募る焦燥
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餓える紫狼の征服譚
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永禄十一年(一五六八年)四月 若狭国 後瀬山城 武田氏館
霞が妊娠した。そりゃ意図的に励んでいたら授かるものは授かる。特に俺は女性が妊娠しやすいタイミングを大まかに知っている。これを知っているのと知らないのとでは天と地の差があるのだ。
目出度いことである。男児でも女児でも元気な子を授かってくれればそれで良い。それと同時に子どもたちを良い家に嫁がせられるよう、努力しなくてはとも思う。
今、我ら武田は西の三村家親を攻めている。これは真田兄弟に任せてある。ただ、それ以上の西進は難しいだろう。何せ相手が毛利なのだから。元資の態度は腹立たしいことこの上ないが、二十年は我慢だ。
となると目を向けるべきは東か南になる。いや、北という選択肢も残っていた。隠岐の島である。石高にすれば一万石はあるだろう。体の良い厄介払いの先としては最高だ。
「御屋形様、来客にございます」
「ほう。誰だ?」
「大和の松永様と」
松永久秀が俺に会いに来たと。果たして何用だろうか。碌な用事では無いだろうが無下にするわけにもいかない。会うと小姓に告げる。
松永の元には三好の当主である三好義継も居る。三好関係か、それとも東から迫っている織田関係か。どちらにしても良い話だとは思えない。
「お待たせした。久しゅうござるな、松永殿」
「真に。弟と三人で火鉢を囲んでいたのが遠い昔のようにございまする」
あの頃は立場も逆だった。俺が遜る立場だったのだ。時代が変われば立場も変わるか。二人で向き合い、松永の用件を待つ。
「弟の長頼が討ち取られ申した」
「なっ!?」
突然の報告だった。三好の後押しを受けた荻野直正、波多野秀治との戦で敗れ、そのまま討ち死にしたらしい。それは俺にとって寝耳に水の報告であった。
「惜しい男を失ったな」
「儂には出来過ぎた弟で」
久秀の目には涙が浮かんでいた。本当に泣いているのか。それとも演技か。久秀であればこれくらいの演技くらいはしそうだ。弟の死すらも利用するだろう。
家督はそのまま息子の忠俊に移ったらしい。丹波が騒乱に見舞われるか。とはいえ、丹波は手強く、一筋縄では行かない印象がある。まだ手を出したくはない。さて、久秀は何を考えている。
「冥福は祈るが、それを伝えに来たわけではあるまい。本命の用件とやらを聞こう」
わざわざ死を知らせに久秀本人が来る必要はない。つまり、久秀が出張らなければならない何かを俺にお願いしようという腹なのだろう。食わせ物である。
「いやはや、お見通しにございますか。なに、そう身構えずとも。この老い耄れを織田殿に紹介いただきたく存じまする」
「ほう、織田殿を」
どうやら松永は三好を見限り、織田に与するようである。これは史実通りの動きと言えよう。松永も生き残りに必死なのだ。織田も畿内の大名を抱え込みたいと思っているはず。利害は一致しているのだ。
「別に俺を通さんでも織田殿は諸手を挙げて喜んでくれるだろうに」
「何を仰いますか。相手はあの織田様にございますぞ」
松永がそう言った。そう言われたら心に響くものがある。確かに相手はあの織田信長だ。何が起こるかはわからない。しかも、松永は遜る立場となるのだ。仲介人を欲する気持ちもわかる。わかるのだが。
「しかしなぁ」
俺も織田信長には近づきたくはない。特に今は近江に侵攻したくてウズウズしているはずだ。虎の尾を踏むような真似はしたくない。
「もちろんタダでとは申しませぬ。こちらを」
松永が差し出したのは一振りの日本刀。丁寧に白鞘に入っている。鞘には国行の文字。刀身を見ると不動明王の浮彫。非常に綺麗な刀だ。これは来国行の打刀ではないだろうか。
「どうか、仲立ちをお願いできませぬでしょうや」
「ま、まあ。松永殿がそこまで仰られるのであれば俺としても吝かではないというか……しかし、良いのか。三好を裏切る、捨てることになるのだぞ?」
「構いませぬ。儂にとっては修理大夫様が三好であり、全てなのでございます」
「そうか」
松永の心は三好長慶が死した時点で離れていたのかも知れん。それを知るのは本人のみだ。しかし、大和国が織田に与したとなると、伊勢も近江も辛い立場になるぞ。信長のものとなるのは時間の問題だ。
少し、信長を牽制した方が良いのかもしれない。このまま信長一強になるのは少し早過ぎる。信長にはせめて能登国を押さえてから大きくなって欲しい。このままだと今年中に畿内を制してしまうぞ。
「新吉は居るか」
「はっ、此処に」
「俺の名で織田殿、いや森三左衛門殿宛てに書を用意してくれ。内容は……そうだな。大和国の松永殿が織田殿の誼を通じたがっていると。良いように認めておいてくれ」
「かしこまりました」
新吉が下がる。
「これでよろしいかな」
「ありがとうございまする」
「では、それを我が小姓から受け取って欲しい」
「承知いたしました」
これにて松永久秀との会談を終える。久秀が退室した後、俺は曽根九郎左衛門尉虎盛を呼び出した。虎盛は小浜に居たらしく、直ぐに俺の元に来てくれた。
「お呼びでございますか?」
「ああ。ちょっと頼みごとがあってな。もっと近くに寄ってくれ」
じりじりと虎盛が近寄った。俺も彼に歩み寄り、にこりと笑いながら一言。甲斐に帰りたくはないかと尋ねた。いや、別に追放するつもりはない。
「は?」
「いやなに信玄公に言伝を頼みたくてな。我らは能登国に攻め込むと。上杉を共に牽制しますので、御随意に南下をと伝えて欲しいのだ」
「某が、でございますか」
「そうだ」
そう言うと虎盛が考え込み、それからこう言った。
「それであれば某では無い方が良いかと存じまする。某は表面上、甲斐を追放された身。御屋形様の心象を悪くしましょう」
「むぅ、そうか。であれば誰が良いと思う?」
「御屋形様が信を置いているお方がよろしいかと」
「そうか。ならば伝左衛門だな」
とはいえ伝左衛門だけを行かせるような可哀想なことはしない。虎盛にも伝左衛門に付いて行ってもらうことにした。表向きは伝左衛門の家臣ということにして。
「何をして欲しいかというとな、三河と駿河を荒らして欲しいのだ。三河は一向一揆が治まり、安定し始めている。そこを再び乱して欲しいのである」
織田としても背後が荒れていてはまともに動くことは出来ないだろう。松平だけで三河を押さえることは無理だ。史実よりも三河は荒廃している、いや俺が荒廃させたと言った方が正しいだろうか。
「承知しました」
こうして二人を甲斐信濃に送り出すと同時に織田にも使いを送る。三河に凶兆ありと。織田はそれを無視できないだろう。真実を上手く利用して織田の動きを鈍らせる。悪い話ではない。
このときはそう思っていた。そう、このときまでは。
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