乱妨取りのその先に
それからも小浜の湊を見て回る。その中で興味深い一団に気が付いた。俺はその一団に近づいていく。何とも物騒な一団だ。商人が武装しており、女性や子どもが縄に打たれている。伝左が声を出した。
「あー、あれは荒浜屋の一団ですね。人取りですよ」
「人取り?」
「雑兵は戦で負けた町や村を襲って金目の物を奪うのです。銭や米、果てには人まで無理やり攫い、商人に売り付けるのです」
ああ、俗に言う乱妨取りというやつか。幼い子どもまで売られている。この時代では当たり前とはいえ、世も末だな。見物客に紛れながらそう思う。
「いくらの値が付くのだ?」
「高くても二、三百文でしょうな」
「二、三百文だと!?」
あまりの安さに声を上げてしまった。耳目が俺に集まる。三百文で売られているということは現代の日本円の価値に換算しても五万円もしないということなのだ。
この金額は高くても、である。下を見ればきりがないだろう。では、どうしてそんなに安いのか。それは商人が買い叩くからだ。攫ってきた雑兵は商人の言い値で売るしかない。売れなければ困るのは雑兵だ。
困窮しているというのに食い扶持を増やしても仕方ないのである。なので、どうしても商人の言いなりにならざるを得ないのだ。それにしても安過ぎる。
「これはどこから連れて来られた人だ?」
「おそらくは加賀もしくは能登でしょうな。越後から小浜に来る道中に買ったのでしょう。能登では昨年から戦が続いておりますゆえ」
なんでも能登の畠山氏が内乱に次ぐ内乱なのだそうだ。そんなことをしていたら一向宗の良い餌食になるだろうに。上杉に潰されるのが早いか、それとも一向宗に襲われるが早いか。
人がどんどんと売られていく。俺はそれを黙ってみていた。人取りに遭った少年たちを買い漁り、鍛え育て上げ、近衛にするのも悪くはない。根からの武士を育てられるだろう。
それを行えば子ども達の救済になるだろうか。そんなことを考えていた。小さな偽善である。己の私欲に塗れた偽善だ。それでも、だとしてもやらないよりはマシというものである。
「俺にも人を売ってくれ」
思い切って商人に声を掛けた。俺が餓鬼過ぎて相手にされないかと思ったがそんなことはなかった。それは俺の身なりと控えていた伝左のお陰だろう。
それどころか奥から偉い人が出てきたくらいだ。それもそうか。いかにもお偉いさんの子だという服装振舞いなのだから。
「お待たせいたしました。私が荒浜屋の宗九郎と申しまする。以後、御頼み申し上げまするぞ」
「俺は武田孫犬丸である。よろしくお頼み申す」
そう名乗ると細かった宗九郎が目を見開いた。しかし、それも一瞬で直ぐにまた細目に戻った。そして笑顔を浮かべこちらに近づいてくる。
「これはこれは武田の若殿様ではございませぬか。ささ、どうぞ此方へ。本日は活きの良い者が多数仕入れられておりますぞ」
宗九郎が俺を連れ回す。その俺のすぐ後ろには常に伝左が控えていた。だが、この宗九郎という男は胡散臭いが暗愚ではないとみえる。俺に危害を加えるようなことはしないだろう。
散々連れ回した挙句、宗九郎は俺に一人の少女を薦めてきた。年のころは五つか六つほどで俺よりも少し年上であった。凛としており、育ちの良さがこちらにも伝わってくる。
しかし、よくよく見ると身体が小刻みに震えているのがわかる。然もありなん。捕らえられ売り飛ばされて不安に思わない方がおかしい。
綺麗な二重の目を悲しげに伏せ、真っ直ぐで通った鼻筋、すらりと伸びた手足が魅力的な少女であった。しかし、この時代の美人感からは離れているなと思った。俺にはとても魅力的な少女に映って見えたのだ。
「この娘は河野藤兵衛の娘でしてな。昨年末に始まった大槻一宮の合戦に敗れ一族郎党悉く討ち取られて、唯一の生き残りにございますれば」
河野藤兵衛とは誰かと尋ねると畠山義続の家臣で名を河野藤兵衛尉続秀という。羽咋郡堀松城の城主で畠山七人衆ではないがそれなりの勢力を誇ったというのだ。
大槻一宮の合戦では遊佐続光勢に属したが、続光が続秀を見捨て加賀国に逃亡したため、一族が滅んだというのだ。なんとも不憫な娘だ。
「よし、買おう」
「えぇっ! 若様!?」
「ありがとうございます。流石は若殿様だ。話が早い」
提示された金額は三貫だ。俺はそれを承諾し、伝左に支払わせる。それくらいの金額であれば伝左でも持っているのだ。返済は……出世払いで頼む。
瘦せ細り、髪や肌の艶が失われた少女が引き渡される。俺は彼女の縄を解いた。そして改めて彼女に向き合い、名乗る。
「武田孫犬丸だ。名を何と申す」
「河野文と申しまする」
「そうか、文か。良い名だ。俺は其方を側女にする。まずは身体を休めて励め」
側女。つまり、俺の側近くに仕える女性として俺に仕えるのだ。一から育てるよりも教養のある少女を買った方が早いし、何よりしがらみがない。
この立場になると誰を小姓に取り立てるか、近習に取り立てるかも気苦労を使う。妬み辛みはいつの時代でもあるものなのである。
「俺の傍を離れるでないぞ?」
「……かしこまりました。不束者ではございますが、宜しくお頼み申し上げまする」
何故か文は頬を赤らめてそう頭を下げた。そして、俺が文を買ったことが母上にバレて大目玉を食らったのは言うまでもない。伝左、そこは庇ってくれよ。
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