ただただ平謝り
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結構、感想で叩かれて痛い目を見たので、返事が滞ったりして申し訳ないです。
頑張って返せるよう、頑張ります。
永禄九年(一五六六年)五月 後瀬山城 武田氏館
俺が後瀬山城に帰ると藤と霞と文が俺を出迎えてくれた。藤の顔が膨れている。どうやらご立腹のようだ。この二人、仲良くやれていないのではないだろうか。いや、やれる訳ないか。
そして霞の両腕には稚児が眠っていた。どうやら生まれて間もない子のようだ。すやすやと寝息を立てている。こちらまで眠くなるような表情だ。
「おお、可愛いな。誰の子だ?」
思わず口から飛び出たこの一言が良くなかった。倒れる霞。それを支える文。危うく子を落としかけていた。藤は更に機嫌を損ねていた。一体、俺が何をしたというのだろうか。
「だ、誰の子なのだ?」
近くに居た藤の侍女である美代に小声で尋ねた。すると美代は大きな溜息を吐いてから俺に向かってこう述べた。
「御屋形様と霞様のお子にございます」
俺の中の時が止まった。は? 俺の子だと? 待て待て待て。今は五月か。十月十日遡るとおよそ津山城に籠もっていたときか。あー、うん、記憶にある。確かに致した記憶にあるぞ。
あれは確か、毛利と宇喜多の連合軍が津山城を攻めているとき、霞が不安になっていたので俺が夜通し慰めている内に、そういう流れになって、それでその、何度か致した記憶がある。あるぞ!
そこからというもの、俺は女性陣に対し平謝りである。これに関しては俺が一方的に悪い。罵詈雑言も甘んじて受け入れよう。霞には何とか機嫌を直してもらわねば。
「そ、それで男子かそれとも女子か?」
「……女子にございまする」
「そうか。そうか! いやー、それにしても何と目出度い! なあ、目出度いよなぁ!」
隣に控えていた近習の南条元清に声を掛けた。わざとらしく大きな声で。すると元清は何かを汲み取ったようだ。大きな声でこれに同意した。
「左様にございまする! 御屋形様のお子となれば、さぞやお美しい姫となりましょう!」
小姓、近習を交えての大よいしょ大会の開催である。それでも霞に機嫌を直してもらうのに半日も掛かってしまったのであった。
ただ、純粋に子が生まれたことは嬉しく思う。そうだ、名を付けなければ。どうやら俺に名を付けてもらうために待っていたと言う。それであれば素敵な名を用意してやらねば。
「では牡丹と名付けることにしよう。この娘は今日から牡丹だ」
立てば芍薬坐れば牡丹歩く姿は百合の花というではないか。なので、次に女子が産まれたら百合、芍薬と名付けよう。牡丹のように可愛らしい娘である。
「大変良い名をありがとうございまする」
「何を言う。我が子であるぞ。当たり前である」
俺はそう言い放つ。先程まで誰の子だと言っていた口が何を言うか。俺は自責の念に駆られる。そうだ、率先して牡丹の世話をすることにしよう。侍女や乳母よりも早く。
さて、この娘の未来を考えねばな。もし、霞との間に男子が産まれなかった場合、草刈景継の子に牡丹を娶らせよう。そして因幡国東部の統治を任せるのだ。
いや、牡丹を男子のように育てても良いかもしれない。今のところ、俺の子は牡丹だけなのだ。もし、藤に子が出来れば継ぐのは藤の子である。そこは家臣一同に厳命しなければ。
それにしても良かった。これで俺に種が無いとなればお家騒動の元である。どこかの秀吉のように。だが、子を授かった。逆算しても俺の子であることは間違いない。
家臣達がこの噂を聞きつけて俺の許に続々と集まってきた。言祝ぐためである。俺はそれの対処に四苦八苦である。そんな中、訪問客の中にある顔を見つけた。尼子勝久である。
「孫四郎! 息災であったか。大きな怪我を負ったと聞いたぞ。大事ないか?」
「御屋形様。お久しゅうございまする。そして申し訳ございませぬ」
そう言って大粒の涙を流す尼子勝久。どうやら彼もまた自責の念に駆られているようであった。彼の戦いぶりは見事だったと聞いている。毛利が一枚上手だった。それだけのことである。
「気に病むな。勝敗は兵家の常である。要は最後に勝てれば良いのだ」
勝久を励まし続ける。彼としても忸怩たる思いのようだ。明智十兵衛や沼田上野之助から薫陶を受けて、いざ実戦に臨んだら大敗である。いや、初戦の相手が悪かったというのもあるのだろうが。
それに上手く行き過ぎて調子に乗ったのだろう。初めての戦で舞い上がってしまうのは仕方のないことなのだ。責めるべきは補佐を任せた新見貞経である。初陣の将を諫められなかった罪は大きい。
彼には松江城改修の手伝いを命じることにする。山中鹿之助や宇山久兼から良い影響、良い刺激を受け取ってもらいたい。また、我らと尼子家の橋渡しとなるだろう。
本当は国替えの草案を考えたかったというのに、言祝ぐ者が途絶えぬ。武士だけでなく商人や神職の者も尋ねてきているようだ。勿論嬉しい悲鳴だ。
それが一通り落ち着いた頃、藤が俺の部屋を訪ね、そしてあからさまに枝垂れかかってきた。どうやら、当主の勤めをしっかりと果たさなければいけないらしい。夜はまだ長そうであった。
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