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自前の家臣団を

永禄二年(一五五九年)十月 若狭国 後瀬山城 武田氏館


 妙な男がやって来た。それも二人。


 片方は二十歳で切れ長の目をした怜悧な男であった。着物を着崩している傾奇者。体躯は六尺はある筋骨隆々の大男だ。威圧感が半端ではない。


 しかし、その男の傍に侍る女性が常に笑みを浮かべて彼の服の裾を摘まんでいるものだから、怖さも半減するというものであった。


 もう一人の男は十五、六で元服したばかりなのだろう。少しぷっくりして目を赤くしている。そして妹だろうか。二歳、三歳の幼い少女を連れている。見るからに苦労してきた良い兄という、優しい雰囲気を醸し出していた。


 どちらも源四郎の伝手で俺のところまで流れてきた。そして仕官を望んでいるらしい。とりあえず、話を聞いてみることにする。まずは名前からだ。


「其の方ら、名を何と申す」

「前田又左衛門利家だ」

「拙者は山内伊右衛門一豊と申します。どうぞ、よろしくお願い申し上げまする」

「あい分かった。両人とも私の直臣として召し抱えよう」

「おっ、本当か!!」

「なんと!?」


 そう告げると二人とも拍子抜けしたような表情をしていた。どうやら予想していなかった展開のようだ。


 しかし、前田利家と山内一豊って。そりゃ、雇うでしょ。どちらも某大河で主役を張った武将だぞ。


 となると、利家の傍に居る女性がまつ。一豊の傍に居る女性が千代だろうか。しかし、何でまた彼らが尾張からわざわざ若狭まで流れてきたのだろうか。


 とりあえず、まつと千代には席を外してもらう。文が二人を別室に案内した。二人が居なくなったところで理由を尋ねる。


「織田の三郎様に仕えていたんだがよ。その三郎様が可愛がってた拾阿弥ってやつがおまつの簪を盗みやがった。んで、斬り殺してやったんだが、それで三郎様がカンカンよ。向こうの肩を持つってんならってことで飛び出した訳さ。仕官しようにも何処も門前払いでよ、流れ流れて此処に来た訳だ」


 あっけらかんと言い放つ又左。確かにそれが事実なら信長の贔屓が過ぎる。成る程、最初は他家に仕官しようとしたが、傾奇過ぎていて採用されず、仕方なく信長の許に戻ったということなのだろうか。奉公構が出ていたのだろうか。


 今は拾阿弥の出来事があったから信長に愛想を尽かしているのかもしれないが、苦楽を共にした主君だ。直ぐに情が湧くだろう。その前に俺に心酔させねば。厚遇で持てなそう。


 信長の奉公構を無視してしまうことになるが、こればかりは致し方ない。俺は名よりも実を取るぞ。


「拙者は仕えていた織田伊勢守様が織田上総介様に討たれたことにより、主家を無くし牢人の身となっておりました。こちらで仕官が出来ると伺い、千代と共に尋ねさせていただいた次第にございまする」


 対して伊右衛門は主君を失い、牢人になってしまったようだ。又左と違い、言葉に悲壮感と必死さが籠っている。誠実で信頼できそうな男という印象だ。しかし、後ろ盾がないため他家で仕官が叶わなかったのだろう。


「あい分かった。今の話を聞いたからと言って決断を変えたりはせん。又左も伊右衛門も我が許で励め。二人とも俺の直臣として召し抱えよう。又左は俺の馬廻りに命ず。伊右衛門は熊川城へ赴き、上野之助を助けてやって欲しい」


 そう言うと伊右衛門は頭を深く下げ、又左は呆けていた。まつに促され、頭を下げていたくらいである。

 俺は伊右衛門を上野之助に紹介するための文を認めることにした。しかし、笑いが止まらん。


 これで俺の許に段々と人材が集ってきた。十兵衛と上野之助を筆頭に傅役の伝左衛門。十兵衛の下に左馬助や伝五、伝左衛門の下には右衛門が控えている。上野之助の下には伊右衛門だ。


 そして俺の護衛として又左が控えており、小姓として尼子孫四郎が居る。うん、悪くはないぞ。

 俺は認めた書状を伊右衛門に手渡し、「何か困り事があれば直ぐに俺へ伝えよ」と説明してから伊右衛門と千代を送り出した。


 後から知ったことだが、前田利家にはやはり奉公構が出ていたようだ。だとしても無視して雇うつもりだ。今の織田であれば俺に構っている暇は無いはず。それまでに織田と肩を並べられるようになれば良いまでよ。


