父母それぞれの愛
若狭国 後瀬山城 武田氏館 武田義統
孫犬丸を見送って再び幸に膝枕をしてもらう。幸は心配そうに孫犬丸を眺めていた。まだ五歳の幼子ではあるが、何がどうなったのか、妙に大人びている子である。
「彼奴がそんなに心配か?」
「ええ。御屋形様が心配しなさ過ぎなのです。未だ五歳なのですよ。だというのに越前へふらふら、朽木谷へふらふら、近江へふらふらと送って……あぁ」
「ただの五歳が一人で公方様に挨拶に向かうものか。彼奴は神童よ。ふふふ、鷹を生みおって。将来が楽しみで仕方がないわ」
しかし、父を取り戻しに行くか。儂は父が軍を率いて攻め込んでくるのであれば、返り討ちにしてやろうと画策していたが、どうやら彼奴はそれを望んでおらぬらしい。一丁前に若狭全体を考えての行動であろうな。
「だがまぁ……其方が心配ならば義兄上にでも話を通しておくが良い」
まあ、そんなことをせずとも残るは若西の大飯郡のみである。ただ、砕導山城が厄介だな。あの堅城が相手ではいくら兵数で優っていても分が悪い。力攻めだけでは落とすこと叶わぬだろう。
孫犬丸は其処に父が後詰めに向かうことを嫌ったとみる。ふふふ、どこまでも孝行息子よ。儂は笑みを浮かべながら起き上がった。これでまた一つ、若狭が強くなれるわ。
「さて、儂もそろそろ動くとするか。このままだと孫犬丸に尻を叩かれてしまうわ。誰か居るか!」
「はっ」
「内藤と松宮を呼べ。ああ、それから右衛門佐も呼んでくれ」
「ははっ」
さて、若狭の国主が誰であるか逸見に分からせてやらねばならぬ。逸見と粟屋を失うのは辛いが、我が方には内藤と松宮の他に武藤と熊谷と白井がおる。
市川と一宮は孫犬丸とその配下の明智がまとめてくれた。一門衆が弱ったところに明智が訪ねて来れたるは僥倖であった。叔母上の子ならば重用することも出来よう。
それから松宮の話によるとどうやら孫犬丸が沼田を配下にとせがんできたらしいな。沼田も最近、羽振りが良くなったと聞く。恐らく孫犬丸と企てて銭儲けしているのだろう。武士だというのに、である。
その明智も酒造りをしているらしい。どうやら酒で一儲けするつもりのようだ。国吉は敦賀に近く、銭儲けにはもってこいの場所だ。更には沼田と画策して街道の整備も行っているとか。
ふふふ、そう聞くと孫犬丸の非凡さがよう分かる。儂が五歳の頃など、ただ木刀を無闇矢鱈と振り回していた記憶しか無いわ。しかし、銭か。儂も銭が無くて困っておる。借銭している程に。
しかし、武士が銭儲けなど言語道断である。その辺りは孫犬丸によく言って聞かせねばならぬ。欲しいものがあるのならば自分の力で領地を奪い取って稼げと。それが武士だと。誇り高く生きろと。
幸いなことに伝手ならば幾らでもある。足利、六角、隣の朝倉に細川。どれも縁戚だ。銭など何処からでも借りることができるというもの。
いや、必要ならば税を上げれば良いのだ。甲斐の武田も頻繁に税を上げていると聞く。税を上げ、戦に勝ち、そして民に還元すれば良いのだ。孫犬丸はそれを理解しておらん。
甲斐の武田を見習って空き家に税をかけるのも良いな。いや、関所を増やしても良いかもしれん。まだまだ稼ぐ方法は幾らでもあるというもの。
百姓からもう少し搾り取るとするか。あ奴らは儂等のために米をこさえておるのよ。孫犬丸はそれを理解しておらん。
しかしもし、若狭を渡すことが出来るならば最良な形で若狭を孫犬丸に譲ってやりたい。そのためにも禍根となる逸見と粟屋は儂が斬らねばならぬ。そして一族、家臣の反乱の芽を摘むのだ。
さて、砕導山城を落とす謀を始めようか。孫犬丸の存在が儂にも良い影響を与える。思わず口元から笑みが零れ落ちた。
儂は呼び出した家臣達が到着するのを今や遅しと待つのであった。
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