大花火
ユニコーンオーバーロードが面白くて更新できませんでした。
ごめんなさい。
永禄十一年(一五六八年)二月 因幡国 鳥取城 明智十兵衛光秀
御屋形様から早馬が届いた。と言っても手紙ではない。錦の御旗と御屋形様の愛刀である来国光が届いただけである。つまりは、そういうことだ。三村攻めを開始するという御屋形様のご意思であろう。
となると、某が行うのはこの来国光を持って三村家親の首を奪いに行くのみ。豪勢な拵えの来国光を腰に下げ、兵を集める令を発した。
今回、某が動かすのは若狭武田の西に居る家臣と国衆だ。逸見駿河守虎清、白井石見守光胤、市川山城守定照、一宮壱岐守賢成、山内伊右衛門一豊、前田又左衛門利家、石川左衛門尉秀門、矢野弥三郎政秀、長坂源五郎昌国、宇喜多和泉守直家、草刈三郎左衛門尉景継、南条宗勝入道、黒田官兵衛孝高、一色越前守義清らが参戦する。
これもほんの一部だ。侍大将格、足軽大将格まで挙げていたらキリがないだろう。それだけの大遠征になるということである。
食糧は津山城に運び込まれている。後は兵を整え、粛々と西に向かうだけだ。こちらに正義があるのだ。不意打ちをするよりも錦の御旗を掲げて進行した方が良い。
問題は毛利がどう出るかである。流石に三村を切り捨てるだろう。あの毛利が心中するとは思えない。これは手紙を出すべきだろうか。
某が悩んでいるところに又左衛門が到着した。兵が多い。千や二千ではない。五千の兵を率いている。何事かと尋ねたらば、後瀬山城から来たと宣う始末。
「御屋形様より五千の兵を預かって参りましてございます」
又左衛門がそう言う。なんというか口調が改まっていて背中に寒気が走る。しかし、粗雑だった頃よりははるかに好感が持てる。
「相わかった。又左衛門殿は自城に戻り、まずは三村家親に降伏を促していただきたい。その後、兵を率いて我らに合流いただきたい」
「委細承知仕り申した」
礼をして去っていく。人は変われば変わるものなのだなと思う。又左衛門から御屋形様が毛利と尼子、大内と大友に手紙を送ったことを聞いた。それならば某は兵を進めるだけである。
津山城まで前進し、交渉の結果を待つ。津山城には続々と兵が集まってくる。まだ体勢の整っていない三村家親など、一捻りである。
しかし、だからこそ気を付けなければならない。備中を治めるのは我らになるのだ。領民を粗略に扱って反感を買うような真似だけはしたくない。
まずは降伏を促す。降伏が受け入れられなかった場合、三村家親だけを速やかに討ち取る。そうすれば備中の領内は荒れずに済む。毛利からの介入もなく、みんながめでたしで終わる結末だ。
「言うは易し、行うは難しだな」
ほぅと溜息を吐く。ただ、じっと降伏勧告の結果を待つのは性に合わないので備中領内に噂を流すことにした。三村家親が朝敵になったと。これは噂ではなく事実である。
さらに尼子と武田が攻めて来て毛利も攻め込んでくる勢いだと。備中に未来は無いと噂を流すのである。逃散を促すのだ。念には念を入れる。今度こそ必ず三村を攻め落として見せる。
皆が固唾を飲んで見守る中、又左衛門が戻ってきた。交渉の結果は否である。自分でこれだけの大軍を率いる日が来るとは。高揚感を覚える。いずれ、某も……。さあ、根伐りの始まりだ。
◇ ◇ ◇
永禄十一年(一五六八年)二月 備中国 備中松山城 三村家親
困ったことになった。若狭武田に払う米が無い。この和睦の条件を甘く見ていた。支払う米が倍になっても精々は一万石か二万石だと思っていた。まさかこんなに増えるとは。
何とかせねばならん。武田に泣きついても無駄だろう。逆に領地を明け渡せと迫られるに違いない。これは隠し通さなければ。
では、どうやって隠し通すか。公方と朝廷にだけは支払い続ける。それから知らぬ存ぜぬを貫き通せば良い。そう思っていた。だが、その手は食わぬとあっさりと武田に露見してしまった。