 そして入れ違いに入ってくる与左衛門。何処にでも居そうな普通の人過ぎて、逆に気が付きにくい。その与左衛門が俺の傍で跪き、こう呟いた。


「浅井の嫡男、猿夜叉丸が密かに軍備を進めているとの由」

「……それに呼応している将は居るか?」

「赤尾美作守、浅井玄蕃允の両名が早々に呼応しておりまする」


 ここまでは史実通り。それを三、四ヶ月で掴んでくるとは。黒川衆が優秀なのか、それとも推測通りに六角と繋がっており、そこから情報を得たのか。どちらにしても油断がならない。


 そして六角も同じ情報を掴んでいるだろう。配下の三雲から知らされているに違いない。となると、六角も動き出すはずである。


「あい分かった。早々の知らせ、頼もしく思うぞ」


 そう述べて与左衛門の肩を叩く。浅井の反六角の流れは止められないようだ。俺は現当主の浅井久政を意外と高く評価している。


 六角に臣従したのは北近江の領内を安定させ、地力をつける狙いがあったのだろう。南には名君と呼ばれた管領代の六角定頼、そして北の越前には朝倉金吾。まあ、宗滴公だ。


 どちらかに付かねば生き残れない状況だったのだ。朝倉と縁が出来ているとはいえ、浅井は両者の間に入ってしまっている。


 そして浅井久政は自分に武の才が無いことを自覚していたのだろう。それで朝倉にも六角にも従い、独立できるその日まで力を貯めることにしたのだ。


 これはどう考えても名君だ。まず、自分に武が無いことを自覚し、それを受け入れることが出来るだけで才があるというもの。一戦して滅ぼされる方が暗君よ。ほぅと溜息が出る。


 俺は、いや若狭武田は六角の味方をせねばならぬ。六角に赴いた時にそう約束してしまったし、そもそも当主である父の母、つまり俺の祖母が六角左京大夫の妹だ。請われれば無視は出来まい。


 浅井は近江国の北を支配しており、その石高は二十万石以上とも言われている。対して俺達は若狭国の八万石のみだ。二倍以上の石高差がある。しかも若狭の西は粟屋と逸見に占領されたままである。実際は更に少ない。怖いな。


「与左衛門。その知らせを十兵衛と上野之助にも知らせてくれ。備えよ、と」

「承知仕りました」


 軽く頭を下げてから立ち去る与左衛門。来年は大きな転換となる戦が幾つも起きるだろう。そろそろ、この戦国時代も最盛を迎えそうだ。


「若様、そう人をほいほいとお召し抱えになって如何なさるお積もりですか。銭は無限ではないのですよ」


 源太に窘められてしまう。それはわかっている。わかっているが前田利家と山内一豊を召し抱えないという選択は無いだろう。ああ、こうやって借銭し銭を消費していくのか……。


 秋風が吹く。もう年の瀬が迫っていた。どうしても俺の心は晴れなかった。又左はそれを不思議そうに見ているだけであった。


ー・ー・ー・ー・ー・ー・ー

【現在の状況】


武田孫犬丸 八歳(数え年)


家臣:熊谷直澄(伝左衛門)、沼田祐光(上野之助)、明智光秀(十兵衛)、市川信定(右衛門)、前田利家(又左衛門)、山内一豊(伊右衛門)、山県孫三郎?

陪臣:明智秀満(左馬助)、藤田行政(伝五)、祖父江勘左衛門、五藤為浄(吉兵衛)、村井長頼(長八郎)、高畠定吉(孫十郎)

小姓:尼子孫四郎

忍衆:黒川衆(黒川与四郎、黒川与左衛門)

装備:越中則重の脇差、修理亮盛光の太刀

地位:若狭武田家嫡男

領地:三方郡(二万石)

特産:椎茸(熊川産)、澄み酒(国吉産)

推奨:蘇造り、蕎麦造り、農地拡張、家畜(鶏、牛、兎)

兵数:300

前田利家って不憫ですよね。

笄斬りは明らかに拾阿弥が悪いのに浪人同然まで追いやられるなんて。


妻の父の形見を盗まれたら誰だって頭に来ますよ。

信長、この点だけは善悪の裏付けをしっかりとれてなかったなと。


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― 新着の感想 ―
[一言] 前田利家と山内一豊の士官でかなりご都合主義になったのでここでリタイアしますわ。忍び使って調略とかならまだ仕官する話としては有りだが、急に訪ねて来て士官したいとか、あまりにも荒唐無稽なんでご都…
[気になる点] いったん話し合いの場から離れた「まつ」がいつの間にか戻っている?
[一言] 拾阿弥は、信秀が愛智氏出身の側室に産ませた話があるそうなので、 もし、その話が事実であれば、親族を大事にした信長からしたら、異母弟を殺されてそう簡単に許さないのは、当然かと。
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