孫犬丸の戦
「まずはこの城を十兵衛の物と認めてもらわねばな。何なら俺も此処に移り住もう」
「孫犬丸様も、でございますでしょうか」
「ああ。父上が認めてくれなければ力技も止む無しよ。もちろん、政に口出しはせん。国吉の周辺は十兵衛が取り仕切ってくれ」
「ははっ」
さて、祖父と粟屋越中は何処に行ったか。恐らくは南下して近江の六角を頼っているであろうな。祖父を六角の手に渡すのは拙い。若狭に攻め込む大義名分を与えてしまうことになるではないか。六角は若狭の外戚になるのだぞ。
「伝左、其の方は俺の使いと称して六角左京大夫様の許を尋ねてくれ。御祖父様が其処に居るなら会いたい。いや、俺が迎えに行くとお伝えしてくれ」
「ははっ」
国吉城が安定すれば若狭の三方郡は俺の物も同然よ。国吉と熊川を押さえてある。石高は一万石くらいだろうか。動かせる兵数は四~六百だが、銭で雇うこともできるからもう少し多い。
千を動員できれば良いが、それは難しかろう。ああは言ったが三方郡の全てが俺の手の者が支配しているわけではないのだ。松宮清長など、くれぐれも刺激しないようにしなければ。
農兵と雇い兵。これは一長一短だと俺は考える。近年では銭で雇った兵の方が農繁期に動かせて便利だという意見を聞くが、そうとも限らないぞ。
銭で雇った兵は四六時中ずっと調練することで練度を高めることが出来るが、粘りが足りない。銭で雇われているから土地に対する執着が無く、形勢不利になると逃げてしまうのだ。
対して農兵は違う。父祖伝来の土地を奪われたくないから死ぬ気で戦う。文字通り死に物狂いだ。歴戦の古強者であっても、死に物狂いで来られると窮鼠猫を噛まれてしまう。
この農兵と銭で雇った兵の塩梅が大事と考えている。一例とするならば守備兵を農兵にし、他国への侵略に銭で雇った兵を用いる。これが今のところでは最良だろう。
話が逸れてしまった。戻そう。
「さて、若狭統一の足がかりが出来た訳だが、どうする?」
「拙者は上野之助殿と連携して三方郡の足場固めを行いまする」
堅実な十兵衛らしい。まだ三方郡には市川氏や一宮氏、畑田氏等の国衆や豪族が居る。彼等を懐柔して地固めをするのは正しい方針だ。で、あればよ。取り込むなら深く取り込みたい。
「分かった。そうだな……豪族から息子を預かるのは如何だ?名目は俺の小姓や近習として。どうだ?」
「それは妙案でございますな。その方向で進めましょう」
これは政に口出ししたことになるだろうか。内心、ドキドキしていた。それから十兵衛に頼みたいことと言えば酒蔵を作って欲しいという点だ。杜氏が必要なら源四郎に手配させよう。
そうだ。源四郎ですっかり忘れていた。源四郎には銭を借りていたのだった。返さねば利息が酷いことになる。恐る恐る十兵衛に尋ねる。これではまるで悪いことをした子供ではないか。
「十兵衛。すまぬがこの国吉に酒蔵を造ってくれ。幸いなことに此処から敦賀が近い。銭が稼げるぞ」
「酒蔵でございますか。何か案があるので?」
「勿論よ。俺を信じて欲しい。それから、だな。その、なんだ。銭を工面してはくれぬだろうか」
「銭を、でございますか?」
「何故かというとな。此度の戦で京極から援軍を借りたであろう。その支払いが源四郎にまだ残っておるのだ。でないと、父上に勝手に借銭をしたことをどやされてしまう」
わざとおどけながらそう告げる。そう言うと十兵衛はくすりと笑ってくれた。銭が無いことは頭を悩ますことではあるのだが、それ以上に城を奪えたことが嬉しいのだ。
「分かりました。国吉城の不要物を売って何とか工面いたしましょう」
「すまん。助かる」
十兵衛に頭を下げる。俺は十兵衛と主従ではなく盟友となりたいのだ。軽々に頭を下げている訳ではないぞ。
さて、あと考えねばならぬのは若狭の中央部である遠敷郡と西の大飯郡だ。
若狭は東が三方郡、中央の遠敷郡、西の大飯郡に分けられている。そのため、それぞれが若東、上中もしくは下中、若西などと呼ばれてもいる。小浜の湊は遠敷郡だ。そのため、遠敷郡の石高が一番高い。
国吉城は三方郡(若東)、父の住まう後瀬山城は小浜の湊の傍にあるから遠敷郡、そして砕導山城は大飯郡(若西)だ。そこで俺に妙案が浮かんだ。頭の中で考えを纏める。その考えとはこうだ。
祖父を逸見昌経が治める砕導山城に送る。砕導山城はその規模だけで言えば後瀬山城をも凌いでいるかもしれない。そして砕導山城は若狭国の西側、大飯郡に位置する。ここまで言えば俺が何を言いたいか分かるだろう。
つまり、中央の遠敷郡、西の大飯郡に新たな火種を産もうと考えているのだ。父と逸見氏が争っている間に俺は力を貯め、二氏が疲弊したところで一気に若狭を併呑するつもりなのである。
まあ、離間計よ。まあ、漁夫の利とも言うわな。
そのためには三好と六角にちょっかいをかけられないことが肝要である。これは一度、三好と話をつけるしかないな。しかし、流石にいきなり三好筑前に会える訳もないだろう。何処を切り崩すか。
それは松永しかあるまい。何せ丹波を切り崩さんと画策しているのが松永兄弟だ。これは渡りがつけやすい。
誰かを使者として立てねばならぬのだが、生憎と俺には十兵衛と上野之助、伝左の三人しか居らん。
「十兵衛、供をしてくれ。一度、後瀬山城に戻る」
「はっ」
「伝左、御祖父様のことを良しなに頼むぞ。あ、此処を発つ前に熊川城にいる大叔母上に会って御祖父様への言伝と文を貰ってから向かえ」
「ははっ」
少しずつだが滅亡を回避できる未来が見えてきた。あとは三好、松永、朝倉、浅井、六角がどれだけ横槍を入れてくるかだが、こればっかりは読めん。ま、なるようになるか。
【現在の状況】
武田孫犬丸 五歳(数え年)
家臣:熊谷直澄(伝左衛門)、沼田祐光(上野之助)、明智光秀(十兵衛)、逸見源太
陪臣:明智秀満(左馬助)、藤田行政(伝五)
装備:越中則重の脇差
地位:若狭武田家嫡男
領地:国吉城
特産:椎茸(熊川産)
推奨:なし
兵数:100
金銭:‐100
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