか話は通してある。勿論議題は丹後攻めについてである。
まずは諸将に話を任せてみよう。それで一人ひとりの癖が見えて来るはずだ。だが、大枠の説明だけはしなければ。
「此度、集まっていただいたのは丹後攻めについてである。丹後の国衆達は半数近くが我らに呼応するとのことだ。君尾山城も完成しており、丹後攻めの準備は整っている。さて、どうするべきか意見を伺いたい」
そう告げた時に最初に口を開いたのは前田利家であった。こういう時、周囲の顔色を窺わずに自分の意見を述べてくれる利家の存在は大きい。そして彼は良くも悪くも真っ直ぐである。
「そりゃ全軍で一色式部が籠もる建部山城を落とすべきにござる! 何を迷うことがあられるか!」
「待て待て。全軍を動かせば朝倉が背後を突きましょうぞ」
その案に待ったをかけるのは叔父の武田信景である。彼は若狭武田の良心とも言えるだろう。他の兄弟と違い野心が全く無いのか、それとも爪を隠しているだけなのかは不明である。
「しかし、余裕を持って制圧できるほど丹後、一色は小さくありませぬぞ。ここは又左殿の仰る通り、全軍で速やかに一色式部を攻め滅ぼすのが得策かと」
その叔父御に反論したのが白井光胤である。一色は仮にも三管四職の家柄だ。侮らず、油断せずに進める白井光胤らしい発言である。
「いや、やはり国吉城は後詰めとして残すべきにござる。万一を考えるとどうしても国吉はもぬけの殻にできぬ」
そう述べる伝左。彼も意外と保守的な思考のようだ。皆の考えが分かって楽しさも感じられる。俺と虎清は静かに議論を眺めていた。どうやら虎清は沈黙が金であることを理解しているようだ。
しかし、このままだと全軍で出るか朝倉の抑えとして国吉城に兵を残すかで平行線の議論になってしまいそうである。俺が口を開こうとしたところ、明智十兵衛がその前に意見を発言し始めた。
「お待ち下され、皆の衆。全軍か国吉に後詰めを残すかの二択ではござらん。もっと広い視野を持たなければなりませぬ。例えば……全軍を率いるために朝倉の背後にいる加賀の一向宗に背後を突いてもらうなど如何か?」
そう。引くか進むかの二元論ではない。どうやったら実行できるかを検討するのも大事な議論だ。
そして十兵衛が述べた一向宗を使う手は、確か甲斐の武田が実際に使ってた気がする。越中の一向宗に越後の上杉の背後を突かせていたはずだ。しかし、えぐいことを考える。
「成る程。その案は検討に値しますな。越前の金吾殿が亡くなって一向宗がそろそろ朝倉に攻め込んでも良い頃合いでしょう」
十兵衛の案に賛同したのは上野之助である。すると場は一向宗に越前を攻めてもらう流れになった。つまり、一向宗との話がつけば全軍をもって丹後に攻め込むことができるのだ。
「問題は一向宗を動かすにはどうすれば良いか、でございますな。真っ先に思い浮かぶのは銭か兵糧の類でございましょう。どれだけ積めば動いてくれるか」
「いやいや、お待ち下され。それであれば顕如上人と誼を通じるのが上策ではござらぬか」
山内一豊がそう述べると反論するのは武藤友益。どうやって一向宗と共闘するか。今度はそれが焦点になっているようだ。
「打てる手は全て打つべきである。そのために銭と兵糧を集めてきたのだ。で、ございましょう。御屋形様?」
そう述べたのは細川藤孝。俺は重々しい雰囲気を醸し出しながら頷いた。やはり彼は分かっている。打てる手は全て打つべきである。『どちらか』ではなく『どちらにも』行うのだ。
米が無くなれば銭で買い足せば良い。銭が無くなれば借りれば良い。しかし、命を失ってしまったら取り返しはつかんのだ。出来ないと諦めるのは簡単だ。そうではなく、出来る方法を探すべきである。
「では、一向宗に助力を求め、彼らが朝倉と戦を始めたら我らが丹後に全軍をもって攻めかかる。それでよろしいか?」
武田信景が代表して意見をまとめた。皆が異議無しと深く頷いている。俺は父とは違う。己が武力だけで勝とうとは思わぬ。自軍の損害が減るのであれば喜んで一向宗にでも迎合しよう。
