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国衆の悲哀

 永禄十年(一五六七年)四月 因幡国 打吹城 武田三河守高信


 儂は長男の又太郎、次男の与十郎、三男の徳充丸を呼び出した。さて、これから我ら武田が生き延びるにはどのように振舞うべきか。頭を悩ませる。


 東に武田、西に毛利という大国がある。どちらも今の儂では敵わぬ大国よ。逆らえばあっという間に圧し潰されるであろうな。


「お呼びでございますか」

「……ああ」


 又太郎の問いに生返事で答える。果たして儂はどうするべきなのか。答えが出ない。しかし、このまま黙っているわけにもいかない。判断するための材料が少なすぎる。


「其方たちに頼みたいことがある」

「何なりと」


 何も福原左近允の言葉を鵜吞みにしているわけではない。こんな世である。信じられるのは一族くらいだろう。情報は自分で奪いに行かなければならぬのだ。


「又太郎、其方は武田右衛門佐殿の所へ参れ。豆州殿と尼子の関係に探りを入れるのだ」

「ははっ」


 まずは福原左近允の発言の裏付けを取りに行く。福原左近允が嘘を吐き、儂と豆州殿の仲を裂こうと考えているのやもしれぬ。盟を結んでいるからとて油断はならぬのだ。


 ここの情報が誤っていたら危うい。毛利が我らを陥れようとしている証左となるであろう。そうなれば、我らは領地を広げる先を持てなくなってしまう。本当であってほしい。


「与十郎は戦の準備を」

「ははっ」


 だが、もし福原左近允の言葉が本当だった場合、すぐに事を起こせるよう支度はしておく。この支度をしなければ福原左近允の言葉を疑ったと毛利からあらぬ疑いをかけられても堪ったものではない。


「徳充丸。其方は毛利へ向かう支度をせよ」

「……はい」


 もし、万が一豆州殿と毛利とが戦になった場合、我らはどちらに着くか考えねばならん。このまま豆州殿のお味方をするか、それとも毛利に鞍替えするか。


 豆州殿が身持ちを崩し、毛利の勢いが盛んになる可能性もある。そうなった場合のことも考えなければならないのだ。


 毛利に鞍替えするのであれば伝手が必要になる。そのためにも徳充丸を毛利に送っておくことには意味がある。人質の提案は渡りに船なのだ。そもそも断ることなど、できぬ。


 徳充丸の身体が小刻みに震えていた。


 こ奴も事の重大さを理解しているのだろう。もし、毛利と戦になれば徳充丸は殺されるだろう。儂らが生き残るか。それとも徳充丸が生き残るかの二つに一つなのである。


 恨むならば恨んでくれて構わない。父としては不甲斐なく思う。しかし、そうせねばならぬのだ。因幡の半分を治めたとて、この様よ。


「抜かりなく頼むぞ」

「「ははっ」」


 ◇ ◇ ◇


 それから後、最初に我が元を訪ねてきたのは嫡男の又太郎であった。武田右衛門佐と首尾良く会うことが出来たようである。報告を聞くことにした。


「如何であった?」

「確かに豆州様と尼子右衛門督は仲違いをしている様子に」

「ふむ。そうか」


 福原左近允の言葉は事実であったか。つまり、儂はこれから戦をせねばならぬ。戦をせなんだら、毛利から非難の声が届き、豆州から痛くもない腹を探られるであろう。


 儂が採れる道はそう多くはない。影響力を強めるためにも尼子を喰らう必要がある。豆州殿も毛利もそうやって大きくなってきたのだ。儂も大きくならなければ、舐められ侮られる。


「又太郎、其方は福原左近允殿の元へ赴き尼子攻めの連携を強めて参れ」

「かしこまりましてございます、父上」


 にやりと笑う又太郎。馬鹿め。そのような楽しい戦ではないわ。豆州と毛利と。両方の機嫌を伺ながら身代を大きくする。そう容易いことではない。


「ふぅ」


 口から洩れるのは溜息ばかりであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] おお、旧作よりも描写が丁寧になっている 山内伊右衛門が、輝信と尼子孫四郎の兄弟の様な仲の良さを知っているから、武田三河守謀反の判断に繋がるし、後世にも三男徳充丸のみ生き残って山名ではなく武田…
[一言] ちゃんと裏取りはしてるけどし切れてねえ!w 情報化社会じゃないし、人伝にふわっと聞くしかないもんな。本当のことに嘘を混ぜた毛利方が上手ですね。
[良い点] ここで改変というか内情が追加された事で少し先の展開に影響したかな……
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