直談判
【急募】書籍化する方法
どうやったら書籍化できるのかなぁ。人気が足りてないのかなぁ。歴史ジャンルはマイナーだから声が掛からないのか。
文章力が無いからか。売れないと思われているのか。人気作品のN番煎じと思われているのか。或いは、その全部か。
執筆する以上、書籍化を目指して頑張りたい。けどもコンテストには箸にも棒にも掛からぬ始末。悲しい。やはり地道にポイントを貯めていくしかないのだろうか。
妙案がある方が居ましたら、ご教示ください。ちょっと気分落ち込んでいます。孫犬丸のイラストを見てみたい。
永禄十一年(一五六八年)三月 伯耆国 高城城 山中鹿之助幸盛
今日も今日とて殿に直談判に参った。もう殿の近習は慣れたもので、某を見た瞬間に殿への取次を始めた。用件はただ一つ。尼子右衛門督様と共に毛利領へと攻め掛かりましょうぞと説得に参ったのである。
「なんだ鹿之助。今日も参ったのか。暇なやつだの」
「殿! 何を悠長なことを仰られておるのですか。積年の恨みを晴らす好機。我らも尼子右衛門督様と共に毛利へと攻め掛かりましょうぞ」
「ならん」
殿は此方を見るまでもなく政務に励みながら一蹴した。このやり取りも何度目だろうか。毎度、同じことを話しては同じ結末になっている。
「何故にございますか。殿は領地を広げようとお思いではござらぬのでしょうや」
「いや、そういうわけではない。だがな、この地から備後は遠かろう?」
確かに高城城から備後国は遠い。備中国であれば近いが、備中は伊豆守様が狙っていると聞く。迂闊に手を出して良い場所ではない。だが、手を出していけないと言われてるわけではないのだ。
「殿は伊豆守様に遠慮なされておるので?」
「そうだなぁ。伊豆守様は某を救って育ててくれたお方だ。十兵衛殿にも恩義がある。我を捨てた尼子よりも伊豆守様の方がよっぽど親身であった」
そう言われると返す言葉がない。確かに尼子は殿を棄てた。殿が尼子に不信感を抱くのは何もおかしいことではない。だが、それとこれとは話が別である。
尼子は落ち目で家も二つに割れている。殿の式部少輔家と本家の右衛門督家だ。失礼ではあるが本家の右衛門督様よりも我が殿の方が聡明に思う。育ちが異なるからであろう。
やはり武田伊豆守様の小姓として、幼き頃からその薫陶を受けて育ったからだろうか。右衛門督様は理想高く、やる気に満ち溢れているところは好感が持てる。
「それにな。右衛門督殿と轡を並べて戦ったところで我らに益は無い。せいぜいお褒めの感状を貰って終いだ。そんなことのために大事な民百姓を戦場に送れるわけがなかろう」
実がなければ駄目だ。その一点張りである。民を一番に思う我が殿らしいと言えばらしいのだが。ならば実があれば良いのだ。某は殿に対し、こう提案する。
「では、我らで毛利の備後の土地を奪い、その土地と備中の伯耆の土地とを伊豆守様に交換してもらえば良いのでは?」
いやはや我ながら名案である。自画自賛していた。しかし、殿は渋い顔をしていた。そして溜息を吐きながら某にこう伝えた。
「毛利から奪い取った、安定していない、奪い返されるかもしれぬ土地と安定して運営できる領地を交換しろと?」
確かにそう言われると交換に応じてくれない気がしてきた。これでは八方塞がりではないか。どうにか打開策を考えなければ。
やはり伊豆守様を頼りにしようか。伊豆守様の言うことであれば殿は素直に言うことを聞く。だが、伊豆守様を動かすのも大変だ。その前に、目通りできるかどうかも怪しい。
高城城に移って骨身に染みる。領地を営むということ。危ない橋は渡れない。諦めるしかないのか。いや、いっそのことだ。某とその手勢だけでも――。
「とはいえだ。ずっと鹿之助の意見を否定して勝手に動かれても困る。昔の我のようにな。そろそろ重い腰を上げるとするか」
「おおっ!」
殿がそう言って立ち上がった。どうやら某の願いが通じたようだ。やはり人を動かすは人。想い。熱である。某の熱き想いが殿を動かしたのだ!
「鹿之助は宇山飛騨守とそれぞれ五百の兵を率いて備後を荒らして参れ。我は右衛門督殿の元へ向かう。切り取った領地を交換してもらえぬか交渉して来よう」
「承知仕り申した」
「良いか。落とすのであれば一村一村丁寧に扱うのだ。逸っても広い領地を得ようなどと考えるな。恵蘇郡か奴可郡の一部でも切り取れたらば御の字と思え」
「ははっ!」
毛利など恐れるに足らず。正義は我にあり。とはいえ、殿の申し付けに逆らうわけにはいかぬ。まずは尼子右衛門督様が討ち漏らした村の占領から始めるとしようか。
いかんいかん。宇山殿と出撃せよとのお達した。宇山殿にも話を通さねば。これは忙しくなってきたぞ!
◇ ◇ ◇
永禄十一年(一五六八年)三月 出雲国 松江城 尼子右衛門督義久
「久しいな、式部少輔。いつぶりだろうか」
「はて。我も忘れましたな」
狭い部屋にて三人。某と近習であり弟の八郎四郎。そして式部少輔の三人である。つまり、この場には尼子しか居ない訳だ。親族だというのに空気が重たい。式部少輔はにこりともせなんだ。
「して、本日は何用だ?」
「はっ、我らも毛利の戦に加わりとうございまする」
「ほう! ようやくか!」
膝を打った。ようやく式部少輔がその重い腰を上げたのだ。喜ばぬわけがない。今、我らは毛利と一進一退の攻防を繰り広げている。
そこに有能な将と多数の兵が加わるのだ。有り難いことである。毛利は児玉三郎右衛門元良を大将に据えて五千の兵で我らの元へとやってきた。
ま、先に手を出したのは我ら尼子だ。七千の兵で恵蘇郡に手を出したのは我らよ。地の利は毛利にある。攻略に難儀していたのは事実だ。今は猫の手でも借りたいところなのである。
「そこで、お願いがあり馳せ参じた次第にございます」
「なんだ。申してみよ」
「我らが奪った土地をそのまま献上いたしますので、代わりに恩賞として伯耆の土地を頂きたく」
確かに備後に領地を持っても飛び地となってしまう。運営が大変になるのか。応じてやる義理はないが、変えてやらねば毛利に奪い返されても癪だ。淡々と足元を見てくる男よ。
「わかった。応じてやろう。だが、恩賞の土地はこちらにて選ばせてもらうぞ」
「構いませぬ」
「ならば話は早い。早速、参陣してくれるな?」
「山中と宇山が動いておりまする」
「そうか。こちらからも伝えておこう」
「よろしくお願い申し上げまする」
式部少輔が低頭した。お伺いを立ててくるとは愛い奴である。一時は不仲になったとはいえ、こうして本家を尊重する姿勢、悪くはないぞ。
「良きに計らえ」
「ははっ」
こうして、尼子は一致団結して、一枚岩となって毛利に当たるのであった。
ストックが切れたので、連続更新が止まります。
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