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手を噛む飼い犬

永禄三年(一五六〇年)五月 近江国 観音寺城 六角右衛門督義治


 観音寺城では諸将が集まり、評定を行っていた。今回も恙無く終わるかと思いきや、蒲生下野がこう述べる。


「肥田城はこのまま放っておくので?」


 その言葉に同意を示すのは後藤、進藤、目賀田だ。どうやら根回しをしていたようだ。我も彼らの意見には同意である。肥田は我らを裏切ったのだ。相応の報いを与えねばならん。


 そして何よりも浅井よ。生意気にも平井の娘を送り返し、我らからの恩を仇で返してきおった。これは許される行為ではない。思い出しただけでも腹が立つ。そう思うと、勝手に口が開いていた。


「左様でございますぞ、父上。このまま浅井を野放しにしておくわけにもいきますまい」

「次月からは農閑期にございます。兵を集めれば二万は集まりましょう」


 楢崎壱岐守がそう述べた。場の雰囲気は戦に流れつつある。昨年、肥田城を落としきれなかった心残りを今年に晴らそうと躍起になっているのだ。


 我も六角の跡取りとして浅井は見過ごせない。何ならば我が根伐りにしてやろうぞ。このまま浅井を放置すれば、そのまま独立されてしまう。それだけは何としてでも避けて見せる。


「しかしのぅ、浅井の後ろには朝倉がおる。三好も河内、大和まで迫っておるのだ。どちらも相手にするのは骨が折れるぞ」


 父上が仰ることは尤もである。しかし、なればこそ浅井を討ち取るべきなのだ。三好が山城、伊賀を押さえたらば次は近江である。この近江に近づく前に浅井を叩くべきなのだ!


「何を仰られますか! 浅井を叩くならば今しかありませぬぞ! 三好に対抗するためにも今のうちに近江を固めるべきにございます!」

「然り! 然り!」


 我がそう発言すると田中治部大輔をはじめ家臣たちが同調した。そのままの勢いで高島郡も占領し北近江を全て手中に収めるのである。


「……貴殿らの気持ち、ようわかった。ならば出陣致そう! 七月に肥田城を攻める。各々方、抜かりなく」

「応っ!」


 我も声を張り上げる。こうして評定はお開きとなった。しかし、父上は何を不安視しているのだと言うのか。父上を捕まえ、それとなく問いただす。


「父上、父上は何を不安がられているのでしょうや?」

「不安? この儂がか?」

「左様にございます。浅井如き、一捻りにしてくれましょうぞ!」


 息巻いて父上に詰め寄る。しかし父は我など意に介さず、歩き去って行ってしまった。それを追いかけ父の言葉を待った。


「何を勘違いしているのか知らんが、儂は浅井を許しておらんぞ。浅井如き、我らが手を下すまでもないと思っているくらいだ。しかし、朝廷は即位の礼を行ったばかり。浅井と朝廷を天秤にかけておったのよ」


 確かに父上の仰る通りである。即位の礼という目出度い式があったにもかかわらず戦に明け暮れていては帝は良い顔をしない。我ももっと広い視野を持たねば。


「朽木と高島、それから若狭の武田にも声を掛けよ。もし参陣しない場合は……わかるな?」


 それを口実に攻め込む気だろうか。浅井に味方したと。どうやら父上は本気で近江を統一しようとしているらしい。我は身震いする。


「そろそろ海が欲しいのぅ。淡海だけでは物足りぬ。そうは思わぬか?」

「思いまする。海が欲しゅうございます」

「北か南か。どちらにしても我が手中に収めて見せようぞ」


 父が嗤う。父につられて我も嗤った。我らの、我の野望は未だ始まったばかりである。

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