続・堀久の大冒険
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尾張に到着しました。御屋形様からは池田殿をお尋ねするよう言いつけられています。なんでも織田上総介様と乳兄弟なのだとか。なので、その言いつけ通りに池田殿を尋ねました。
確か、池田殿は以前に若狭の後瀬山城までいらしゃっていたのを覚えています。尾張の織田から使者が来たと城内でも話題になっておりました。
「池田勝三郎殿は御在宅でしょうや」
「何方様にございましょう?」
「私は武田伊豆守が家臣、堀久太郎と申します。御屋形様の命により池田勝三郎殿にお目通り願います」
「しょ、少々お待ちを」
下男が慌てて取次に行った。これで問題はないはずです。しかし、尾張にまで御屋形様の名は轟いているのでしょうか。これは少し鼻が高くなります。
程なくして三十前後の武者がやってきました。どうやらこのお方が池田勝三郎殿のようです。お見かけしたお姿そのままです。
「お待たせいたした。某が池田勝三郎にございまする」
「私は武田伊豆守が家臣、堀久太郎と申します。此方の方は徳栄軒信玄公の家臣、武藤喜兵衛殿に。織田上総介様にお目通り願いたく参上した次第にございまする」
武藤殿が小さく頭を下げました。池田殿は少し思案し、承知いたしたと手短に答えました。それから一室に案内されます。そして好きに使って良いと。どうやらお目通りいただくまでお時間がかかるのでしょう。
それまで暇ですね。折角なので尾張の街並みを見せてもらうことにしましょう。御屋形様も津島と熱田は良いと仰ってました。自分の目で確かめる良い機会です。
そして足を向けてみると驚きました。本当に栄えています。小浜に負けず劣らずの活気でした。小浜よりも平地が広い分、湊としての将来性はこちらが上だと思います。
ただ、小浜は京に近く、また明との貿易にも有用な立地です。御屋形様が最近は小浜の頭打ちに悩んでいた理由が少しわかりました。これ以上、拡張する土地がないのです。
だから早く敦賀を名実ともに奪いたいのですね。勉強になります。そんなことをしながらボーっとしていると、後ろから声をかけられました。
「何をしているんだ?」
「は?」
振り返ると、そこにいたのは私と同い年くらいの武者でした。その武者が五、六歳の男の子を連れている。身なりから察するに、良家の武者だと思われます。
「ああ、えっと、尾張に初めて訪れたので熱田と津島を見学に参ったのです」
「見ない顔だな。どこの者だ?」
「どこのもんだー!」
疑わしい目でこちらを睨みつけてきます。弱りましたね、別に怪しいことをしているつもりはないのですが。しっかりと自己紹介をすることにします。
「申し遅れました。私は堀久太郎と申します。織田上総介様にお目通りできればと思い、馳せ参じました」
「……そうか、上総介様に。俺の名は森傅兵衛だ。こっちは弟の勝蔵だ。上総介様にお目通りと申したが当てはあるのか?」
「ええ、まあ」
森家という家名を聞いたことがあります。確か、同郷の美濃の出で、齊藤氏に仕えた後、尾張の織田家に仕えている槍の名手が居ると。ただ、名までは思い出せない。
どうやら、その傅兵衛殿には織田上総介様に仕官しに来た者と捉えられているのでしょうか。まあ、それはそれで構わないのですが。
「御高名な森家の方でしたか。その名は私の暮らす若狭まで届いております。なんでも槍の名手だとか」
そう言うと兄の傅兵衛殿が誇らしげに胸を張りました。それを見て弟の勝蔵殿も兄の真似をし始めました。どうやら父親のことを尊敬しているようです。
「そうか、父上の名は畿内にまで轟いているのか」
二人が悦に入ってる間にこっそりと抜け出そうとしましたが、駄目でした。見つかってしまいました。そして二人が「案内してやろう」というのでお言葉に甘えることに。
それから津島や熱田を案内してもらいながら雑談に花を咲かせます。やはり尾張は大地が肥沃です。山がないのですから。遠くまで見通せるのです。
「今、何処に居るんだ?」
「池田殿のお屋敷に御厄介になっております。早く織田上総介様にお目通りできれば良いのですが」
「ああ、それならば俺の父上にも伝えておいてやろう。それで少しは早まるだろう」
「あ、ありがとうございます!」
「ただ、上総介様は此処には居らんぞ」
「え?」
「清洲城ではなく小牧山城にお移りなられたからな」
「小牧山城?」
それは知りませんでした。しかも居を移されたのは先年のことと言います。どうやら三河の一向一揆が落ち着いたので美濃の攻略に本腰を入れるのだとか。
これは良いことを聞きました。つまり、美濃攻めに手古摺っていると。確か、御屋形様の叔父にあたる足利義秋に一色との争いを停戦するよう、命じられていた気が。実現していないのでしょうか。
ただ、良い話を聞けました。これで塩の売買の目途が立ちそうでもあります。美濃と信濃は領地がつながってますから、圧力をかけやすい。つまり、信濃から助攻が出来るのです。
攻め込む姿勢を見せるだけでも兵を割かなければなりません。それだけでも織田上総介様の力になるはず。私はそう確信しています。
「良い話が聞けました。ありがとうございます」
「気にすんなって。俺とお前の仲だろ?」
「なかだろー」
いつからそんな仲になったのでしょうか。まあ、友は多い方が良いに違いありません。ここは甘んじて良い仲になっておきましょう。
それから池田殿の屋敷に戻り二日が過ぎたころでした。やってきたのは傅兵衛殿です。今日は小綺麗な格好をして神妙な面持ちで私と武藤殿を見つめます。
「堀殿、武藤殿。上総介様がお会いになるそうだ。某について参られよ」
どうやら傅兵衛殿は織田様の遣いとして池田殿の屋敷を訪ねてきたようです。直ぐに上総介様に会えるとのこと。これは僥倖でした。
「堀殿、先日は失礼いたした。其方が武田伊豆守様の使者とはつゆ知らず」
「いえいえ! 私が素性を明かしておりませなんだ。お気になさらず」
傅兵衛殿が私に謝罪します。私は気にしていないのだが、面子があるのでしょう。誤解させてしまったのは申し訳なく思います。
私は和解を済まし、ホッと胸を撫で下ろして傅兵衛殿の後についていったのでありました。
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