しかし、俺には一つの不満があった。まだまだ議論を終わらせる気は無い。せっかくの機会だ。腹を割って話し合おうではないか。
良い議論が出来ている。国が一つにまとまると、こんなにも力強く、頼もしくなるのかと。もっと高度な話をしたい。そういう欲が沸々と湧いて出てきた。俺が爆弾を落とす。
「一色式部の息子、一色五郎を引き入れることは出来ぬか?」
一色氏を味方に引き込めば心強いものはない。俺は一色の血さえ継いでいればそれで良いと思っている。其奴を傀儡に、俺が丹後を治めるのだ。松宮清長が嗜める。
「難しいでございましょうな。一戦している以上、向こうがこちらを敵視しているのは必定。そう簡単に靡くとは思えませぬ」
「では何故に一色五郎は出てこぬ。我らにいとも容易く君尾山に城を造らせてしまったではないか。これが不気味でならぬ。俺はその理由を一色式部と一色五郎の不和だと考えた。それであれば一色五郎も靡く可能性があるというもの。違うか?」
そう言うと松宮清長は「ご慧眼、御見逸れ致しました」と言って頭を下げている。別におべっかが欲しい訳じゃない。それが可能かどうかを議論してもらいたいのだ。
「与四郎、一色五郎に近付くことは能うか?」
「無論」
「よし。では何故に動かぬのか突き止めてくれ」
「承知」
そこからは各自の役割の確認となった。誰が本願寺と交渉するのか。丹後攻めの兵馬の準備に兵糧の用意。戦を行うと言うのは一大事業なのだと痛感させられる。
ここで孫子の言葉が重くのし掛かって来る。『戦わずして人の兵を屈するは善の善なる者なり』だったか。これから征服するということは自分の領地になるのだ。
もし勝てた場合、現在の領民と未来の領民が戦うことになる。これでは勝てたとしても傷が大きいということなのだろう。もっと頭を、脳みそを千切れるまで考えて良案を捻り出さなければ。
何はともあれ情報待ちだ。正確な情報から正しい戦略が生まれる。兵数や兵糧は勿論のこと、銭や精神状態まで拾える情報は何でも検討するべきだ。
「それでは各々方、抜かりなく。理解していると思うが、朝倉には気取られるでないぞ」
「「「ははっ」」」
評定をお開きにして一人、執務室に籠もる。此度の戦の出費は如何程かを計算しなければならない。それが意外と嵩むのだ。
六角に支払う出費。松永(内藤)に支払う出費。本願寺に支払う出費。これで借銭の返済用の銭が全て水泡と化す。まさしく尻の毛まで抜かれて鼻血も出ない状態とはこのことだ。この戦、絶対に負けられない。
どれもこれも我等若狭武田が弱小だからいけないのだ。弱いから全方位に土下座外交を展開しなければならなくなる。強くならねば。自分への苛立ちが段々と募っていく。もっと上手くやれたのではないか、と。
「もう一度、銭勘定だ。削れる部分は削らなければ」
まずはさらに食事を削る。と言っても栄養を考えたうえで減らすのだ。つまり、何を犠牲にするのか。それは味である。全く世知辛い世の中になったものだ。
今ですら玄米生活だというのに、それだけでは駄目らしい。俺は今日から赤米の玄米と蕎麦、少しの粟と稗で生きていく。流石に粟と稗は食べ慣れていないので辛い。
そうと決まれば米を売って蕎麦を買おう。蕎麦がきだけであれば飽きも来るが、蕎麦切りを作り出した今、そこまで苦ではない。それに乾燥させれば日持ちする。
鶏も増えて鶏卵もあるし、牛も増えて牛乳も手に入っている。それに海に面しているから魚が手に入る。おかずは豊富だ。食糧に関しては順調に自給率が伸びているのだ。
若狭湾では塩も穫れる。環境としては平地が無いだけでそこまで悪くないのだ。平地が無い部分を蕎麦などで補う。牛も山で育てられる。それから、丹後を切り取ったら棚田の導入も検討してみよう。
考えなければならないことは山程ある。しかし、時間は全く残されていない。領地の経営がこれ程までに難しかったとは。つくづく思い知らされる。
立ち止まっている訳にはいかない。やれることを一つずつこなしていかなければ。
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