どうするどうする。毛利に泣きつくか。備中を毛利に明け渡し、毛利家中の一将として生きるほか無いのだろうか。こんなことなら武田に膝をついて、領地を安堵してもらえば良かった。
しかし、もう振ってしまった賽の目は変えることが出来ない。息子も失ってしまった。もう武田に屈する未来はない。急ぎ、小早川殿に目通り願う。
それもけんもほろろに断られてしまう。小早川殿は病とのことである。どうせ断るための方便だろう。儂に会うことが不利益なのだと言わんばかりの態度。鼻に付く。
「三村様、こちらへ」
いつの間にか小僧が傍にいた。その小僧の案内に従った先にある寺の一室に居たのは福原左近允であった。しかし、その福原も厳しい顔をしている。
「大変なことになりましたな」
開口一番、福原左近允が言う。儂はどっかと福原殿の前に座り、差し出された白湯を飲む。真に大変なことになってしまったものよ。
「なんとか毛利様の庇護下に――」
「それなのですがな。三村殿、其方は朝敵となられましたぞ」
「は?」
え、な、わ、儂が朝敵だと。喉が渇く。白湯の椀を持つ手が震える。ごくりと喉がなった。その音が、とても響いたように聞こえた。
「何を、馬鹿な――」
「武田に先手を打たれたようですな。朝廷と公方だけではござらぬ。尼子、大内、大友、そして我らに武田から書状が届いておる」
書状には三村が朝敵となった故、帝に代わって成敗する旨が記されていた。毛利は三村に付くか武田に付くか返書を認めて欲しい。そう記されているらしい。
「すまんが、こうなっては三村殿に合力することは出来ん。小早川様も会わぬと仰せだ」
「ならば我らを毛利家の末席に――」
「ならんならん。其方たちは朝敵となっておるのだ。まずは朝廷にその赦免を申し出よ」
朝廷に赦免を申し出ている時間はない。もう武田は目と鼻の先まで来ているのだ。降伏か徹底抗戦か。降伏しても儂は殺されるだろう。ならば徹底抗戦した方が良いのではないか。そう思ってしまう。
「悪いことは言わん。お逃げなされ」
福原左近允が言う。ほとぼりが冷めるまで一族総出で逃げろと言うのだ。東や北には逃げられぬが西であれば逃げられる。そう言いたいのだろう。
「領内の統治も上手くいっておらんのだろう。聞くところによると逃散も続いておるというではないか。支払のため、米を無理に納めさせていたのではないか?」
「そのようなことはござらぬ!」
思わず大声を出して立ち上がる。白湯がこぼれる。儂はそのようなことは断じてしておらぬ。もし、そのようなことをしておれば、もっと米を支払えていただろう。
領民が安心して米をつくれる。それが国の基盤なのだ。それを疎かにすれば国に成長はない。だというのに、儂が領民に重税を課していたと申すか。
「毛利殿の意向は理解し申した。白湯、馳走になった」
「三村殿、暫く――」
福原左近允が儂を止めようとするが、無視して帰路に就く。儂が重税を課しているなど、どこの悪い噂であろうか。そのような噂に踊らされる毛利も毛利よ。
そっちがその気ならば、儂にも考えがある。武田も毛利も今に見ておれ。
儂が備中松山城に戻ると上を下への大騒ぎであった。どうやら性懲りも無くまた武田が軍備を進めているらしい。既に国境沿いに兵を集めているという。
「殿、武田より使いの者が参っておりますれば」
「会おう。通してくれ」
自室に寄ってあるものを持ってから若狭の武田からの使者に会う。彼らが言うことはわかっている。約定に基づき領地を明け渡せ。そう言ってくるのだろう。だったら儂はこう返すのみ。
「断る。儂の背後には毛利が居る。其方たちなど怖くも何ともないわっ!」
そう言って取っておいた毛利との書類の数々を武田からやってきた使者にぶつけた。さあ、これで毛利もこの戦からは逃れられまい。
進むも地獄、退くも地獄なのであれば大勢の人間を地獄に引きずり込んでやる。先に地獄で待っているぞ。毛利、小早川、そして武田よ。
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