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仁義を通す

若狭国 三方郡 膳部山城


「これは孫犬丸様。ご無沙汰しており申す。本日はどのようなご用向きで?」


 俺は今日、松宮清長を尋ねて膳部山城まで来ていた。熊川の北西にある膳部山の上に築城された城だ。松宮清長はこの城を居城としていた。


 訪ねた理由は熊川の沼田氏についてである。今、彼らは松宮氏に仕えているという形になっている。それを俺が召し抱えたいと思っているので筋を通しに来たのだ。


 松宮清長は齢三十半ばといったところだろうか。まだまだ血気盛んと言った髭面の強面な男性であった。しかし、目はどことなく笑っているように思える。


「うむ、他でもない。沼田家についてである。それをだな、その、俺が召し抱えたいのだ。勿論、俺が勝手なことを言っているのは重々承知している。今日はその落としどころを見つけたく伺った次第だ」


 胸襟を開いて本音を明かす。ここで噓を吐いても今後の関係に亀裂が入るだけだ。それならば真正面から向かっている方が得策と考えたのである。


「何を仰られますか。一言、譲れとお命じ下されば喜んで沼田家をお渡ししましょう」

「何を申すか。いくら国主の息子と言えど、そのような勝手な振る舞いが許される訳も無し。筋は通すぞ」


 そう述べると松宮清長は意外そうな顔をした。俺、そんな傍若無人な癇癪持ちだと思われていたのだろうか。それはそれで傷つく。事実、内心では凹んでいた。


「いやはや、噂に違わぬ非凡な子にございますな。某に異論はございませぬ。どうぞ、沼田を良く用いてやって下さい」

「待て待て。それだと俺の気が済まぬ。其方から取り上げただけではないか。沼田家同様、俺は松宮家も頼りにしているのだ。このようなことで其方の信を失いたくはない」


 せっかく協力して若狭を治めているのだ。対立せず協調できるのであればするに越したことはない。これは俺の我侭なのだ。松宮は従う道理などないというのに。


「何を仰いますか。某は若様を信じており申す。なので、若様の言葉を言葉通り受け取らせていただいておりまする」


 松宮清長を真っ直ぐ見る。どうやら心の底からそう思ってくれるようだ。俺は松宮に対し感謝しかない。これについては必ず恩を返す。絶対に忘れない。


「若様が行っていることは間違いではございません。沼田が栄えているのも若様が何か梃入れしたからにございましょう。気に病むのであれば、某をもっと優遇して下されば良い。なに、今すぐにとは申しませぬ。若様がこの武田家をお継ぎになった時を楽しみにしており申す」


 そう言って頭を下げる清長。俺は涙を目に溜めながら清長の頭を上げさせる。そして彼の前で堂々とこう宣言した。


「あい分かった。必ずや其方に良い思いをさせてやる。少しの間だけ辛抱して欲しい」

「承知いたしました。それでは楽しみにお待ちしており申す」


 清長はそう言って笑ったのであった。それを聞いて俺は膳部山城を後にする。これで正式に若狭の東側を固めることが出来た。明智を始め一宮、市川、沼田、松宮、山県。必要なところは一通り押さえた。


 明智がおよそ三千石。松宮と熊谷も二千石はあるだろう。それから一宮と市川と山県が千石ずつ。そして沼田が五百石だ。そして残りが粟屋から接収した分も含めた若狭武田の直轄領である。


 少し明智を優遇し過ぎだろうか。そこは一門格の待遇であることを周知しなければならない。十兵衛は俺の又従妹にあたるのだから。いや、違うな。十兵衛に子が生まれたらそうなるのか。


 取り合えず、これで無理をすれば八百名の兵を動員することができるだろう。あくまでも無理をすればだが。本来はせいぜい四、五百が関の山だろう。


 それでも四、五百を集めることができる。これは大きな前進である。それもこれも皆が俺を信じてくれているからに過ぎない。こればかりは裏切っては駄目だ。


 まずは殖産に励まねば。今の時代、銭を持っている者が強者なのだ。それは歴史が証明している。そして、俺はそれを知っているのだ。これは強みになる。


 問題はその強みをどう生かしていくか、である。港を抑えているとはいえ、俺が直接抑えている訳でもなく、また、すぐ東には敦賀の港があるのだ。楽観視はできない。


 気持ちを新たに、俺は信じてくれた者達にどう恩返しができるのかを頭を捻って考えるのであった。

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